好調4Kテレビ コンテンツの本命は放送よりVODか
デジタル家電減少傾向の中で4Kテレビは順調
デジタル家電不振の中で、4Kテレビが伸びている。GfKジャパンが発表した「2015年 家電・IT市場動向」によると、15年の薄型テレビ販売台数は前年比約1%減の約570万台となった一方で、4Kテレビの販売台数は前年の約3.2倍となる約54万台を計上。テレビ全体に対する4Kテレビの構成比は数量ベースで前年の約3%から約9%に、金額ベースで約13%から約30%に拡大したという。
2月1日から3週間の家電量販店における販売動向をみると、4Kテレビが薄型テレビ全体販売に占める割合は数量ベースで約18%、金額ベースで約45%に達している。50インチ以上の大型テレビでは数量ベースで約70%、金額ベースで約83%を占めているのだ。50インチ以上の新モデルのほとんどが4Kテレビに移行しているという事情もあるが、4Kテレビより価格が安いフルHD(フルハイビジョン)テレビも売り場には残る。にもかかわらず大型テレビでは4Kが主流になっている状況だ。
こういう状況だけ見ると「4Kの放送も手軽に見られるようになったのか」と思うかもしれない。
しかし現在、4Kテレビで「4K放送」をはじめとする「ネーティブ4Kコンテンツ」(4K映像で作られたコンテンツ)を視聴するためには、いくつかのハードルを越えなければならないのが現実だ。
無料の4K試験放送は16年3月31日に放送終了
現時点で4Kコンテンツを楽しむには以下のような方法が考えられる。どれも「4Kテレビさえ買えば楽しめる」というものではない。実際には以下のように、視聴できる4Kコンテンツには様々な制約がある。
●「ひかりTV 4K」や「Netflix」、「4Kアクトビラ」などのVOD(ビデオ・オンデマンド)サービスに対応する4Kテレビで有料コンテンツ(一部無料コンテンツもあり)を視聴
●16年春以降順次発売される見込みの「UHD Blu-ray Disc(UHD BD)」をUHD BD対応プレーヤーで再生して視聴
●4Kビデオカメラで撮影したプライベートコンテンツを4Kテレビで視聴
14年6月に放送を開始した4K試験放送「Channel 4K」は124/128度CS対応アンテナと4Kチューナーがあれば無料で視聴できるが、16年3月31日には放送を終了してしまう。対応機器の面から考えると、月額利用料が不要で無料コンテンツも用意している「4Kアクトビラ」が最も手軽だろう。
4Kテレビで見ると地デジも高画質になる
上記のように、ネーティブ4Kコンテンツを視聴するためのハードルは決して低くないのだが、4Kテレビの人気は確実に上昇している。大型テレビの最新モデルでは4K以外の選択肢が少なくなっているという状況もあるが、安くて大きなフルHDテレビではなく、4Kテレビを選ぶ理由が存在するからだ。
第一に考えられるメリットは、4KテレビのほうがフルHDテレビより、現在の地デジ放送がきれいに見られるというもの。4Kテレビは「地デジ」「BS・CSのフルハイビジョン放送」「BD」といった現状のフルHDコンテンツを「超解像技術」(高画質化する機能)によって高画質化する。視聴者は、いわば"疑似4K映像"を見ることになる。
ネットコミュニティーなどでは「地デジの汚い映像を高画質化してもしょうがない」といったネガティブな意見が散見されるが、実際に見比べてみると、その違いは明らかに分かる。
地デジは「MPEG-2」と呼ばれる古くて効率の悪い圧縮技術が用いられているため、「ブロックノイズ」や「モスキートノイズ」などと呼ばれるノイズがさまざまな場所に現れる。しかし最新の4Kテレビはこうしたノイズを検知して低減した上で、超解像技術(高度な信号処理技術によって、単純な「画素補間」ではない高解像度処理を行うこと)を用いてアップコンバート(高画質映像に変換すること)処理を施している。そのため、古いテレビでは気になっていたノイズが4Kテレビでは目立たなくなった上に、解像度も2倍にアップしているというわけだ。
ネーティブ4Kコンテンツをどのように視聴できるのかについてどこまで消費者が理解し、納得して購入しているのかは分からないが、画質の高さを認めているからこそ4Kテレビが売れているのだろう。
地上波で4Kコンテンツは当面見ることはできない
現在の地デジがきれいに見られる4Kテレビとはいえ、「いつになったら地上波で4Kコンテンツが見られるようになるの?」と思う人も多いのではないだろうか。
結論からいうと、「地上デジタル放送で4K放送が見られる」という未来が、少なくとも10年以内に訪れることはない。
地上アナログ放送から地上デジタル放送に移行した時期は、現在の地デジで用いられている「UHF帯」のほとんどが空いていたためスムーズに移行できた。しかし現在は従来のテレビ向け帯域の一部が携帯電話用に用いられるようになり、空き帯域がほとんどない状況となっている。電波の送受信の方法を変えるなどして新たな帯域を生み出さない限り、地上放送で手軽に4K放送を視聴できるという未来は訪れないというわけだ。
