スマホカメラの高速AF機能 ソニーとサムスンが競う

日経トレンディネット

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世界最大規模の通信関連見本市「MWC2016」(Mobile World Congress 2016、2月に開催)において、韓国サムスン電子が新型スマートフォン「Galaxy S7」と「Galaxy S7 edge」を発表した。防塵防滴構造や時刻を常時点灯できる有機ELディスプレイなどさまざまな特徴を備えているが、なかでも「デュアルフォトダイオード」による高速なAF(オートフォーカス)機能をカメラに搭載したのが興味深いと感じた。スマホでも一眼レフ並みの快適かつ失敗の少ない撮影が可能になる技術として注目できる。従来モデルよりも画素数を減らすという、これまでにない変化も見られた。スマホカメラは、数字を前面に押し出した従来の画素数競争から、快適な撮影や高画質など実利を重視した戦略に変わっていく可能性が出てきた。

サムスン電子が発表した「Galaxy S7」(左)と「Galaxy S7 edge」(右)

現在、カメラが自動でピント合わせをするAF機能は、デジカメだけでなくスマホのカメラでも不可欠の機能となっている。AFは、スマホやコンパクトデジカメで一般的な「コントラストAF」と、デジタル一眼レフカメラなどで使われる「位相差AF」の2種類に大きく分けられる。

コントラストAFは、イメージセンサー(撮像素子)がとらえた映像のコントラストの差を検出してピントを合わせる方式である。ピントが合った状態が最もコントラストが高くなるので、レンズ位置を少しずつ調整してその最高点を検出する仕組みだ。撮像素子の全面でピント合わせができるメリットがあるものの、AFの速度は比較的遅い。また、明暗差が少なくなる暗所ではピントが合いづらくなるといった欠点がある。

位相差AFは、被写体から届いた光が2つに分離して専用のAF用センサーに届き、2つの像の距離を計測することでピント位置を特定する技術だ。AFセンサーが計測した位置に即座にピントを合わせられるため高速だが、AF用のセンサーや光を分離するためのレンズの設置スペースなどが必要になる。一般的に、限られた数しかAFセンサーを設置できないため、映像の上でAFセンサーがある位置でしか、AFの判定ができないのもデメリットだ。

ニコンのデジタル一眼レフカメラ「D5」のファインダー内の様子。四角い枠や点がAFセンサーで、中央部のエリアにしか存在しないことが分かる

だが近年では、微細化したAFセンサーを撮像素子内に組み込むことで(像面位相差AFと呼ぶ)、ミラーレス一眼やコンパクトデジカメでも高速な位相差AFが使えるようになった。スマホでも、アップルの「iPhone 6」などの一部機種が採用している。ただ、撮像素子がぎっしり敷き詰められた間を縫ってAFセンサーを設置しなければならず、AFセンサーの数や位相差AFが動作する位置が限られていた。

iPhone 6シリーズが搭載する位相差AF「Focus Pixels」の概念図。左の撮像素子と思われるグラフィックスを見ると、2つ1組で対になったAFセンサーが散在しているのが分かる

今回のGalaxy S7とGalaxy S7 edgeで登場したデュアルフォトダイオード技術は、これまでの像面位相差AFの欠点を改良した技術といえる。

撮像素子の全域が位相差AFとして機能

デジタルカメラで使われている撮像素子は、基板上に画素(フォトダイオード)が敷き詰められており、例えば1200万画素ならば画素が1200万個並んでいる。さらに、より多くの光を取り込むために、各画素に極小のレンズ(オンチップレンズ)が取り付けられている。

デュアルフォトダイオード技術では、1つのオンチップレンズの下に2つのフォトダイオードを設置しているのが特徴だ。このフォトダイオードには位相差AF機能が搭載され、撮像とAFの2つの機能が電気的に切り替えられる。AFが動作する瞬間、2つのフォトダイオードが位相差AFセンサーとして働く。これを複数の画素が同時に実行してピントを検出することで、高精度なピント合わせをする仕組みだ。実際に撮影するタイミングでは、2つの画素の情報を合わせて1つの画素分として動作し、画像を記録する。フォトダイオードの数に対して、実際の記録画素数は半分になるわけだ。

