ぎりぎりまで現場でもがく 俳優・大杉漣さん
映画「蜜のあわれ」主演
日本映画の名脇役が久々に主演した。石井岳龍監督「蜜のあわれ」(4月1日公開)。室生犀星の晩年の幻想小説の映画化で、金魚に懸想する老作家の役だ。
北陸の撮影現場の片隅で64歳のベテラン俳優は独りセリフを稽古していた。「器用な俳優じゃないから」。現場に入る前に役を作り込まず、セリフはしっかり覚える。現場に立ってセリフを繰り返し、言い回しや身ぶりをぎりぎりまで探る。「刑事が現場百回なら役者はセリフ百回」と笑う。
「言葉を身体になじませる。セリフは身体を通した時、初めてリアリティーとして届く」。自らの原点である転形劇場の太田省吾の演技論を、愚直に励行する。「努力しないとできない。そういう質の俳優です」
金魚役の二階堂ふみの度胸に「すごいな」と思った。
「重要なのはキャリアじゃない。42年も俳優をしているけど、行き着くところがない。いつも新しい課題がでてくる。それを背負うこと、考え続けること。それが自分の仕事だと思う」
老作家の妄想の物語。「さらけ出してしまう潔さ、少年のようなチャーミングさに共感した」というが、俳優としての目標も「精神も身体も裸形にする」こと。
「役者は『やる』ことに懸命になるが、何かを捨てる作業がないと、『いる』ことには行き着けない」
「表現は削(そ)いでいくもの。そのために色々なことをやりすぎるくらいやる。そうすれば逆の方に行ける」
数百本の映画に出て、様々な監督と出会ったことで、今の自分があるという。
「現場にいることがすなわち生きること。現場に入る時のドキドキ感が好き。落ち着いてわかったような風情になるより、もがきたい。あたふたしていたい」
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。