では今後どうなっていくのか。
まず放送としては124/128度CS(通信衛星)放送を利用した現行の「スカパー!4K」に加えて、16年8月に放送衛星を利用したBS放送(BS 17ch)で4K・8K(フルハイビジョンの縦横各4倍、横7680×縦4320ドットの解像度を持つ放送や映像のこと)試験放送が開始される予定となっている。こちらは毎日10時から17時までの7時間、NHKによる8K放送と、NexTV-F(次世代放送推進フォーラム)による4K放送および8K放送が流される予定だ。さらに総務省を中心に作られたロードマップでは、18年に4K・8Kの本放送がスタートする予定となっている。
ただし現行の4Kテレビでは、「スカパー!4K」をのぞく、上記の4K・8K試験放送や本放送をそのまま視聴することはできない。現状の4Kテレビに内蔵されている「4Kチューナー」は「124/128度CS対応4Kチューナー」であり、「BS対応4Kチューナー」ではないためだ。さらには電波の送受信方法も現行のBSアンテナから変更される予定になっているため、BSアンテナを設置している家庭でも新方式のBSアンテナの導入が必要になる。
現行の4Kチューナーは従来の技術をベースにした規格を採用しているが、新たに開始される試験放送は本放送を見据えた最新技術をベースにした規格を採用する予定となっている。現状ではその規格の詳細を詰めている段階のため、規格化されて、対応チューナーが登場してからようやく視聴できるようになる。
放送は4Kコンテンツの主流にはならない?
これまで紹介してきたように、現在は4K普及に向けた過渡期といえる。「今、4Kテレビを買っても大丈夫なの?」と不安に感じる人も多いのではないだろうか。
最も安心して購入できるという意味では、16年8月にスタートする4K・8K試験放送だけでなく、18年にスタートする4K・8K本放送も視聴できると明言されたチューナーを内蔵するモデルが登場する時期を待つのが正解かもしれない。しかしそれにしてもBS放送を受信できるパラボラアンテナの設置、もしくはBS放送サービスを実施しているケーブルテレビとの契約などが必要になるなど、ハードルは決して低くない。
筆者はそれより、ネーティブ4Kコンテンツの"本命"はVOD(ビデオ・オン・デマンド)になるだろうと見ている。
もちろんUHD BDという手もあるが、現行のBDレコーダーやプレーヤーではなく、UHD BD対応のプレーヤーが必要になる。コンテンツもまだ発売されていない状況なので、普及までには時間がかかるだろう。
それに対し、4K VODはすでに複数のサービスがスタートしており、対応するテレビも数多い。高速なインターネット回線が必要になるものの、アンテナやチューナーなどを用意しなくてもいい点は手軽だ。
対応VODサービスの数で選べ
現時点で大型テレビを購入しようと考えた場合、価格が安いからと、あえて性能の劣るフルハイビジョンを買うのは正直お薦めできない。前に書いたように、地デジも4Kテレビのほうがきれいに見られるからだ。さらに旅行やイベント、子どもの入学式や運動会など、できるだけ高画質でビデオを録画しておきたいと考えている人は、4K対応の家庭用ビデオカメラを手に入れれば、高画質なビデオ映像を4Kテレビに映し出して今すぐ楽しめる。
注意したいのは、一口に「4Kテレビ」といっても、先述の4Kチューナーを内蔵するモデルもあれば内蔵していないモデルもあることだ(チューナーを内蔵していないモデルは「4K対応テレビ」とカタログなどに記載されている)。さらにはモデルによって対応する4K VODサービスも異なる。例えばシャープのAQUOSシリーズは「4Kアクトビラ」に対応していない。「ひかりTV 4K」や「Netflix」は各メーカーの最新4Kテレビのほとんどが対応しているが、古いモデルでは対応していないなどの違いもある。
パナソニックのVIERAシリーズの最新モデルはこれらの3サービスに加え、「dTV」や「Amazonビデオ」にも対応するといったように、4K VODサービスへの対応度はメーカーやモデルによってまちまちだ。実際に4Kテレビを購入する場合には、対応する4K VODサービスの種類をしっかりとチェックすることをお勧めしたい。
また、ひかりTV 4Kの視聴には、「フレッツ光」をはじめとする光回線とインターネットサービスプロバイダーとの契約が必要になる。他のVODサービスを利用する場合にも高速なインターネット回線が必要になるため、その点にも注意したい。
(IT・家電ジャーナリスト 安蔵靖志)
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