Galaxy S7の「デュアルフォトダイオード技術」を採用した撮像素子の模式図。赤と水色の2つのフォトダイオードがペアになって1つの画素を形成する

位相差AFセンサーを撮像素子内に点在させる従来の像面位相差AFに対し、デュアルフォトダイオード技術は原理上すべての画素の位置にAFセンサーが搭載できることになる。AFの測距が撮像素子全面でできるようになり、どの位置に被写体があっても高速かつ正確な位相差AFが使えるようになるわけだ。

撮像素子上に位相差AFセンサーを配置したPhone 6s Plus(右)との比較。Phone 6s Plusはセンサーの数が全体の5%未満と限られているため、ピントを合わせられるエリアが少ない

キヤノン製品とほぼ同じ仕組み

画期的なデュアルフォトダイオード技術だが、実はこの技術自体はサムスン電子が初めて採用したものではない。最初に実用化したのはキヤノンで、2013年8月発売のデジタル一眼レフカメラ「EOS 70D」で「デュアルピクセルCMOS AF」という名称で搭載した。撮像素子のサイズはGalaxyとはまったく異なるものの、原理的にはほぼ同一といってよい。

一見すると構造に大きな違いは見えないし、原理的にも技術的にも同一のように感じるが、サムスン電子によれば「特許の問題はない」ということらしい。強いて違いを挙げるとすれば、キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFは撮像素子の約80%で位相差AFが使えるが、サムスン電子のデュアルフォトダイオードは100%で位相差AFが使えるという点だ。キヤノンによれば、周辺は精度が出にくいためAF機能は削った、という話だった。さまざまな交換レンズにも対応しなければならないこともあって、あえて100%にはしなかったようだ。

キヤノンのデュアルピクセルCMOS AFは、撮像素子のサイズがAPS-Cやフルサイズなのに対して、Galaxyはスマホ用の小型センサーという点も異なる。小さいセンサーなのに、位相差AFにも対応できるフォトダイオードを2つ搭載しなければならないため、撮像素子の製造自体はサムスン電子のほうが難しいだろう。Galaxy S7とGalaxy S7 edgeの撮像素子は1200万画素だが、フォトダイオード自体は2400万個搭載していることになり、高度な微細化技術が必要だったのは間違いない。

スマホもAF性能や暗所の画質を重視する時代に

いずれにしても、今回のデュアルフォトダイオードは、スマホのAF性能を大幅に上げる技術として評価できる。ピント合わせがシビアなデジタル一眼と比べると、スマホではその差は体感しづらいが、Galaxy S7とGalaxy S7 edgeでは暗所でのAF速度が向上していることが体感できた。コントラストAFとは異なり前後にもたつくことなく一気にピントが合うため、動画撮影時のAF動作が改善されて動画の見づらさが和らぐのも大きなメリットといえる。

暗所撮影のデモ(左がGalaxy S6 edge、右がGalaxy S7 edge)。数ルクスの暗い状況で、手前の風景パネルを立ち上げてみた
Galaxy S7 edgeはほぼ一瞬でピントが合ったが、Galaxy S6 edgeはピント合わせに時間がかかった

スマホのカメラでは、ソニーモバイルの「Xperia」シリーズも位相差AFセンサーを撮像素子内に埋め込む方式を採用している。MWC2016で発表した新製品「Xperia X」シリーズでは、新たにデジタル一眼カメラ「α」シリーズにも搭載されている動体予測アルゴリズムを搭載し、被写体を追尾してAFを合わせ続ける技術を新たに採用。スマホカメラのAF性能を2社が競い合う好ましい状況になっている。

ソニーモバイルがMWCで発表した新製品「Xperia X」
従来モデルから搭載していた像面位相差AFに加え、新たに動体予測付きの被写体追尾AFを搭載した。動き回るボールもしっかりと追尾していた

Galaxy S7とGalaxy S7 edgeは、実質的な記録画素数が1200万画素と抑え気味であり、数字だけ見ると2300万画素のXperia Xに見劣りする。ただ、同じ撮像素子のサイズで画素数が増えると、1つあたりのフォトダイオードは小さくなり、取り込める光の量が減少するために暗所での画質は劣化する。Galaxy S7とGalaxy S7 edgeは、画素ピッチが1.4μmになり、前モデルの1.12μmより大型化したことで、特に暗所での画質向上の可能性が期待できる。今後、スマホのカメラが「画素数競争」ではなく「画質競争」に力を入れるきっかけとなるかもしれない、と感じた。

(ライター 小山安博)

[日経トレンディネット 2016年3月3日付の記事を再構成]

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