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個性競う学校制服、値上げの春

2016/3/27

売り場で制服を選ぶ生徒(東京都中央区の三越日本橋本店)

初々しい新入生を包む学校制服が値上げの春を迎えている。価格破壊が進んだ一般アパレルとは正反対の動きとなる。その底流にあるのはガラパゴス化した業界構造だ。

「自分の頃とは違ってすごくかわいいけど……高い。スカートも選べたりしてびっくりする」。この春、娘が首都圏の高校に入学する女性は、進学を喜びつつもその値段に驚いた。夏冬一式そろえ、およそ10万円かかったからだ。

制服生産の中心地岡山県に本社がある菅公学生服、トンボ、明石スクールユニフォームカンパニーの大手3社は今春、一斉に値上げに踏み切る。およそ5~10%程度の値上げになるようだ。「10年ぶりの値上げ。こらえてきたが限界だった」(明石スクールユニフォームカンパニー)という。素材や物流費の高騰が直接の原因だが、この数十年でみても価格が下がらない背景には特殊な業界事情がある。

■生徒獲得の目玉に

制服は高度成長期に画一の詰め襟、セーラー服が大量生産され全国に普及した。その後ブレザーが登場し、バブル期のDCブランドブームなどを経て、ここ数年顕著になってきているのが「より多機能に、より学校ごとの個性を追求する」動きだ。

例えば一見普通の詰め襟でも、アイロン不要のズボンや軽量化など進化を遂げている。制服市場に参入したミズノの機能性学生服は上下で約4万5千円する。ブレザーではセレクトショップの「ビームス」デザインの制服も登場。「学校の個性に合ったコーディネートを提案したい」(菅公学生服)という。

こうした動きは学校側の意向にも沿う。少子化の中で制服を生徒獲得の手段にする傾向が強まっているためだ。私立はもちろん、かつて学園紛争の中で制服を自由化した都立高校でも制服を復活する動きが相次いでいる。「制服がないと私立との競争の中で優秀な生徒を獲得できない」と関係者は漏らす。実際、千葉県立小金高校は制服を復活して受験者が急増した。

制服が進化すれば生産負荷は増していく。「チェックスカートの種類も数年前は1700くらいだったが今は1900はある」と、ある工場長はため息をつく。制服は合格から入学までの期間が短いことなどから、ほぼ国産だ。少ない子どもに多種類の制服を届けようとすれば海外生産の可能性はより遠のく。そして価格は下がらぬままとなる。

少子化という環境変化の中でもがく学校やメーカーの「努力」の結果できあがった日本の制服は、世界でも類を見ないほど高品質で独自性を持っている。ただし、それが消費者にとって必ずしも利益になっていないかもしれない。

■家計の負担重く

「夏服と冬服1枚しか買えず洗濯に苦労している人がいて支援しようと決めたんです」。長崎市でフリースクールを運営する中村尊さんは今年、使わなくなった制服を譲り合う「制服バンク」を設立した。「困窮家庭だけでなく、普通の家庭でも制服を負担に感じる人が増えている」と中村さんは感じている。

経済的に困難な小中学生の家庭に制服や給食などの費用を支給する「就学援助制度」の利用者は約150万人。約20年でほぼ倍になった。詰め襟は兄弟や知人間で受け継げば負担を減らせるが、最近は地縁の薄れなどでそうした恩恵を受けにくい状況も生じている。独自に進化したブレザーはさらに譲渡が難しい。

現代につながる学校制服の始まりは1879年の学習院の詰め襟採用だとされている。制服の歴史に詳しいお茶の水女子大学の難波知子氏は「華族と庶民の貧富の差を隠すことが第一目的だった」と話す。制服は余裕がある家庭も、ない家庭も必ず買わなくてはいけない特殊な服だ。過度な進化が購入のハードルとなるならば、本末転倒といえそうだ。

   ◇    

■「廃止なら私服代で余計に金かかる」 メリットを挙げる声も多く

短文投稿サイトのツイッター上では、「制服高いな。本当はもう少しシャツ欲しいとか思ったけど、言えなかったよ」「制服の買い替えのためにお母さんがパートを増やさなきゃいけないとか、そういう想像力を持ってほしい」「高い……公立でこんなにしちゃうと新品買えない人もいるよね。そもそも制服っているのかなぁ」など値段の高さを指摘する声が多かった。

一方で「制服廃止なんかしたら私服代で余計に金かかるし服がダサいってイジメられるに決まってんだろ」「3年着るんだから当然かな」など制服のメリットを挙げる声もあった。さらに「今しか着れないレア度高い」「私服とかめんどくさすぎて制服大好き」という声も多かった。

多くの人が一度は袖を通す制服にいろんな思いがあるようだ。主な調査はホットリンクの協力を得た。

(福山絵里子)

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