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相続トラブル百科

親の相続が左右するお金じゃない「資産」 司法書士 川原田慶太

2016/3/11

 医療技術や衛生環境が高度に発達した現代の日本で、相続のスタート、つまり人が亡くなる年齢で最も割合が大きいのが「80代」です。20代や30代の若い世代にとっては祖父母にあたる年代で、遺産相続の直接の当事者は自分ではなく親世代である可能性が高いでしょう。

 親世代が相続でどのような財産をどのぐらい手にするのか――。若い世代にとって、その意味合いが以前より大きくなっているのではないかということを前回「20代、30代も人ごとではない 親が得る相続財産」でお伝えしました。

 高度成長期とは違って右肩上がりに給与収入を増やすことが難しくなっているこの時代、遺産相続のようなまとまったストックを手にできる機会が、かつてより大事になっているという話です。

 もうひとつ、今後ますます重要になっていくであろう「資産」があります。通常、資産といえば不動産や預貯金、株式などを思い浮かべるでしょう。

 しかし、広い意味でとらえれば、例えば「人間関係」なども見えざる貴重な資産です。地域、職場、学校、家庭など人間関係を築く場は様々ですが、よい関係を築くことによって手に入る環境や情報は、生き方の質を向上させます。

 この人間関係が、相続の際にクローズアップされることがあります。もちろん家族内の人間関係です。相続が発生した後も、親族同士が円滑なコミュニケーションをとれる関係を続けられるのかどうか、もめ事がこじれて炎上し「もはや親でもなければ兄弟でもない」といった状態にならないかどうか。

 20代、30代には直接利害がないようにも思えますが、もし親世代が親族関係を良好に保てないとなると、子ども世代にとっても「失われた資産」となってしまう可能性があります。

 「無縁社会」という言葉に象徴されるように、隣近所や友人といった従来のコミュニティーが機能しないケースが増えています。近隣の子供会や自治会といった地域単位や、勤め先の職場単位の人間関係、いわゆる「縁」の力はどんどん弱体化しています。家の外での人間関係が縮小してくると、自然に家の中の人間関係が重みを増してきます。

 介護や医療の現場からは「どんなに遠縁でもいいから、連絡できる親類縁者はいないのか?」という深刻な声が聞こえてきます。介護施設と入居者の連絡役となる人が見当たらずに困っているケースが目立つのです。その意味ではいとこ、おい、めいの子どもといった親族とも一定の人間関係を維持し、いざというときに頼らなければならないような事態がすでに現実化しています。

 かつてのイエやムラの呪縛といったドロドロしたイメージではなく、長い時間を経て現代だからこそ再評価される親族の関係の価値。それを20代や30代が手にできるかどうかは、まずは親世代が相続で「末代までの恨み」を買わないかどうかにかかってくるともいえそうです。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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