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MBAはこう使う!

「星のや東京」支えるのはMBAで鍛えた知的体力 星野リゾートプロジェクトプロデューサー 馬場義徳氏(下)

2016/4/4

7月に東京・大手町にオープンする日本旅館「星のや東京」のプロジェクトを指揮する馬場義徳氏。星野リゾートへの転職は経営学修士(MBA)取得が大きなきっかけになった。キャリアストーリーの後半は、ビジネススクールでの学びを通じて仕事への考え方がどう変わったのかを語る。

■授業を受け、経営陣の考え方が理解できるようになった。

当時の西武グループでの仕事は、ビジネススクールで学んだ知識をすぐに使えるような仕事ではありませんでしたが、新しい経営陣や投資家が何を言っているのかが理解できるようになりました。これは私の中で起きた大きな変化でした。

例えば、それまでは、ファンドや投資家は金儲けのことだけしか考えない人たちだと思いこんでいましたが、実際にはそうではなく、世の中には、一定期間内に投資した分だけ回収しなくてはいけない性質のお金があって、ファンドはそのお金を投資家から預かって仕事をしているにすぎず、経営判断もそれに基づいたものだということが理解できるようになりました。

また、授業で学んだ知識や考え方の中には、現在、仕事をする上で非常に役立っているものも結構あります。

その1つがリアルオプションです。細かい説明は省きますが、要するに、リアルオプションの考え方を応用すると、意思決定の柔軟性が高まります。例えばプロジェクトをすすめるにあたり意思決定する際に、情報が少ない中で大きなリスクを抱えて大きな投資判断をするよりは、少しの調査費用をかけてリスクを明確にしてから実施の判断をするほうが、そのプロジェクトの価値を上げることができます。このような選択肢(オプション)を持つことでプロジェクトを推進していくことができます。

例えばリゾート開発なら、温泉が出るか出ないかわからない状況で、温泉を掘る意思決定をするというような場合に応用できます。ただ、星のや東京の場合は、都内で掘れば温泉が出ることが調査済みでしたので、この考え方は使いませんでした(笑)。

■2008年3月に卒業。同年7月に星野リゾートに転職した。

一橋ICSで経営を学びながら思ったのは、やはり本当にお客さんに喜んでもらえる施設を作るには、実際に作り始める前の、より川上の部分からプロジェクトにかかわらないとだめなのではないかということでした。そもそも西武建設に入ったのも、人の喜ぶ空間を作りたいから。ところが、西部グループは再建途上で大きなプロジェクトは期待できない。だったら外に出る選択肢もあるかなと考えました。

指導教官で現在はインテグラル代表取締役の佐山展生先生に相談したところ、ヘッドハンターを紹介され、そのヘッドハンターから紹介してもらったのが、星野リゾートでした。日本経済全体が元気のない中、積極的に事業展開していた星野リゾートは、非常に魅力的でした。でも、私はたまたま軽井沢で仕事をしていたので知っていましたが、当時は、全国的にはほぼ無名の企業。妻に話したら、反応がありませんでした。

入社してすぐ、プロジェクトを任されました。最初の担当は「星のや京都」。ちょうど図面が仕上がる段階で、「これから建物の解体を始めるから、後はよろしく」と言われ、入社翌日に現地を見に行きました。

星野のプロジェクトの進め方は独特です。前の会社では、1つのプロジェクトに何十人という社員がかかわり、手順を踏んで進めて行きましたが、星野では、基本的にプロジェクトリーダーが一人でやり、必要なら社内外からリソースを借りてくるという手法です。プロジェクトリーダーは、権限が非常に大きい半面、デザイナーの選定から金融機関との交渉、契約書の作成まで、すべて一人でやらなくてはならない。それだけ責任も大きく、力量も問われます。一人の人間がマルチタスクをこなす、ベンチャー精神にあふれた会社とも言えます。

マルチタスクをこなす上で、MBAの肩書きが物を言う時もあるます。例えば、金融機関の人たちと話をするような場合、一級建築士の肩書きだけだと、相手から「あなたは交渉のライトパーソンではない」と思われてしまう可能性があります。MBAの肩書きもあれば、相手の信頼感を得ることもできるし、もしかしたら、「侮れない相手」という印象を相手に抱いてもらえるかもしれません。

■星のや東京の開業まで半年を切った。

星のや東京のプロジェクトは、三菱地所に電話し、「はじめまして、星野リゾートと申します。私たち、東京に日本旅館を作りたいのですが、お話を聞いていただけないでしょうか」というところから始まりました。なぜ大手町でホテルではなく日本旅館なのか。そこを納得してもらうことが最初の仕事でした。

そんな時に思い出したのが、佐山先生の授業です。先生の授業の中に、経営者を教室に呼んで話を聞く授業がありました。日本を代表する著名な経営者たちから、事業を成功させるには、経営者としての覚悟や、何としてもやり遂げるという気迫や迫力、相手に対する押しの強さが非常に大切だということを学びました。私も、三菱地所の担当者の方を相手に、「一緒に大手町に旅館街を作りましょう」などと、かなり熱く語りました。

プロジェクトのコンセプト作りでは、大手町にどう旅館を成立させるかがポイントでした。ホテルは公共の空間とプライベートの空間が明確に分かれていますが、旅館は浴衣のまま館内や街の中を歩けるなど、公共とプライベートの空間が互いに緩やかにつながっています。そんな日本旅館の良さをどう表現するか。とことん考え、悩みました。

そこでも助けとなったのは、一橋ICSでの経験でした。一橋ICSの金融戦略・経営財務コースは、「金融における知的体育会系の人材の育成」を標榜しています。人間というのは、自分も含め、考えることが面倒くさくなると、つい考えることを放棄したくなるものですが、そこで踏ん張り、最後まで考え、自分で答えを出すことが大切だという教えです。時には考えても答えにたどりつかないこともありますが、それでもあきらめずにとことん考える。そうやって生み出されたのが、星のや東京だと思います。

現在は、開業準備チームに少しずつ業務を引き渡し始めたところです。次の担当プロジェクトも、すでに海外を含め、いくつか候補が上がっています。これからは、星のやのおもてなしやホスピタリティーの文化を世界展開していきたいと思っています。また新たな挑戦です。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー2016年2月8日付]

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