スマホ世代のPC知らず スキル低下、職場で波紋「PC買わない」に理解の声も

2016/3/13

かれんとスコープ

若者向けの無料パソコン講座も広がっている(2月、川崎市の「コネクションズかわさき」で)
若者向けの無料パソコン講座も広がっている(2月、川崎市の「コネクションズかわさき」で)

若者はパソコンが苦手――。大学や企業でこんな声が聞かれるようになってきた。スマートフォン(スマホ)の普及が若者のIT(情報技術)スキルに影響を与えているようだ。

神奈川大学で情報処理を教える非常勤講師の尾子洋一郎さんが、新入生の異変に気づいたのは3年ほど前。パソコンのタイピングを片手でしかできない学生が目立つようになった。学生からの電子メールには件名や差出人名がなく誰から届いたのかも分からない。「パソコンを持たない学生も多く、スキルは年々落ちてきている印象だ」と話す。

「スマホで十分」

国の学習指導要領では2002年以降に中高で情報教育が本格導入された。しかし授業数も少なく、あまり身についていない人は多いようだ。

今の10~20代はスマホで最初にネットに触れる「スマホネーティブ」世代とも呼ばれる。総務省が15年に実施した調査では、最も利用頻度の高い情報通信端末としてスマホを挙げた人は、20代以下では59.9%に達している。

一方でパソコン利用頻度は低下。東京大学の橋元良明教授による15年の調査で、ネットをする際に「モバイル端末(スマホか携帯)だけ」を利用する人は10代で33.6%、20代で30.1%もいた。「若者はスマホで多くの用が足りてしまうため」とみている。

日本の若者のパソコン離れが米国などより進んでいることを示す調査結果もあり、企業にも影響が広がり始めている。NEC子会社のNECネクサソリューションズ(東京・港)は昨春、新入社員向けにタイピングの研修を始めた。「新人のタイピング速度が遅くなっている」という社内の声がきっかけだった。

NTTデータでは今春入社の社員から、入社後の研修で文章力を高める「日本語ドリル」を導入する。LINEやツイッターでの短文入力に慣れ親しんだせいか、きちんとした文章でビジネスメールなどを書けない若手社員が増えてきていることに対応する。

ビジネスパーソンには、今後もパソコン操作は必須のスキルなのだろうか。オフィスからパソコンを撤廃した経験をもつ企業にも聞いてみた。

スイス製薬大手の日本法人ノバルティスファーマは13年、医薬情報担当者(MR)からパソコンを回収し、代わりにタブレット端末を配布した。顧客との接触頻度を高めるグローバル戦略の一環で、現在も継続中。ただ、パソコンを使わないとできない仕事もあるため共用パソコンを導入し、現時点では他部門に広げる予定もないという。

ヤフージャパンは12~13年に日時を限って社内のパソコン利用を禁止し、スマホとタブレットで業務をこなす「スマホフライデー」という試みを実施した。スマホ分野に注力する意識を浸透させる狙い。社員にはおおむね好評だったが「スマホでは閲覧できないフォルダーがある」など苦情の声も上がったという。

新たな格差も

少なくとも現段階では、企業のオフィスからパソコンを一掃するのは難しそうだ。

若者のパソコン技能の低下には「慣れていないだけ。教えればすぐに覚える」と楽観視する声も多い。ただ東大の橋元教授は「研修などの機会を得られない若者との間で、新たな格差が生まれる可能性がある」と警鐘を鳴らす。従来はデジタルデバイドといえば中高年の問題だったが、今後は若年層の内部で顕在化してくるかもしれないという。

2月下旬、川崎市で若者就労支援を手掛ける「コネクションズかわさき」が開いた無料パソコン講座では、求職中の若者たちが表計算ソフトの講義に熱心に聞き入っていた。出席者は「学校で習ったけど忘れてしまった」「今はどんな求人でもパソコン技能は必要」と口々に参加の動機を語る。ITには精通しているとみられがちな若者にも、今後は丁寧な目配りが必要になりそうだ。

 ◇   

卒論もスマホで?!

パソコン操作が苦手な若者に関しては短文投稿サイトのツイッターでも「あたしの周りにもいる。卒論をスマホでやりたいとか言ってる人とか、コピペができない人とか、半角変換の場所知らないとか」などと話題になっていた。

上の世代からは「なんで今時の若者はパソコンできないの。ワードくらい授業でもやったでしょ」「最近の若者はまともなパソコンの使い方も知らんのか」「せめてダブルクリックくらいまともにできるようになりましょう」と批判する声が出ていた。

一方で「iPhone6+を持ってみて、最近の若い人がPCを買わないというのがよく理解出来た。そら、要らんよね」「むしろ、新しいデバイスに対応できない現行体制の問題を解決するべきではなかろうか」と理解を示すつぶやきも。調査はホットリンクの協力を得た。

(本田幸久)

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