マネー研究所

税務署は見ている

売上高1000万円前後 ある日、税務署がやってくる

2016/3/22

 フリーランスで仕事をしているAさん。今年も確定申告書は税理士には頼まずに、国税庁のホームページ(HP)にある「確定申告書作成コーナー」で作って印刷し、税務署に持って行って「控え」に受付印を押してもらいました。でも、「そろそろ税務調査に来られるのでは……」と不安に思っているとか。Aさんとの対話を再現してみましょう。

A:「飯田先生、僕、まだ、1回も税務署に来られたことないんですけど、大丈夫なんですかねぇ?」
飯田:「さぁ~、どうやろねぇ~?」
A:「えっ、そんな冷たいこと言わんといてくださいよ~」
飯田:「だって、私が選ぶんと違うしねぇ」
A:「まあ、そうですけど……」
A:「ふつうは開業して3年たったら来るんですよね、税務署」
飯田:「う~~ん、そうとも限らんけどねぇ」
A:「あれ、そうなんですか?」
飯田:「高額悪質な納税者から調査することになってるはずやからね」
A:「高額悪質? 僕、そんな悪いことなんかしてませんよ」
飯田:「でも、わざとじゃなくても、間違ったまま申告してるって場合もあるやん」
A:「まあ、そうですねぇ」
飯田:「例えば、売り上げが1000万円前後のところを行ったり来たりしてるんやったら、春から初夏にかけての時期に連絡が入るかもねって感じかな」
A:「えっ、飯田先生、僕が毎年1000万円前後の売り上げやって、なんでわかったんですか?」
飯田:「ん? 例えばって話しただけなんやけど」
A:「あっ、そういうことでしたか」
飯田:「そういう調査は“ヨンロク”にすることが多いんやけどね」
A:「“ヨンロク”?」
飯田:「4月から6月にかけての調査のことを“ヨンロク”っていうんよ」
A:「へぇ~。業界用語なんですね」
A:「“ヨンロク”は期間が短いから簡単な調査が主流になるんやけど、わざと売り上げを縮小して申告してるようなことが分かったときは簡単には終わらんやろうけどね」
A:「実は僕、平成27年(2015年)分は超えなかったんですけど、前に売り上げが1000万円を超えた年があったんです。で、『今年、消費税の申告しなくていいんですか?』って税務署で受付してる人に聞いたら、忙しそうにされてはいたんですけど『はい、大丈夫ですよ』って言われたことがあったんです」
飯田:「ん? それっていつの話?」
A:「え~っと、おととしです」
飯田:「その時、係の人から消費税の申告のフローチャートの説明書とか、渡されたんと違う?」
A:「どうやったかな~? 大丈夫って言われて、申告せんでいいんやって思ったから、ちゃんと読まずに申告書の控と一緒に片づけたか、捨てたか……」
飯田:「Aさん、やっぱり、そろそろ税務署来るかも」

 15日で所得税の確定申告が終わり、31日に消費税の確定申告が終わると、税務署は税務調査モードに切り替わります。国税の世界の事務年度は7月から。

 大阪国税局管内では、7月から12月までを“ナナジュウニ”、4月から6月までを“ヨンロク”と呼んでいますが、この時期の主な業務は税務調査ということになります。“ナナジュウニ”は、期間が6カ月間あり、新メンバーで調査官たちの士気も高まっています。私が国税調査官をしていた時も、「前倒し」と言って、より高額悪質の納税者から着手することで、モチベーションの維持につなげていました。

 一方、確定申告が終わった直後の“ヨンロク”は期間が3カ月しかなく、ひとつの事案にかけられる日数も少なくなるので、ポイントを絞った調査をたくさん手掛ける傾向にありました。消費税の申告が必要だと思われる納税者に対しては、“ヨンロク”で接触する場合が多いのではないかと思います。

 さて、今回登場のAさんですが、「おととしの売り上げが1000万円を超えた」と言っていましたね。消費税は前々年の課税売上金額が1000万円を超えた場合、申告義務が発生します。ここで注意しないといけない点は、前々年の課税売上金額が1000万円を超えていれば、今年の課税売上金額が1000万円以下であっても申告しなければならないということです。

 国税庁のHPには「免税事業者」に関するページでそのあたりの説明をしています。国税庁のホームページ→税について調べる→タックスアンサー→消費税→中小事業者に対する特例など、と進み、「No.6501 納税義務の免除」の項目を見てください。

1 納税義務の免除
 消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者は、納税の義務が免除されます。(中略) 基準期間における課税売上高とは、個人事業者の場合は原則として前々年の課税売上高のことをいい…(後略)

とあります。

 国税庁のHPから「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」と「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」をダウンロードできます。届出書の裏面に書き方なども詳しく書いてあります。

 「前々年の売上金額が1000万円を超えていたかも……」、あるいは「消費税の申告が必要なのではないのかな?」と思う方は、実際に数字を記入してみてわからないところがあれば、税務署の窓口に行ってみるといいでしょう。今の時期であれば、所得税の確定申告が終わったので、丁寧に応対してくれると思います。

 Aさんのように税理士に依頼せず、自分で申告書を作成する人は結構いらっしゃるのではないかと思います。申告書の提出を終えて「あれっ?」と思うことがあるときは、何か間違っている可能性が高いのではないでしょうか。消費税の申告期限は今月31日です。期限を過ぎると無申告加算税が課せられます。申告忘れがないか、再度ご確認いただければと思います。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会を設立し代表理事に。関西弁でテンポ良い税務調査の講演やメンタルヘルス研修(ワークショップ)は「眠くならない!」と好評。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。DVDに『税務調査に選ばれる企業の共通点』(H&W)他。facebookに「税務署は見ている」研究会(https://www.facebook.com/zeimushohamiteiru)。

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