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東京・大手町のオフィス街に7月、星野リゾートが運営する日本旅館「星のや東京」が開業する。訪日観光客が急増する中、東京の新たな観光名所の呼び声も高い。この注目の開発プロジェクトを手掛けたのが、一級建築士にしてMBAの資格を持つ、星野リゾートの馬場義徳プロジェクトプロデューサー(41)だ。「『星のや東京』は、MBAで鍛えた知的体力の賜物」と馬場氏は語る。

早稲田大学大学院で建築工学を修め、西武建設に入社した。

子供のころから手を動かしたりデザインを描いたりするのが好きで、大工になるのが夢でした。それで早稲田大学工学部建築学科に進んだのですが、在学中に早くも、デザインで食べて行くことはあきらめました。

世の中にはデザインの得意な人が大勢いることがわかったのです。みな、相当な覚悟でデザインの勉強をし、才能もある。彼らと同じ土俵で戦っても勝てないなと直観しました。

代わりに興味を持ったのが、プロジェクトマネジメントです。大学院時代に、大手不動産開発会社主催の大学対抗デザインコンペがあり、私たちの研究室もチームを作って応募したら、全国で2位になりました。作品を作る過程では、技術的な部分は他のメンバーにまかせ、私自身はコンセプトを作ったり作業全体の調整をしたりするまとめ役をやったのですが、それが非常に楽しく、醍醐味を味わいました。

また大学時代には当時、大きな問題となっていた、混雑するスキー場でのスノーボーダーとスキーヤーの衝突事故を減らすため、リフト乗り場や滑走コースを建築工学の視点から研究しました。こちらは、NHKテレビのニュースでも取り上げられました。

就職は、縁があって西武建設に入社。1年目から大学の研究を活かしスキー場のゲレンデの改良の仕事など面白い仕事をいろいろと任せてもらいました。

後には、神奈川県にある八景島シーパラダイスの「ドルフィンファンタジー」にプロジェクトリーダーとしてかかわるなど、プロジェクトマネジメントの経験も徐々に積んでいきました。

2004年、西武グループの中核会社、西武鉄道が、証券取引法違反事件で上場廃止に。キャリアの転機が訪れた。

経営再建のために、ファンドや金融機関の人たちが乗り込んできて、彼らのロジックで物事を推し進め始めました。それまでの会社の経営のロジックとはまったく違うもので、一部納得できるものもありましたが、共感できない面も多々ありました。例えば、世の中には投資家という人たちがいて、会社は利益をその人たちに還元しなくてはいけないと言われると、「従業員を何だと思っているんだ」と心の中で反発したりもしました。

ただ、同時に、彼らのロジックや考え方に単純に興味も抱きました。経営を学べば、彼らの言っていることを理解できるのではないか。それがMBAを取ろうと考えたきっかけの一つでした。

もう一つのきっかけは、グループを名実ともに引っ張ってきた会長の逮捕で、開発案件が減り、結果的に時間に余裕が生まれたことです。このまま大した仕事も経験せずに10年間無為に過ごすよりは、この機会を充電期間に充てようと考えました。MBAを目指したのは、わりと気軽な動機だったのです。

たまたま大学時代の友人が一橋大学で教鞭をとっていて、彼から一橋大学にもMBAコースがあると教えられ、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(一橋ICS)の金融戦略・経営財務コースを受験しました。正直、金融工学に関心があったわけではありませんでした。まさに、縁です。何の金融の知識も持ち合わせていないのに入れたのは、ゼネコン出身ということで、珍しがられたからだと思います。

こうして、働きながらビジネススクールに通う生活が始まりました。授業はすべて平日夜。最初の授業が午後6時40分からで、1コマ、あるいは2コマ受けた後、夜中過ぎまで家で勉強。3時間ぐらい寝て起きて、また勉強し、それから出勤するという毎日でした。とくに水曜日は、軽井沢で仕事があったので、早朝、新幹線で軽井沢に向かい、仕事が終わったら午後4時20分の新幹線に乗り、車中で勉強し、それから授業に出るという強行スケジュールでした。

授業は日本語なのに、何を言っているのか理解できなかった。

クラスメートは、大半が金融機関か投資会社の社員。事業会社の人も金融関係の部署で働いている人ばかりで、少なくとも簿記や会計の知識は持っていました。私だけ、場違いという感じでした。

例えば、金融の専門用語でEBITDAマルチプルというのがありますが、最初、何のことかさっぱりわかりませんでした。たまに、EVとか見たことのある単語が出てきて、おっと思うのですが、私の知っている意味と違いました。EVは建築用語ではエレベーターのことですが、金融ではエンタープライズ・バリューの意味。EPSは、建築の授業ではエレクトリック・パイプ・スペースと習ったのですが、金融では、アーニングス・パー・シェア(一株当たり利益)のこと。そんなのばかりで、まず言葉の意味を調べるところから始めなければなりませんでした。

それでも何とか授業に付いて行けたのは、チームワークのおかげだと思います。科目ごとに、自発的に5、6人ぐらいのチームを作り、課題をこなしていきました。毎日、授業の後に集まって分担を決め、家に帰って自分でやれるところまでやり、わからないところは、夜中の2時とか3時にメールでやり取りしながら、他の人に助けてもらう。ケーススタディーの授業では、ケースが英語で書かれているので、英語の得意なメンバーに要点を教えてもらいながら、何とか課題をこなしました。

どの授業も大変でしたが、あまりにも知らないことばかりだったので、それが逆に面白く、楽しかった。例えば、なぜ日産自動車はV字回復できたのかというケースを授業でやった時は、実はV字はそうなるよう会計処理したからだと知り、へーっと思いました。

気力は十分でしたが、やはり体力的に無理があったのか、入学後3カ月ぐらいで椎間板ヘルニアをわずらい、会社を1カ月ほど休むはめになりました

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー2016年2月1日付]

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