アマゾンの配信で話題 大胆設定で描く戦後史改変SF
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
アメリカのSF作家の大御所で『マイノリティ・リポート』など死後に映像化作品も多いフィリップ・K・ディック。その彼が1962年に発表し、ヒューゴー賞を受賞した『高い城の男』は、第二次世界大戦で現実とは反対に枢軸国が勝利し、アメリカが東西に分断された世界を舞台とした大胆な設定の歴史改変SF。2015年11月20日に動画配信サービスのアマゾンでシーズン1全10話が配信され、大きな話題を呼んでいます。
舞台は62年、ナチス・ドイツと大日本帝国が占領するアメリカ。レジスタンス、二重スパイ、病状が悪化するアドルフ・ヒトラーの後継者をめぐる陰謀などの群像劇が、連合国の勝利を収めたフィルムの謎を軸に展開します。
センセーショナルな題材の本作の宣伝では、ニューヨーク市地下鉄の車両座席を旭日旗やナチス・ドイツの国章をあしらった星条旗で覆って批判が殺到するなど、物議を醸しながらも話題性は抜群。重厚なタッチでディックの世界を新たに映像に翻案した作品の評価も上々です。アマゾンは『トランスペアレント』や『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』など、いずれも賞に輝く30分のコメディシリーズが人気ですが、ここに来て60分枠のドラマに対する本気度を感じさせます。
視聴者に判断を委ねる戦略
製作総指揮は、ディックの小説の映画化『ブレードランナー』の監督リドリー・スコット。英のBBCや米ケーブル局サイファイがテレビドラマ化を検討しましたが断念。最終的に米アマゾン・スタジオがドラマシリーズ化候補13作品中の1本として、パイロット版を15年1月に配信。最も高い支持を得たためシリーズ化が実現しました。
例外はありますが、アマゾンは基本的にはパイロット版の製作にゴーサインを出した後、それを配信して視聴者からの支持率の高い番組をシリーズ化するという方法を採用しています。対して、同業のネットフリックスは従来のネットワークのようにパイロット版を作る方式ではなく、最初から1シーズンを撮り切る形となるため、作り手にとってはありがたいシステム。一方、アマゾンは初回で視聴者のハートをつかむ"何か"がなければいけませんが、放送局なり上層部によってシリーズ化の可否が決まるのではなく、ユーザーに判断を委ねるという透明性に意義があります。
ユーザーの好みをリサーチしたビッグデータをフル活用するネットフリックスと、ユーザーの意見も反映して番組を成長させていこうと考えるアマゾン。どちらの製作スタイルにも従来のネットワークにはない良さがあり、賞レースでも両社は存在感を増す一方です。
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今月のオススメドラマ
『ザ・ラストシップ』
マイケル・ベイ製作総指揮で描く人類の危機
映画『トランスフォーマー』シリーズなどのヒットメーカー、マイケル・ベイ監督が製作総指揮を務めたアクション大作。ウィリアム・ブリンクリーのベストセラー小説をベースに、未知の伝染病が全世界に広まるなか、生き残った海軍とウイルス学者による決死の闘いをスリリングに描く。
北極海で任務にあたる合衆国海軍駆逐艦ネイサン・ジェームズには、未知のウイルスの原始株を探すべく、2人の民間のウイルス学者が乗船していた。無事に任務を終え本国への帰途に着くが、海洋に出ていた4カ月の間に人類の80%以上が謎の伝染病で死滅したことが判明する。わずかに残された人類の頼みの綱は、駆逐艦に託された。果たして、ウイルスから隔離された海洋上で治療薬を開発することはできるのか?
上陸して物資を補給するにも危険が伴い、生き残った人類も一枚岩ではない。海洋上で様々な困難に見舞われながら生き抜いていく乗組員とウイルス学者による死闘は、手に汗握る場面の連続。映画でも派手なアクションが見もののベイらしく、映画並みのスケール感のあるドラマが展開する。
出演は、『グレイズ・アナトミー』のエリック・デイン、『ボストン・リーガル』のローナ・ミトラ、アダム・ボールドウィンほか。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2016年3月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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