荻窪VS.松戸 駅からの距離と不動産価格不動産コンサルタント 田中歩

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駅から近いマンションは資産価値が高く、駅から遠くなるにつれ資産価値が下がっていくということは、読者のみなさんも直感的にご理解されていると思います。

ただ、駅から何分くらいまでの距離ならば値下がりしにくいのか、また、駅によって値下がりしにくい距離はどの程度異なっているのかというのは、非常に判断が難しい問題だと思います。

そこで今回、(筆者が憧れる)中央線の荻窪駅と、(筆者が住んでいる)常磐線の松戸駅にある中古マンションを例に、「駅からの距離(分)」と「売買単価(円/平方メートル)」の関係を調べ、駅によってその価格の変化にどの程度の違いがあるのか調べてみることにしました。

駅によって異なる値下がり率

中古マンション売買の取引事例として使ったのは、それぞれの駅から徒歩20分以内、専有面積50~80平方メートルの中古マンションで、直近1年間の売買事例を採用しました。そして比較のために、これらの取引事例がすべて「専有面積60平方メートル」「築15年」であったと仮定した場合の売買単価が「駅からの距離」にどのように影響しているかを調べました。

まずは荻窪駅について見てみましょう(グラフA)。

それぞれの取引事例を「専有面積60平方メートル」「築15年」と仮定した場合の「売買単価(円/平方メートル)」と、それぞれの取引事例の「駅からの距離(分)」をプロットした散布図です。

直線は「y=-14203×x+840860」(公益財団法人東日本不動産流通機構のデータより筆者作成)
直線は「y=-13402×x +480174」(公益財団法人東日本不動産流通機構のデータより筆者作成)

散布図に描かれた直線はプロットされた点に対する近似直線で、この直線から「y=-14203×x+840860」という数式が導き出されます。「840860」という数値は「専有面積60平方メートル、築15年」かつ「荻窪駅から徒歩ゼロ分」の中古マンションの理論上の「売買単価(円/平方メートル)」です。

つまり、傾きは「-14203」で、これは「荻窪駅から1分遠ざかると、売買単価が1平方メートル当たり1万4203円下がる」ということを示しています。

同様に松戸駅の分析結果を見てみましょう(グラフB)。松戸駅から1分遠ざかると、売買単価は1平方メートル当たり1万3402円下がることがわかります。こうしてみると、松戸のほうが荻窪に比べて値下がり「額」が低いことがわかります。

ここで松戸市民の方はもろ手を挙げて喜んではいけません。実は、松戸駅5分の物件と10分の物件で値下がり「率」を比べると、前者に比べて後者は16.2%値下がりしています。荻窪駅の場合は9.2%となりますので、荻窪のほうが駅から遠くなっても値下がり率は低いわけです。

「値下がりしにくい」の定義は?

さて、不動産の資産価値を判断するにあたっては、売買価格だけでなく、いくらで貸せるかという点も重要な指標となります。

そこで、それぞれの駅における「駅からの距離(分)」と「賃料単価(円/平方メートル)」はどのような関係となっているのか調べてみることにしました。これについても、先ほどの分析と同様の方法で、マンション賃貸取引事例を使って分析します。

荻窪については駅から1分離れるごとに約55円/平方メートル賃料単価が下がることがわかります(グラフC)。松戸については松戸駅から1分離れるごとに約45円/平方メートル賃料単価が下がることがわかります(グラフD)。

直線は「y =-54.866×x+3318.2」(公益財団法人東日本不動産流通機構のデータより筆者作成)
直線は「y=-44.837×x+2208.6」(公益財団法人東日本不動産流通機構のデータより筆者作成)

ここでも松戸のほうが賃料単価の値下がり額は荻窪より低くなっています。しかし、松戸駅5分の物件と10分の物件を比べると、前者に比べて後者の値下がり率は11.3%、荻窪駅の場合は9.0%となりますので、荻窪のほうが駅から遠くなっても値が下がりにくいことがわかります。

ここまで分析したところ、売買単価も賃料単価も値下がり「額」では松戸のほうが優勢、値下がり「率」では荻窪のほうが優勢という結果になっており、何をもって値下がりしにくい立地というのか、判断がつきにくくなりました。

表面利回りには大きな差

そこで今度は、売買単価と賃料単価の両方を利用して分析してみたいと思います。

公益財団法人東日本不動産流通機構のデータより筆者作成

不動産投資をするかしないか判断するときに使う指標のうち、最も一般的なもののひとつに「表面利回り」があります。表面利回りは「年間賃料÷不動産価格」で計算し、その不動産のリターンの良しあしを判断するものです。

この「表面利回り(%)」と「駅からの距離(分)」との関係を調べてみると次のようになります(グラフE)。ご覧のとおり、荻窪駅よりも松戸駅のほうが表面利回りは高くなっています。

また、荻窪駅については駅から離れても、利回りは大きく上昇しませんが、松戸駅については駅から離れれば離れるほど、利回りの上昇に勢いがついていることがわかります。

一般的に、利回りが高いということは、将来のリターンに対する不確実性が高い、ということを意味します。

上空から見た松戸駅と江戸川=PIXTA

つまり、荻窪と比べ、松戸駅周辺の中古マンションに投資をするということは、足元では高いリターンが得られるかもしれませんが、人口減少や街の魅力度の変化などによっては、将来の賃料収入が大きく低下する、あるいは空室が続く可能性が高いということを意味します。思った以上に価格が大きく値下がりするかもしれないのです。

さらに松戸は、駅から遠くなればなるほど表面利回りが逓増していますから、駅から遠くなるほど、その立地の物件は、価格が下がる可能性が高いということになります。

一方、荻窪はローリスク・ローリターンといえます。今のリターンは少ないけれども、将来にわたって「取りっぱぐれがなさそうな立地」だということができます。

このように、駅によって将来のリターンに対する不確実性が異なるだけでなく、駅ごとに「駅からの距離」に応じた不確実性も大きく異なります。さらに、物件の価格とその賃料を知ることは、値下がりしにくい立地を選ぶという観点から、ある程度必要なのではないかと思います。

もちろん、過去の取引事例を分析しただけで、将来を予測できるものではありません。今後の人口動態や立地適正化計画の進捗度合い、各地域での取り組みなどによって街の将来の姿は変わってきます。そうした面にも目を向けつつ、物件価格とその賃料、すなわち表面利回りという指標も参考にしてみてはいかがでしょうか。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。3月26日(土)、不動産の売却予定がある人を対象に、売却における「良い(悪い)戦略」構築のためのセミナーを開催します。詳細は(http://www.sakurajimusyo.com/seminar6668)へ。
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