おしゃれのトレンドはさらに多彩に 賢くつきあうには
宮田理江のファッションラボ
世界で最も女性エグゼクティブが多い都市のひとつはニューヨーク(NY)でしょう。ここで発表されるニューヨークコレクションは、働く女性に最も支持される装いと言われます。動きやすくて主張が明確、しかも程よくフェミニンで大人っぽいムードを備えているので自然と出番が多くなり、アレンジも自在に組み立てやすいからです。さらに「民族のサラダボウル」と呼ばれるほど様々な人たちが集まっているおかげで、グローバル感が高いのもNYモードの持ち味となっています。
ファッションビジネスが盛んという事情もあって、NYコレクションは流行の発信力の高さで定評があります。つまり、NYモードの流れをウオッチしておけば、今のトレンドが大まかにつかめるというわけです。ちょうど2月に、2016-17年秋冬シーズン向けの新作が発表されたばかり。その方向感は日本のおしゃれマインドをも大きく左右します。
「ルールにとらわれない」という大きな流れ
全体の傾向としては「テイストミックスがさらに進化した」といえるでしょう。スポーティーやミリタリーなど、使い勝手にすぐれる「ユーティリティー」感を重視した服は、NYならでは。70年代風ボヘミアンや、リラックス感のある「エフォートレス」など継続しているテイストに加え、ロックやレトロ、未来感覚、タッキー(tacky=悪趣味風)といった新しいムードが上乗せされ、スタイリングの奥行きが深まっています。
1シーズンに打ち出されるトレンドは楽に10を超えていて、細かく分ければ何十にものぼります。つまり、数多くのトレンドが同時進行で動いているわけです。そんなにたくさんのトレンドを全部フォローする必要はそもそもありません。要するに、気に入ったトレンドだけを「つまみ食い」すればよいのです。
ただ、目先の流行とは違って、「時代の空気」とでも言えそうな大きなうねりもあります。こちらはしっかり目配りしておく価値があります。例えば、季節の約束事にとらわれない「シーズンレス」もそのひとつ。NYモードを代表するビッグブランドの「Michael Kors Collection(マイケル・コース コレクション)」はその先導者的存在です。今回も秋冬物のはずなのに、薄手ウエアの重ね着提案で軽快に見せています。性別を超えた「ジェンダーレス」のトレンドも、ツイード生地のスーツで品格たっぷりに演出しています。単に男っぽく見せるのではなく、ボウタイブラウスのようなたおやかなアイテムを組み合わせて深みを出すさじ加減は、さすがです。
「DIANE von FURSTENBERG(ダイアン フォン ファステンバーグ)」は体を締めつけないジャージー素材の「ラップドレス」で有名です。着心地を重視する「コンフォート」の流れをずっと前から先取りしていたデザイナーは、彼女自身がビジネスの成功者であり、エグゼクティブ志向の女性にとってアイコン的存在となっています。オンでもオフでも着回せるラップドレスのような「シーンフリー」のウエアは動作を邪魔しないので、活動的な日々を送る大人の女性にぴったり。
16-17年秋冬の新作では、70年代風の華やぎを取り入れて、いつまでも古びない「タイムレス」の着姿を示しました。節度をわきまえたセクシーさを薫らせているのもこのブランドのすてきなところ。上品で女っぽいという絶妙のバランス感が、大人の女性を格上のおしゃれに誘います。
シーズンレスやシーンフリーといった言葉が示す通り、今の風向きは、従来の約束事を破るところに共通点があります。ただ、むやみに決まりを崩すのではなく、着る側にとって心地よく合理的な方向に踏み越えていくのが「正しいルール破り」。24時間を無駄なく充実して過ごしたいと願う現代女性を応援してくれる、うれしい流れです。こうした全体的な構図の変化に伴う格好で、個別のトレンドが生まれているわけです。2015年に日本で大ヒットしたガウチョパンツも、ジェンダーレスやコンフォートのわかりやすい表現といえます。
大きな時代感をつかみ、「自分本位」で選び取って
今回のNYコレクションでは「すぐ買える」形式のファッションショーが話題を集めました。通常はショーから約半年後に購入できるようになるのですが、ショーの直後からショップで取り扱いを始める試みが相次ぎ、マイケル・コース コレクションとダイアン フォン ファステンバーグでも一部の商品を販売しました。こういった変化の背景には、「発表された服を早く着たい」という消費者側のニーズの高まりがあります。かつては「流行はデザイナーが生み出すもの」とされてきましたが、近頃は消費者の側からブームが起きるようになっており、着る側もトレンドの担い手となりつつあります。こういった動きは「ファッションの民主化」とも呼ばれます。
ファッションを取り巻く大きな時代感をつかんで、自分好みのおしゃれを選び取っていけば、そうした態度自体が新しいトレンドを形づくっていきます。トレンドは「従う」ものではなく、好みに応じて選んだり見送ったりして自分本位につきあっていくものです。その際、個別トレンドだけに目を奪われず、その背景になっている大まかな「シナリオ」を頭に入れておけば、目先のトレンドともっと賢くつきあうことができます。この連載では、そうしたモードの風向きを紹介しながら、みなさんがさらに自分らしいおしゃれを手に入れるためのお手伝いをしていきます。
画像協力:
DIANE von FURSTENBERG http://dvf.jp/
Michael Kors Collection http://www.michaelkors.jp/
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。 著書に『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(学研パブリッシング)がある。公式サイト:http://riemiyata.com/
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