頭頸部がんの実力病院 機能温存の治療探る(日経実力病院調査)

頭頸部がんの手術をする国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)
頭頸部がんの手術をする国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)

頭頸部がんは顔から首のがんの総称だ。喉や口内など、できた場所によって症状や治療法は大きく異なる。生きるために重要な器官が集中し、治療では生活の質(QOL)への影響を極力減らす必要がある。調査では患者の希望に応じ部位を温存し、取り去ったところは再建する治療が進んでいることが分かった。

社会生活に直結、切除は患者の意志尊重

頭頸部には耳や鼻、喉、口が含まれる。国立がん研究センターの推計によると、頭頸部で代表的な口腔(こうくう)がんと喉のがん(咽頭・喉頭がん)を2015年に発症したのは計約2万4千人。がん患者全体の約2%で胃がんなどに比べると少ないが、呼吸や食事、発声など生命維持や社会生活にかかわる部位だ。罹患(りかん)すると腫れや痛み、出血だけでなく、飲み込みにくい、声が出にくいという症状が表れ、QOLが著しく低下することになる。

咽頭は鼻の奥から食道の上まで。上中下に分かれ、食べ物と空気の通り道になる。喉頭は咽頭から枝分かれし、喉仏の裏の声帯を経て気管につながる。

今回の調査で「手術あり」が190例と九州地区トップだった九州大病院(福岡市)の中島寅彦准教授は「中咽頭や下咽頭、喉頭のがんは50歳以上の男性に多く、飲酒や喫煙が発症に大きく影響する」と指摘する。中咽頭がんは子宮頸(けい)がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)が関係するタイプが増えており、全体の約50%を占めるとの報告もあるという。下咽頭がんは食道がんを併発する場合も少なくない。

頭頸部がんの治療方針を話し合うカンファレンスの様子(福岡市の九州大学病院)

治療では▽放射線治療と抗がん剤を併用した化学療法▽手術▽それらを組み合わせる――のいずれにするかを患者それぞれの状況に応じ判断する。抗がん剤は主にシスプラチンのほか、がんを狙い撃ちする分子標的薬のセツキシマブが使われている。比較的早期に発見され、がんが表面にとどまっている場合は内視鏡などで部分的に切除できる。進行したときは首の周囲を切開するなどして、がんを取り出す。

特に進行した下咽頭がんではがんを完全に取り切るために喉頭も切除する。食べ物の通り道を作り直すため、小腸の一部を移植する大規模な再建手術を行う。術後は首に開けた穴から呼吸する。失った声を取り戻すには、声帯の代わりに食道を振動させて声を出す「食道発声法」などの訓練が必要だ。

早期なら根治も

一方、幼い頃に感染することが多いEBウイルスが関係するとされる上咽頭がんは「脳に近い鼻の奥にできるため手術は難しく、抗がん剤や放射線による治療が主体」(中島准教授)。

早期発見なら機能を温存し、根治できる可能性は高い。九大病院は患者本人の考え方を重視して治療法を決定しているという。頭頸部外科だけでなく、内科や放射線科など診療科や専門医が多い病院の方が、患者が治療する上で選択肢の幅が広がる。

一方、発症者が年間7千~8千人前後とされる口腔がんは舌にできる場合が最も多い。原因は喫煙や虫歯、口内の不衛生、合わない入れ歯による刺激が挙げられ、高齢化に伴い患者数は増加傾向にある。

今回の調査で「手術あり」の全国トップは国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の421例。林隆一副院長(頭頸部外科長)によると、舌がん治療は外科手術が中心。腫瘍の大きさなどに応じて舌の部分切除か全摘出を選ぶことになる。進行がんでも切除範囲を患者ごとに細やかに決定し、できる限り舌を温存しながらがんを摘出しているという。

全摘出や半分切除の場合、食事や会話は困難になる。このためおなかの筋肉や腕の皮膚などを移植する再建手術を行う必要がある。林副院長は「患者の性別や年齢に沿って用いる部位を変えるなど、極力QOLを下げないよう努めている」と話す。

耳や鼻にも… 手術には工夫必要

日本頭頸部癌学会などによると、発症頻度は少ないが、がんは鼻や耳などにもできる。

鼻の周囲にある副鼻腔(びくう)では上顎がんが代表例。ほおの奥の上顎洞という副鼻腔にがんができ進行すると周囲を圧迫、顔の痛みや上顎の腫れが出る。副鼻腔は目や脳などと接し、顔の構造にも関わるので手術には工夫が必要だ。一般的に放射線や抗がん剤、がんの切除手術を組み合わせる。

唾液腺のうち、耳の下の耳下腺にがんができる場合もある。腫れや顔面神経まひが出る。治療は切除手術が中心。がんが食い込んだ顔面神経の一部を切断した場合は、神経移植をする。

喉仏の下にある甲状腺がんも頭頸部がんの一つ。右葉と左葉に分かれ、基本的にがんが一方のみで小さいときは片側を切除する。がんが大きい、両方にあるといったケースは甲状腺を全て摘出する。国立がん研究センターの推計によると、甲状腺がんの10年生存率は約9割で、発生部位の中で最も高い。

調査は(1)症例数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、インターネット上の公開データから抽出して実施した。
▼診療実績 厚生労働省が2015年11月に公開した14年4月~15年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1584病院のほか、導入準備中やそれ以外も含め全国の計2942病院を対象にした。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
▼運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の前に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
▼施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目などを比べた。15年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
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