がん保険、支払った保険料が還元される割合保険コンサルタント 後田亨

この連載では保険の相談にいらしたお客様との対話を通して「実は間違っている保険の常識」を考えます。今回は「2人に1人ががんになる時代。だから、『がん保険』に入っておいたほうがいい」という認識を疑ってみます。相談に来られた会社員の女性Oさん(38)はがん保険が気になっているそうです。

後田(以下U):「『2人に1人ががんになる』と聞くと、どう感じますか?」

O:「がん保険に入らないとマズいかなって思いますよ」

U:「でも、常識で考えると変だと思いませんか。がんにかかる人がそんなに多いのだとしたら、保険会社は保険金の支払いが増えて大変だろう、それなのになぜ加入を勧めるのだろうか、と素朴な疑問を持ちますよね」

O:「言われてみるとそうですね。どう理解したらいいのでしょうか」

U:「保険会社の側に立って想像してみましょう。仮の数字ですが、2人に1人ががんにかかるというデータがある場合、2人ともが、がんにかかると見込んで保険料を設定しておけば保険会社の経営的には大丈夫そうですよね」

O:「1人分のお金が余りますからね」

U:「はい。そのうえで、積極的に広告宣伝して加入を勧めるということは、他の保険より収益部分も多めに乗せてあるのかもしれない。そのぶん、保険料は高くなるはずなので、果たして検討に値するのかと、そこから考えたほうがいいと思うんです」

O:「なるほど。実は保険会社にとっておいしい商品なのではないかと……。本当のところはどうなんですか?」

U:「それが、ホームページやパンフレットなどを見るだけではさっぱりわかりません」

O:「そうなんですね」

U:「でも、ほんの少し、ゆっくり考えてみてほしいんです。たとえば、ATMを利用する時って時間外手数料(コスト)を気にしますよね」

O:「はい」

U:「何が言いたいかというと、保険という商品を購入する際に、いくらコストがかかっているのかがわからないことを問題視したいんです。がん保険にしても、いくら手数料が引かれるのかなどわからない。つまり加入者に還元される保険料の割合が伏せられたまま、不安をあおられていると感じるんです」

O:「今までそんなふうに考えたことがありませんでした」

U:「例えば投資信託では、運用や管理にかかる費用が公表されています。それと比較すると、保険は不親切・不透明な仕組みです。『詳細は教えないけど悪いようにはしないから、安心のためにお金を払ってください』と言う人がいたら怪しくないですか?」

O:「それはすごく怪しい!(笑) 実際、どれくらい還元されるんでしょうね」

U:「保険数理の専門家の助言を得ながら、相対的に評価が高いがん保険で試算したところ、がんにかかりやすくなる60歳から加入したとしても、還元率は平均余命を全うするまでに支払う保険料の40%未満でした」

O:「えぇ! 保険料の60%超が経費なんですか?」

U:「ただ、診断方法などが進化すると、従来は発見されなかったがんも見つかる可能性がある。そうなれば保険会社の負担が増える可能性もあるので、その要素も織り込んで保険料が設定されているという人もいますね」

O:「いろいろ事情があるのですね。私はどうしたらいいのでしょうか」

U:「経費がたくさん引かれると、そのぶん、保障に回るお金は減ります。この点を重視する人が増えると、保険を選ぶ際の考え方も変わってくるのではないかと思います」

O:「経費ですね。気にしてみます。でも、もしがんにかかったら……と想像すると、やっぱり、がん保険は気になります」

U:「そういう方は多いでしょうね。ひょっとしたら、私たちは、保険会社が提示する『ストーリー』に縛られているのかもしれません。次回、そこら辺について説明したいと思います」

後田亨(うしろだ・とおる) 大手生命保険会社や乗り合い代理店を経て2012年に独立。現在はバトン「保険相談室」代表理事として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。著書に「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)や「がん保険を疑え!」(ダイヤモンド社)、「保険会社が知られたくない生保の話」「保険外交員も実は知らない生保の話」(日本経済新聞出版社)など。公式サイトはhttp://www.seihosoudan.com/とhttp://www.yokohama-baton.com/

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