ブランド作りの最前線 工場のもてなし力を学ぶ安川電機みらい館 vs コペンファクトリー

安川電機みらい館の無料見学コースには、ロボットと“競争する”“操作する” “協調する”をテーマにした3つのアトラクションがある(安川電機みらい館の写真:諸石信)
安川電機みらい館の無料見学コースには、ロボットと“競争する”“操作する” “協調する”をテーマにした3つのアトラクションがある(安川電機みらい館の写真:諸石信)
日経デザイン

工場に「見学コース」を設置して積極的に企業ピーアールを推進するメーカーの中で、ひときわ目立つ存在がある。それが安川電機とダイハツ工業だ。小中学生を対象に本物のロボットを見せたいと考えた安川電機、ユーザーとの交流の場を想定したダイハツ、両社の狙いは大きく異なるが、ぜひ見学に訪れてみたい。

北九州市黒崎にある安川電機は2015年6月1日、本社工場の敷地内に「安川電機みらい館」をオープンした。サーボモーターや産業用ロボットでマーケットシェアが世界一の同社が、創立100周年事業の一環として完成させた施設だ。みらい館は生産工場ではないが、実際に動くロボットを見たり、体験したりできるなど、ロボットについて学習できる。みらい館を訪れたあとに実際の工場を見学することで、ロボットの理解を深めるようにすることが狙い。10人以上の団体から予約制で見学を受け入れているが、連日のように予約が埋まるほどの人気。初年度の来館者数は2万人と見込んでいたが、4カ月目の10月に早くも1万人を超え、15年度末までに3万人を突破する勢いだという。

ダイハツ工業は2014年9月、大阪府池田市の本社工場の敷地内にある軽オープンカー「コペン」の生産工場「コペンファクトリー」に見学コースを設けた。コペンの大きな特徴はボディーパネルを自由に交換できる「DRESS-FRMATION」という構造だ。ボディースタイルは3種類の中から選ぶことができ、ライトなどのデザインも異なる。さらにカーボン調のラッピングも用意されて、インパネやシートの色も選べる。こうした工程を直接に見ることができるため、2015年10月までのオープン後1年間あまりで約2500人が来場。地元が中心の一般参加者とは別に、全国のコペンオーナー向けの見学者コースも設けており、中には6回も見学に来る熱心なコペンオーナーがいるなど、マニア心をくすぐる内容として好評だ。

コペンファクトリーでは、見学者の目の前1mほどの所を組み立てラインが流れる(コペンファクトリーの写真:笹田克彦)

いずれも見学者に興味を持たせようと工夫しているが、みらい館とコペンファクトリーのアプローチは大きく異なる。安川電機の場合、無骨なイメージのロボットを工場で見せるだけよりも、まずはみらい館でロボットに親しみ、楽しんでもらうことを重視した。ダイハツ工業は工場自体を盛り上げ、生産ラインに流れるコペンの姿を見せるようにした。ロボットという生産財のメーカーと、クルマという最終製品のメーカーの違いになっている。

本物のロボットを楽しく知る

みらい館にあるロボットはすべて安川電機が実際に製造販売している産業用。自動車メーカーや医療研究機関など、さまざま場所で使われている本物ばかり。実際に多軸や多関節ロボットが、ゲームで対戦したりミニカーを組み立てたりする様子は、子供も楽しめそうだ。

安川電機みらい館の1階は先端技術と未来展望を感じさせるラウンジ空間

100分間の見学コースは、みらい館からスタートして、ロボットがロボットを製造する工程を間近で見られる第1工場、クリーンな環境で使われるロボットを人の手作業で作り上げる第2工場まで回る。工場見学は従来から実施していたが、みらい館に合わせて見学コースを刷新した。小学5年生以上を対象とする学校の社会科見学だけでなく、地元自治体の高齢者団体から東京の高専学生まで、来館者層は幅広い。

みらい館の設立目的は大きく2つ。まずは地元の人々に深く理解してもらい、北九州市を産業観光地としてさらに発展させること。2つ目は、子供に本物のロボットを直接に見てもらい、楽しく知識を深めることで、日本のものづくりを支える人材になってほしいという同社の願いが込められている。

実際にロボットとゲームをしたり、動きを操ってみたり、ミニカー組み立ての工程を体験できる(写真左、写真右)

安川電機みらい館の岡林千夫・館長は「今後は小中学生を中心に考えていく。本物のロボットに興味を持ってもらい、驚き、技術を納得してもらうためには、ここでしか体験できないコンテンツが不可欠。単なる展示場で終わらせるつもりはない」と意欲的だ。

2015年8月には3日間だけ予約なしでみらい館を開放した際は、ホームページでの告知と近隣へわずかなチラシを配布しただけだったが、820人が訪れた。同時に「ものづくり教室」と題し、ホームセンターで入手できる簡単な道具だけでモーターを手作りするワークショップも開催した。実験的な試みだが好反応を得たので、次の展開も計画中と言う。

第1工場の内部で、みらい館で見たロボットが人間の代わりにロボットを実際に製造する様子を見学できる

コミュニケーションを深める場所に

コペンファクトリーの場合、見学者の目の前1mほどの所を組み立てラインが流れ、「D-Frame」と呼ばれるコペンの基本骨格に、作業員が手作業でボディーパネルやライトなどを取り付け、色も形も全く異なるコペンが次々に完成していく様子を見ることができる。コンセプトは「身近で、つながる工場」だ。

「見せる工場」として床や壁は白に統一したほか、モニターには作業内容や作業者の名前、計測数値などを表示し、見学者に工程を分かりやすく紹介している

「完成したクルマを売ってしまえばそれで終わり、という従来のクルマのビジネスモデルはコペンには相応しくない」と、ダイハツ工業製品企画部の藤下修チーフエンジニアは言う。

現在の2代目コペンが発売されたのは2014年6月だが、同11月には多面体ボディの「エクスプレイ」を発売、2015年6月には丸型ヘッドランプ「セロ」発売するなど、新しいデザインを順次ラインアップしている。ユーザーのニーズに応えコペンが進化し続けるためには、ユーザーとのつながりが重要になる、そこでコペンファクトリーとして、ユーザーとコミュニケーションできる「場」を作った。どこでどんな風に作られたのか分からない製品だけが目の前に届く一般の工業製品とは違う。生産者の顔が見えるラインで、作業を公開することが安心感や信頼感につながると考えた。


「見せる工場」としての工夫も随所に盛り込まれている。床や壁は明るく作業が見やすい白に統一した。汚れが目立ちやすいため普通の工場では採用しない色だ。モニターには作業内容や、作業者の名前、実際の計測数値などが表示され、今何をしているのかなどを分かりやすく紹介する。一時期、詳しく説明しようとするばかりにモニターの数が増え、逆に作業が見にくくなったこともあり、表示内容の一部を背後の白い壁面への投影に切り替えるなど、展示方法も手探りしながら改善を続けている。

コペンのような趣味性の強い車は、オーナーの愛着も強く、ユーザー同志の交流も活発だ。時にはコペンファクトリーがユーザー交流の場にさえなる。見学に参加したオーナーが知り合う場にもなるし、あるいは知り合いのオーナーたちが誘い合って同じ日の見学に参加し、そのままオフ会になることもある。コペンファクトリーは工場の枠を超え、新たなコミュニケーションツールのような存在になってきた。

(ライター 笹田克彦、高橋美礼)

[日経デザイン 2015年12月号の記事を再構成]