投信の成果測る「通算損益」 売り時判断の基準に

金融市場が不安定ななか、自分が投資で損をしているのか、それとも利益を出しているのかは随時確認したい。しかし投資信託の場合、受け取った分配金を考慮して損益状況を調べるのは一手間だ。そこで注目したいのが「トータルリターン(通算損益)」という指標。累計の分配金額と投信価格の変動から算出され、今後の運用に生かすことができる。

「分配金が多いので満足していたが、実はかなりの損を出していた」。千葉県に住む男性(68)は、初めてトータルリターンを確認して驚いた。5年前から新興国債券で運用する毎月分配型の投信を保有していたが、昨年から世界景気の減速で基準価格が大きく下落。通算の運用成績がマイナスに転じていた。

これまで投信は損益状況の把握が難しい商品といわれていた。人気商品は毎月や半年ごとなど、頻繁に分配金を出すタイプが多い。基準価格の変動に加え、受け取った分配金の総額を個人が確認するのは手間がかかった。

投信の分配金が2種類あることも“実力”を測りかねる一因だ。2種類は運用で生んだ利益から支払う普通分配金と、元本を取り崩して支払う特別分配金(元本払戻金)だ。運用状況が悪くても、特別分配金はとりあえず維持される場合も多く、冒頭の男性のように危機感を感じにくいという難点もある。

こうした状況改善のために導入されたのがトータルリターンだ。2014年12月から証券会社や銀行は投信を持つ顧客に対し、定期的に通知することが義務づけられた。

計算方法は、保有する投信の現時点の価格とこれまで受け取った分配金の総額を足し合わせ、購入代金を引く。一部の投信を売った場合は、その売却代金も加える。

例えば、投信を1万円で購入し、毎月50円(税引き後)の分配金を2年受け取った場合が下の図だ。分配金の合計は50円×24カ月=1200円。基準価格が1万1000円と1000円値上がりすると、トータルリターンは1200円+1000円=2200円となる。個別銘柄での運用成績のほか、保有する投信全体の成績も通知される場合がほとんどだ。

販売会社は通知方法を拡充している。定期的に送付する取引残高報告書へトータルリターンを記載する。加えて、SMBC日興証券ならサイトを通じて投資家が毎営業日ごと最新の運用成果を把握できるようにした。通算損益は09年10月以降の購入分から確認できる。SBI証券では、ネット上で1年ごとのトータルリターンが確認できるほか、受け取った分配金の内訳を、普通分配金と特別分配金ごとに表示する。

トータルリターンをどう運用に役立てるか。ファイナンシャルプランナー(FP)の紀平正幸氏は「投信の売り時を判断する基準として見れば有効だ」と指摘する。

例えば投資初心者なら、購入から3年以内はトータルリターンが投資価格に対してプラスマイナス15%を超えた時点で売却する。投資に慣れたら、許容できるリスクの幅を徐々に広げるとよい。保有する投信全体のトータルリターン確認も重要だ。利益が大きく出た際は、投信を一部売却して定期預金に資金を振り向けるなどの検討をしたい。(武田健太郎)

[日本経済新聞朝刊2016年3月12日付]

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