卵巣がんの実力病院 手術と抗がん剤併用(日経実力病院調査)

初回の手術で目に見える腫瘍の全切除を目指す(津市の三重大学病院)
初回の手術で目に見える腫瘍の全切除を目指す(津市の三重大学病院)

卵巣がんは自覚症状が出にくく、発見時には転移していることが大半だ。抗がん剤が効きやすい一方、再発率は高い。日本経済新聞の「実力病院調査」では進行がんはまず抗がん剤で腫瘍を小さくし、手術で摘出するなど患者の体の負担を減らそうとする取り組みが目立った。がん細胞を狙い撃ちし、再発までの時間を延ばすとされる分子標的薬も普及しつつある。

国立がん研究センターによると、2015年に新たに卵巣がんと診断されたのは推定1万400人だった。乳がんや子宮がんに比べ発症者は少ない。ただ同年で卵巣がんで死亡したのは推定4800人。完治が難しく、死亡率が高いがんの一つだ。40代から増え、50~60代が最も多い。

初期の発見難しく

卵巣がんは初期の自覚症状がなく、腹部が腫れるなどして受診する人が多い。6割以上はがんが広範に転移した状態で見つかる。手術で取り切るのは難しく、抗がん剤など化学療法を併用する。4つの組織型に分けられ、進行が早い「漿液(しょうえき)性腺がん」が4割以上を占める。

調査で「手術あり」が173例、「手術なし」が592例でともに最多だったのはがん研究会有明病院(東京・江東)。患者の負担を抑えるため、腹腔(ふくくう)鏡でがん細胞を採取して組織型を調べる「審査腹腔鏡」を取り入れている。

腹水を針で採取しがんを調べる方法もあるが、正確な診断は難しいという。開腹して調べると体調が戻るのに1~2週間かかる。竹島信宏婦人科部長は「腹腔鏡を使えば翌日に歩けるようになるほど負担が軽く、抗がん剤治療にも早く移れる」と利点を話す。

同病院は進行がんではまず抗がん剤を投与し、がんを小さくしてから開腹手術で切除するケースが多い。先に手術しても転移がんまで全て取り除くのは難しいという。

転移などの情報を共有し、最適な治療法を検討する(東京都江東区のがん研究会有明病院)

卵巣がんは抗がん剤が効きやすく、術後はパクリタキセルとカルボプラチンを併用する「TC療法」が基本だ。症状などに合わせ3週間に1回、あるいは毎週投与する。

外来でも治療できるが、「手術なし」が全国有数の396例だった三重大病院(津市)は通院時間が長い患者も多く、9割以上が入院を選ぶ。アレルギーが出やすい抗がん剤があり、産科婦人科学教室の田畑務准教授は「呼吸が止まる恐れもあり、入院治療の方が安全な場合もある」と話す。

手術でがんを取り切れなかった患者の8割は、抗がん剤で腫瘍がいったん縮むという。このため再手術でおおむね切除できる。ただ再発が多いのも卵巣がんの特徴で、病期が3期以上では6~7割は再発する。

分子標的薬も活用

再発時は初回治療の終了後6カ月以内か、それ以降かで抗がん剤を使い分ける。6カ月以内の再発で腫瘍が縮むのは一部だ。田畑准教授は「完治を目指すのではなく、病気とうまく付き合うことも大切」と指摘。抗がん剤を使って長く充実した生活を送るという考え方で臨むよう助言する。

がん細胞への栄養供給を絶つ効果があるとされる分子標的薬「ベバシズマブ」も積極的に使われている。卵巣がんでは13年に承認され、再発までの期間を延長させる効果がある。「手術あり」の症例数が上位の東北大病院(仙台市)は抗がん剤と併用。高血圧などの副作用に注意して血圧や尿たんぱくの数値を確認しながら投与する。

昨年からがん細胞が持つ免疫抑制機能を解除する治療薬「抗PD―1抗体」の臨床試験に参加。若い患者が手術後に妊娠機能を温存できる方法の研究などにも加わっている。新倉仁婦人科長は「患者の生活の質も重視しつつ、化学療法と手術をうまく組み合わせて長期生存を目指したい」としている。

他のがんより高い遺伝的リスク、予防切除も選択肢に

卵巣がんは近親者にかかった人がいる場合、発症確率が高くなる。遺伝子検査などについて説明する専用窓口を置く病院があり、予防摘出手術も行われている。

卵巣がんは5~10%が遺伝的要素で発症するとされる。遺伝性のものには特定の遺伝子が変異し、発症リスクが高まる「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」がある。米人気女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳房や卵巣を切除し、関心が高まった。

東北大病院は昨年、遺伝子診療部を開設。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが婦人科医と連携し、検査の精度や家族への心理的な影響などを説明する。「正しい知識を伝え不安を軽くする」(婦人科の新倉仁医師)のが狙いで、遺伝子検査の希望があれば実施病院を紹介する。

がん研究会有明病院は2011年に卵巣の予防的切除を全国に先駆けて始め、2月末までに29例実施した。ただ保険適用外で費用は遺伝子検査が約30万円。さらに入院手術に約75万円かかり、子宮も切除すると100万円になる。「異常がある」と判断しきれないケースもある。

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日本経済新聞は公開データを基に実施した「実力病院調査」で、卵巣がんのほか、急性白血病、頭頸(けい)部がん、大腿部骨折についても分析し、22日公開した。

◆急性白血病の実力病院 高齢者へ「ミニ移植」広がる

◆頭頸部がんの実力病院 機能温存の治療探る

◆大腿部骨折の実力病院、手術24時間体制で

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調査は(1)症例数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、インターネット上の公開データから抽出して実施した。
▼診療実績 厚生労働省が2015年11月に公開した14年4月~15年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1584病院のほか、導入準備中やそれ以外も含め全国の計2942病院を対象にした。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
▼運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の前に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
▼施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目などを比べた。15年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
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