アマゾンが米国で進める新サービス 現地リポート

日経エンタテインメント!

帰宅後、アマゾンの「Fireタブレット」を使ってイタリア料理の出前を頼んでいる家族の様子
帰宅後、アマゾンの「Fireタブレット」を使ってイタリア料理の出前を頼んでいる家族の様子
ネット通販大手のアマゾンは独自の機器や技術を駆使し、次々と新しいサービスを始めて、人々の生活を変えている。特に米国では日本に先駆けた新展開が目覚しい。その実態を現地シアトルで取材した。

アマゾン初の書店オープン

アマゾンの事業は大きく分けて3つ。(1)ネット通販、(2)インフラや技術を企業に提供するウェブサービス、(3)個人や販売事業者が商品やサービスを販売する「マーケットプレイス」。特に(1)は創業者自ら商品の梱包をするほどの小規模から急成長した同社を象徴する事業分野で、特に書籍は成功の礎となった商材だ。そこでまず、アマゾンが15年12月に同社初の実店舗として開設した書店「アマゾンブックス」に向かった。

アマゾンが15年12月に開設した実店舗「アマゾンブックス」
アマゾンで通常使うクレジットカードで買うと購買入履歴がネットに残る。「レビューは低いが熱狂的なファンに支持されている本」や「プレゼントで人気」など、ユーザー動向が反映されたコーナーも

シアトルの郊外、ワシントン大学や閑静な住宅街に近いショッピングモールに同店はある。広さは約700平米と、日本の一般的な大型書店と同じくらい。そこに、約5000冊の本が並ぶ。本の数は少なめだが、陳列商品はアマゾンの各書籍カテゴリーでトップクラスのセールスを記録、またはユーザーのレビューで4つ星以上の評価を得た本ばかり。品数が絞られているのは、ヒット商品を選抜しているからだ。

ユーザーのレビューで高い評価を得た本ばかりを並べたコーナー
価格はネットと常に連動している

備え付けのスキャナーで本のバーコードをスキャンして最新の価格を知る

さらにアマゾンらしいのは、商品に値札がないこと。日本と違い、再販売価格維持制度が無い米国では、小売業者が書籍の価格を設定できる。アマゾンもネット上で本にセール価格を適用するため、価格はネットと常に連動している。顧客は専用のアプリとスマホのカメラ、または備え付けのスキャナーで本のバーコードをスキャンして最新の価格を知る仕組みだ。

ユーザーにプライオリティーの高い商品をより安く提供するというアマゾンの姿勢は、書籍以外の分野にも共通している。映像コンテンツをプライム会員向けに無料で提供するプライム・ビデオで、米国において15年12月に始まったのは「ストリーミング・パートナー・プログラム」。「HBO」や「Starz」「Showtime」といった米国で人気の有料テレビチャンネルを、アマゾンを通じて視聴契約すると、通常より格安で利用できる。また、映像の低価格化だけでなく、高画質化にも力を入れており、16年には米国で、シリーズ最新作『007スペクター』や『ジュラシック・ワールド』など、話題作を4K配信する予定だ。

次に、日本でもゲームなどのアプリを購入できる「Amazonアプリストア」については、米国では日本にない「アマゾンアンダーグラウンド」というサービスを提供中。一般にスマホなどのアプリで利用できるゲームには3パターンある。(1)有料でダウンロード購入、(2)ダウンロードは無料だが、利用中にアイテム購入などアプリ内課金が発生、(3)完全無料、だ。

アマゾンの「アンダーグラウンド」は(3)の完全無料のゲームをより多くユーザーに提供するための試み。アマゾンはアプリの制作会社にノウハウや技術を提供し、アプリの利用状況に応じてロイヤリティーも支払う。この仕組みにより、米アマゾンでは『アングリーバード』といったゲームを始め、約1600タイトルが無料で遊べるようになっている。

「Amazonエコー」は米国のみで販売中で179.99ドル。PCやスマホが無くても声で命じるとウェブ検索やコンテンツ再生してくれる

15年、日本でもプライム会員向けに提供が始まった音楽聴き放題「プライムミュージック」については、米国では100万曲以上が無料で提供されている。アマゾンの独自コンテンツも多く含まれ、「ネクスト」と呼ぶ新人発掘・育成プロジェクトでは、対象アーティストの音楽制作とプロモーションをアマゾンがバックアップ。15年には20組の対象アーティストの楽曲を集めたコンピレーションアルバムをアマゾン独占でダウンロード販売するなど、セールス面でもサポートしている。

こうしたオリジナルコンテンツに加え、アマゾンが競合他社に対して持つ強みは、オリジナルの機器とネットを融合させた他社に無いサービスを提供し続けていることだ。日本でも「キンドル」など、アマゾンの端末は知られているが、米国ではさらに新しいコンセプトの機器が発売されている。例えば「Amazonエコー」というネットワークスピーカーがある。「アレクサ」と呼ぶ人工知能(AI)とネットでつながり、ユーザーが声で命じると、アマゾンで購入した音楽コンテンツや電子書籍の音読を聴いたり、ウェブ検索や、アマゾンへの商品の注文も声でできる。また、ボタンを押すだけでキッチン用品や食品など、所定の商品がアマゾンの購入カートに自動的に入るガジェット「Amazonダッシュ」も米国で販売中だ。さらに、ドローンでの宅配も実験段階だが実用化に向けて進んでおり、アマゾンのハイテク化は米国で目覚しい。

ボタンを押すだけで所定のキッチン用品や食品などを注文できる「Amazonダッシュ」は5ドルで初回購入時に同額の割引。バーコードスキャナーが付いたタイプも
ドローンでの宅配も実験している

暮らしを支えるインフラに

では実際に一般家庭ではアマゾンの機器やサービスをどのように利用しているのか。我々はシアトル郊外の一般家庭を訪問。この日、取材に協力してくれた共働きの夫婦は、買い物に行く時間がなかなか取れないところを、生鮮食料品の宅配サービス「Amazonフレッシュ」や、1時間以内に商品や出前が届く「プライムナウ」を利用し、帰宅後、40分ほどで夕食の準備を整えた。

出勤前に「Amazonフレッシュ」で注文しておいたというフルーツなど生鮮食料品や飲料が帰宅後に配送トラックで届いた

家族でダイニングに集まり、前述の「Amazonエコー」でラジオや音楽を聴きながら食事をする。配膳中に冷蔵庫を見て足りない商品があれば、Amazonエコーや「Amazonダッシュ」で注文できるので、トイレットペーパーやペットの猫の餌など、日用品の買い忘れはないそうだ。そして食後はリビングで「プライム・ビデオ」の映像やゲームを楽しんでいた。

「Amazonエコー」でラジオや音楽を聴きながら食事をする
この家庭では「プライム・ビデオ」を使って父親は映画、母親はドラマ、子どもはキッズアニメやゲームを主に楽しんでいるという

24時間、ユーザーはアマゾンとつながっている。同社はユーザーの利用動向を把握し、そのデータをサービス向上に反映する。この“勝ちパターン”は、アマゾンの創業時から揺るがない。その成長のスパイラルは、米国では単なる小売りを超え、家庭の暮らしをサポートするインフラのレベルにまで広がろうとしている。

(日経エンタテインメント! 白倉資大)

[日経エンタテインメント! 2016年3月号の記事を再構成]

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