手数料の差は4倍 個人型DCの金融機関選び編集委員 田村正之

長い老後に備えるための有力な仕組みの一つが、少額投資非課税制度(NISA)をしのぐ大きな税制優遇がある個人型確定拠出年金(DC)。企業年金がない会社員(会社員の6割)や自営業者が対象だ。ただし重要なのが運営管理機関(金融機関)選び。実は金融機関によって年間手数料の差は最大で4倍近い。手数料の高い金融機関を選べば、税制メリットの多くが失われる可能性もある。

手数料ゼロの金融機関も

企業型DCと違って個人型は自分で銀行、証券会社、保険会社などの運営管理機関を選んで加入を申し込む(運営管理機関の一覧は制度のとりまとめ役である国民年金基金連合会のサイトなどでわかる)。選ぶポイントは主に(1)手数料(2)投資信託の品ぞろえ――だ。

要注意なのは「運営管理機関によって手数料や投信の品ぞろえにかなり差がある」(確定拠出年金教育協会の大江加代・主任研究員)こと。「なじみがある金融機関だから」などと安易に選ぶと、長期的には資産形成に大きな差がつきかねない。

まず手数料。加入時に1度だけかかる手数料と、毎年継続的にかかる年間手数料があるが、長期で影響が大きいのは年間手数料だ。

グラフAは独自の料金体系を持つ主な運営管理機関(共通の料金体系の信用金庫や労働金庫などは中央組織のみ)を対象に、年間手数料をグラフ化したもの。最も低いのはスルガ銀行とSBI証券(資産50万円以上)で2004円。一方、主に地方銀行で、7000円代後半に達するところも多い。スルガ銀行と、最も高い運営管理機関との差は5700円にもおよぶ。10年で5万7000円とかなり大きな差になる。

年間手数料の内訳は表B。国民年金基金連合会への手数料と、信託銀行など資産管理金融機関分の手数料はどこも基本的に同じ。異なるのは運営管理機関自身の取り分だ。SBI証券(資産残高50万円以上)とスルガ銀行は0円にしている。

確定拠出年金教育協会の調べでは、年間手数料が3000~4000円台の運営管理機関はなく、次は一挙に5000円台となる。半数近くの金融機関は6000円台だ。7000円台も3割弱ある。

節税メリットが大幅に縮小することも

個人型DCの税制優遇のうち最も大きいのは、拠出時に掛け金の全額を所得控除、つまり所得税や住民税の計算の対象外にしてくれること。節税効果はその人の上限税率(所得ごとに上がっていく税率のうち最も高い部分)に年間の掛け金をかけた額。つまり掛け金が多く、上限税率が高いほど節税効果は高くなる。

掛け金が少なかったり上限税率が低かったりする人が、手数料の高い金融機関を使うと、節税効果の多くが失われてしまう。

例えば年収500万円で上限税率が所得税・住民税合わせて15%の人が、毎月の掛け金の最低額である5000円ずつ(年間6万円)を個人型DCに積み立てた場合。年間の節税額は9000円だ(表C)。しかし年間の手数料が7000円台後半の金融機関を選ぶとこの大半が消える。

年間手数料のほか、加入時に1回だけかかる手数料が多くの金融機関では2777円なので(表B)、年間手数料が7000円台後半の運営管理機関では初年度の総コストが1万円を超える。掛け金が少額の場合、初年度の手数料合計では年間節税額より大きくなりかねない。

もちろん掛け金の額が多かったり上限税率が高かったりすれば、手数料を大きく上回る節税額が得られる。しかしその場合でも、なるべく手数料を抑えたほうが長期で老後資金を積み上げやすいのは当然だ。

投信の品ぞろえも合わせて判断

では高手数料のところは手厚いサービスが受けられるかというと、ほぼ関係ない。個人型DCは基本的にインターネットを通じて自分で操作し、わからないときは専門のコールセンターなどで聞く形式だからだ。

例外的にりそな銀行のように「全店の窓口で対応している」という運営管理機関もあり便利だが、りそなの年間手数料は5796円で、SBIとスルガを除けば最も低廉な部類に入る。三井住友銀行などが共同で運営するジャパン・ペンション・ナビゲーターも手数料は低い部類だが、三井住友銀行などの店頭でテレビ電話などを通じて相談できる。

高手数料の運営管理機関は、一応品ぞろえの一つとして個人型DCを扱っているものの、単にあまり熱心ではないという場合が多い。表Bの高手数料の地方銀行Bの店頭に電話してみると「個人型DC? それ、なんでしょうか」と逆に聞き返されてしまった(当該銀行の専門のコールセンターではきちんと対応された)。

熱心でないがゆえに高手数料になっているところを選んで、節税メリットを無駄に失うのは惜しい。このため、掛け金の額が少なく、預貯金で運用して節税効果だけを得たい場合は、SBI証券かスルガ銀行を選ぶのは有力な選択肢だ。

ただし掛け金の額が多く投信での運用を中心にする場合は、運用管理費用(信託報酬)の低い投信の品ぞろえが多い運営管理機関を選ぶ方が、全体でのコストを抑えられる場合がある。

手数料が低いSBI証券の場合は投信の品ぞろえも優れているが、他の運営管理機関ではごく一部ではあるものの、さらに魅力的な品ぞろえのところもある。例えば野村証券やりそな銀行などだ。

一方で手数料が高い運営管理機関の中には投信の品ぞろえも悪いところがかなり目立つ。「特に地方銀行の場合、コスト以前に、そもそも外国株や新興国株など主要資産クラスの投信がそろっていないところもある」(ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子氏)。

つまり漫然と運営管理機関を選ぶと、「高手数料+品ぞろえの悪い投信」という二重の不利益を被りがちだ。次回は運営管理機関ごとの投信の品ぞろえを見ていきたい。

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著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
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