寝酒がダメな理由

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/4/5

医療を要する依存症患者は国内に約100万人

【ケース3:長年の愛飲家。健康診断で肝機能異常を指摘される】

毎晩の晩酌を欠かさず、検診で肝機能異常が見つかり、節酒を強く指導されるレベルの愛飲家の場合、簡単には晩酌生活から足抜けできなくなっている。なぜなら「休肝日」を設けようにも、先に述べた離脱症状が強烈に出て苦しむからである。食欲がない、集中できない、イライラして家人に当たってしまう、チェーンスモーキング、眠れない、寝汗をかく、などなど。このような医療を要するレベルのアルコール依存症患者は、日本国内で100万人を突破したと言われている。

アルコール依存症の段階に至った人では、催眠作用はおろか、徐波睡眠は大幅に減少して熟眠感が乏しく、中途覚醒や早朝覚醒も増えるため、さらに酒量が増える悪循環に嵌まっている人が大部分である。しかも、このような睡眠構造の変化が長期間続くと、その後に禁酒してもなかなか改善しない。そのため不眠が苦痛で飲酒を再開してしまうケースも少なくない。

このステージでは節酒・禁酒も慎重に行う必要がある。休肝日にリバウンドによりレム睡眠が急増し、ストレスとも相まって悪夢を見ることも多い。また、夢遊病(睡眠時遊行症)、大きな寝言、ひどい歯ぎしりなどのほか、動悸や不安を伴うパニック様発作で飛び起きる人もいる。

アルコール依存症の人が「酒も飲めなくなるほど」体が弱ると、断酒後数日から1週間くらいで「振戦せん妄」が生じることがある。振戦せん妄に陥ると、頻脈、発汗、意識混濁に加えて、極度の興奮や小動物幻視(天井から虫やネズミが落ちてくるナド)のために大暴れすることがある。時には恐怖感から自殺を企てることすらある。振戦せん妄は最重度のアルコール離脱症状群で、適切な医療を行わないと死に到ることもある。

さて、最後は怖いお話になってしまったが、今回のお話の主旨は「寝るために飲む酒(寝酒)はダメ」。睡眠薬代わりにデキの悪い睡眠薬を服用することの不合理はご理解いただけたと思う。

一方で、アルコールが睡眠に及ぼす影響には大きな個人差があることとも事実である。日々寝酒でも快適睡眠という幸運な人もいる。ご自身の飲酒と睡眠の関係を見つめ直して、今後の晩酌のあり方に生かしていただきたい。

ちなみに、「ほぼ日々節度ある晩酌、時に踏み外す」私は焼酎の薄~い水割りをチビチビやりながらこの原稿を書き上げた。そして、そのまま寝床に向かいます。おやすみなさい。

(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年2月4日付の記事を再構成]

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著者:三島 和夫
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:1,512円(税込み)

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