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子どもを持たない人生という選択 酒井順子さんインタビュー(1)

2016/3/23

(写真:稲垣純也)
 30代の未婚女性を“負け犬”と定義づけ、社会現象にもなった『負け犬の遠吠え』から12年。酒井順子さんは近著『子の無い人生』(KADOKAWA)で、現代の日本で子どもを持たないということの意味をさまざまな視点から語っている。家族、仕事、将来の生活において考え、備えておくべきことを聞いた。

――最近、子どもを産まなかった女性たちの発言に注目が集まっています。先日は女優の山口智子さんが「子どもを持たないことは自らの選択であり後悔はない」と告白し、話題になりました。また、NHKアナウンサーの小野文恵さんが「子どもを産めなかった我々は『良い捨て石』になろう」と発言。こちらも波紋を呼びました。

酒井 アラフィフの女性たちが子どもについて語るようになってきたのは、「自分の人生がだいたいこういう形で落ち着く」ということが見えてきたタイミングだからなのかなと思います。年齢を重ね、冷静に語れるような年代になってきたということでもあるのでしょうね。

――本人の選択を尊重するという意見も多いものの、否定的な声もあります。SNS(交流サイト)上でも賛否両論の議論が繰り広げられました。

酒井 いろんな人がいるということを認めざるを得ない世の中になってきましたが、やはり子どもを持つ人は、産んだことが正しいと思いたいし、産んでいない人も、自分の選択は間違っていなかったと思いたい。みんな「自分の存在は正しい」「自分はこれでよかった」と考えたいのではないでしょうか。

 子どものいない「子ナシ族」は、今や珍しい存在ではなくなりました。生涯を未婚ですごすのは男性は10人に2人、女性は10人に1人。さらに子どものいない既婚者を合わせれば、その数は決して少なくない。今後、高齢化社会に向けて大量の「子ナシ高齢者」が増えていくのは確実です。これからは、出生率と同じように「生涯未産率」が注目されるのではないでしょうか。

■「みとり」のシステムが社会的な要請になってくる

――今回、酒井さんがこのテーマについて書くきっかけとなったのが「お母さまのみとり問題」だったとか。

酒井 父は既に他界していたので、母のみとりは子どもである私たちが行いました。その時に感じたのが、子は親をみとるために存在するということ。そして、みとりを終えたらそれで終わりではなく、葬儀や相続にまつわる作業、遺品や家の片づけなど、やるべきことが山積みです。膨大な作業をこなしながら、「で、私の時は誰がやるの?」と思ったんです。その時にあらためて、子どもがいない人生について考えるようになりましたね。

 上野千鶴子さんも「おひとりさまの最期」という本をお書きになりましたが、これからはどうやって「自分のお棺の蓋を閉めるか」、そのためのシステムづくりを構築する必要があると思うんです。私には姪(めい)っ子がいるのですが、今後は独身の叔父・叔母を持つ甥(おい)・姪たちの負担が社会問題になってくるでしょうから、そのあたりも考えていかなくてはいけないですね。

――個々人の問題だけでなく、社会のシステムとして必要になってくると。

酒井 ある意味、ビジネスチャンスでもありますよね。子ナシ族が周囲に迷惑をかけずに安心して死んでいけるようなサービスには需要があると思いますよ。

――以前は、子どものいない人生について意識されたことはありましたか?

酒井 周りの友人たちが出産しはじめる20代後半から30代は、子持ちと独身で遊び方や暮らし方が大きく変わり、これまで仲の良かった友人と疎遠になって寂しさを感じたこともありました。でも40代に入ると、子持ちの人も子育てがひと段落してまた会うようになり、違いをそれほど意識しなくなりました。親のみとりや自分の老後について考えはじめる40代以降は、再び子どもという存在について向き合う時期なのかなと思います。

――私も「40代子どもなし」のひとりですが、年齢的に出産のリミットが迫る40歳前後は、「産んでおくべきか」という迷いや焦りから気持ちが波立つ人が多いように思います。SNSで同世代の子どもネタや、写真入り年賀状を見ると落ち込んだり、自己嫌悪に陥るという悩みも聞きます。

酒井 もう産まないであろう40代後半以降になると、そうした気持ちも落ち着いていくものです。ただ、SNSにアップされるのは基本的に“光”の部分。「子供が不登校で……」などということは書きません。メディアも“美人で仕事ができて2児のママ”といった人たちにスポットを当てがちですが、そういう人たちと自分を比べだすとどんどん不幸になっていく気がするので、そこは「外国人のようなもの」と考えておくのはどうでしょう。とはいえ、少子化という状況を考えれば、そうしたプレッシャーも若い人には多少は必要かもしれません。

 落ち込んでしまうのは、「自分を哀れだと思いたくない」という気持ちが強すぎるからかもしれません。その「かわいそうさ」を逆に楽しむくらいの視点を持っておく方がラクでいられるのではないかと思いますよ。

――酒井さんご自身は、子どもが欲しいと思ったことは?

酒井 一度だけ、子どもがいないことに対して「これでいいのかな」と考えたことがありました。でも、そもそも子どもが苦手なので、そんな気持ちも一瞬でおさまり、今に至ります。結局、出産年齢のリミットがもたらした生物としての焦りだったのかなと。私は、サボテンすら枯らしてしまう人なので、何かを育てるということに向いていないし、そうした欲求も薄い。それが分かってからは、「子どもがいなくてよかった」と思うようになりました。

――自分は不向きだと受け止めた上での結論なのですね。ただ「産めるのに産まない」という女性の選択を「単なるわがまま」と捉えたり、「子育て経験のない女性は未熟」という価値観もあり、そうした風潮に肩身の狭さや劣等感を抱くという人もいます。

酒井 子どもがいなくて働いている人は、いわば「有機物を生まずにお金という無機物を生んでいる」わけです。きちんと働いてお金を稼ぎ、税金を納めているというところをよりどころにしようとしているけれど、「無機物より有機物を生産する方が偉い」という観念が世の中にある。でも、そこは開き直ってしまえばいいのでは。未熟でも不完全でも、別にいいじゃないですか。『負け犬の遠吠え』でも書きましたが、最初から自分の負けを認めていれば張り合わなくていいし、ラクでいられます。

 それに、子どもがいる人が皆、人格的に素晴らしいかといえばそんなことはないですよね。逆に、子どもがいるのに自分は不完全だと感じているママのほうがつらいかも。「母親なのに母性がない」とか。お母さん=いい人というプレッシャーに苦しめられる人もいると思います。その点、子ナシ族は、思いきり開き直れるという利点もありますよね。 (次回は3月24日公開

(ライター 西尾英子)

子の無い人生

著者 : 酒井 順子
出版 : KADOKAWA/角川書店
価格 : 1,404円 (税込み)


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