ゲームで白熱の戦い 「eスポーツ」日本選手権大会
コンピューターゲームをスポーツに見立てた「eスポーツ」。世界に比べて遅れているといわれてきた日本でも徐々に人気が高まってきた。東京都江東区で3月12、13日に開かれた「第1回日本選手権大会」。東京と大阪の地方予選とオンライン予選、開催当日の決勝会場予選を勝ち抜いた全国のゲーマーたちが戦った。予選と決勝大会を通じ350人の選手が参加、2日間で延べ1000人以上の観客を集めた。動画配信で10万人の視聴者が観戦した。熱気あふれる大会会場を取材した。
eスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」の略。ガンシューティングやサッカー、格闘など競技性の高いゲームで勝負を争う。海外の規模の大きい大会は予選はネットワーク上で対戦、決勝大会はスタジアムに集まった観客の前で実際に選手が出場して行われる形式が多い。
12日正午過ぎ。会場の豊洲PITの入り口にゲームの選手たちが続々と来場する。午後1時半から開会式が始まった。今回の大会を主催するのは日本eスポーツ協会(東京・渋谷)。2015年4月に発足した。17年にトルクメニスタンで開催予定のアジア室内競技大会への参加を目指しており、その前提となる日本オリンピック競技会(JOC)への加盟を目指している。
「第1回日本eスポーツ選手権大会の開会を宣言します」。日本eスポーツ協会の平方彰専務理事が開会を宣言した。競技はガンシューティングゲーム「カウンターストライク:グローバルオフェンシブ」、スポーツゲーム「FIFA 16」、格闘ゲームの「ギルティギア イグザード サイン」の3種目。ほかにオープン種目として2ゲームの大会が開かれた。同協会の浜村弘一理事(カドカワ取締役)は「eスポーツは世界中で大きな盛り上がりをみせている。第1回の大会を契機に大きなイベントになってくれるのを期待している」と明るい表情だ。
会心のプレーに客席から沸き上がる歓声、プレーヤーのガッツポーズ――。会場内が5つの競技場に分かれ、それぞれのゲームの腕前を競う。ゲーム画面は大きな画面に映し出され、実況と解説がつく。さながら本物のスポーツ観戦のようだ。実況や解説者の声のトーンも上がっていく。
2日目。各種目の準決勝、決勝戦が始まると会場は一段とヒートアップ。場内を回って観戦していると「うまい人は姿勢がいいでしょ」。背後から東京大学大学院の馬場章教授が話しかけてきた。「よく、『ゲームをやっている人は姿勢が悪い』といわれるが、全然違うんですよ」。確かに背筋をピンと伸ばして、マウスとキーボードを巧みにあやつる姿は本当にかっこいい。馬場教授はゲームの経済効果についても「IT産業に対して大きなインパクトを与えるだけでなく、衣料やマスコット、キャラクターのグッズにも効果が及ぶ」と説く。
実際、東京・秋葉原でゲーム用パソコン専門店が続々オープンするなど、eスポーツの盛り上がりはパソコンビジネスにも好影響を与えている。この大会ではパソコン店のドスパラ(東京・千代田)が展開するゲーム用パソコンのブランド「GALLERIA」が協賛し、イベントに50台以上のゲーム用パソコンを提供した。「1台10万円を下回る手ごろな価格の機種もあり、売れ行きは好調」と担当者は話す。
優勝賞金はチーム戦の「カウンターストライク:グローバルオフェンシブ」が25万円、個人競技のほかの2種目が10万円。「ギルティギア イグザード サイン」で優勝した「どぐら」選手は「僕のような凡人でもゲームでここまでできた。みんなもできると伝えたい」と興奮気味。「FIFA16」で優勝した「じぇー」選手は「サッカーゲームは頭を使うスポーツとして考えている」と話した。
閉会式では15年12月の米国の大会で日本人選手として最高額である約1500万円の賞金を獲得した「かずのこ」選手が特別表彰された。eスポーツの競技人口は世界で1億人以上。15年にシアトルの競技場で開催された大会の賞金総額は22億8000万円。韓国ではプロリーグも存在し、選手もアイドル化している。諸外国に比べ日本はまだまだ始まったばかりという印象だ。日本eスポーツ協会の西村康稔会長は「会場でものすごい熱気を感じた。来年のアジア大会に向けて手応えを感じた」と話す。ゲームそのものの盛り上がりがビジネスと歩調をあわせれば大きなブームとなる可能性を感じた。(村野孝直)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。