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ITで外国人客を守る 地震の多い日本だから… 拡声器で自動翻訳/タブレットで「通訳」

2016/3/11

成田空港(千葉県成田市)では、自動翻訳するメガホン「メガホンヤク」を試験的に配備している

 東日本大震災から5年。当時に比べて激増しているのが、日本を訪れる外国人旅行者だ。地震や津波、大雨などの災害が発生したときに、日本語が通じない訪日客向けにどのように情報を発信し、スムーズに避難させたらよいか。現在、官民連携で対策を急いでいる。鍵を握るのがIT(情報技術)だ。

 「火災が発生しました」「煙から離れてください」。2月19日、空の玄関・成田国際空港(千葉県成田市)で開かれた消防訓練。自動翻訳できる拡声器「メガホンヤク」を使った誘導実験が行われた。「音声は正しく認識され、通信状態も安定していて問題なく使用できた」と同空港IT推進部の松本英久マネージャーは話す。

 メガホンヤクは、増える訪日外国人を災害から守るため、同空港が昨年12月に配備し、実証実験を進めている。パナソニックが開発中の機器で、日本語で話した内容が、翻訳サーバーに伝わり、英・中・韓の3カ国語に自動で翻訳される。

 これまでも地震発生時は英語、中国語、韓国語で全館放送をしてきた。だが、例えば局所的に「毛布があります」「ビスケットを配布します」などと伝えたい場合、メガホンヤクが役立つとみる。

 「空港内には英語が話せるスタッフはある程度いるが、韓国・中国からのお客に通じないこともある。東京五輪に向けて訪日客が増える中、適切に案内するためにもメガホンヤクを使っていきたい」と早期の実用化を望んでいる。

 パナソニックシステムネットワークス(東京・中央)の荒井大課長はメガホンヤクについて「訪日外国人の増加で翻訳ニーズが高まっている。東京都や警備会社、鉄道事業者や高速道路会社などから問い合わせがある」と話す。

 日本政策投資銀行東北支店が2015年、アジアの8カ国・地域からの訪日客に実施した調査では、約4割が「地震が起こるかどうか心配」と回答した。東京・銀座を訪れた中国四川省の50代の夫妻は「四川でも大地震があった。日本にいる時に同じような地震が起きたら、どうしていいか分からないだろう」と話す。東日本大震災の記憶から、天災への不安は依然残っているとみられる。

 2月8日、東京都千代田区内の5カ所で、首都直下地震を想定した都と同区の合同避難訓練があった。この中で、外国人旅行者向けの訓練が秋葉原駅で実施された。

 あらかじめ募った10人ほどの外国人留学生を観光客に見立て、区に登録している語学ボランティアらも集めた。訓練で活躍したのが、多言語音声翻訳アプリ「ボイストラ」だ。情報通信研究機構(東京都小金井市)が開発したもので、日本語の音声を吹き込めば自動的に翻訳される仕組み。英語や中国語、ベトナム語、インドネシア語など計29の言語に対応している。

 訓練では、秋葉原駅にあるタブレット端末にボイストラを入れて実際に使ってみた。駅員がタブレットに向かって「待機してください」などと言うと、その場で外国語に翻訳されて音声が流れる。「母国語が聞こえるのは安心につながる。5年前の東日本大震災の時には想像できなかったことが、ITの進化でできるようになってきた」。東京都で帰宅困難者対策を担当する森永健二課長はこう話す。

 「防災のための語彙を増やしてもらうよう、働きかけていきたい。スマートフォンで誰もが翻訳アプリを使い、平常時から使える環境になれば」と森永さんは期待する。

 観光庁も訪日外国人の防災対策にアプリを活用している。2014年10月に災害情報の発信アプリ「Safety tips」を発表した。緊急地震速報や津波速報などを自動でスマホに通知する。取るべき行動や避難のフローチャート、大使館の所在地なども盛り込んだ。英語と日本語、繁体字と簡体字の中国語、韓国語に対応しており、無料で使える。

観光庁は地震情報などを通知する「Safety tips」を開発した

 「地震があまりない国から来た人は日本では当たり前のことが分からない。安心してもらう取り組みが必要」。観光庁の山崎亮介・外客受入担当参事官付係長は言う。

 昨年8月には大雨や暴風などの気象特報の配信も始めた。今年度中に噴火速報も追加する。「観光地で噴火があると、安全な場合でも外国人に風評被害が出る。どのレベルから危ないかを解説できるようにする」

 東京や大阪を回る「ゴールデンルート」だけでなく「様々な地域に出かける訪日客が増えた」と山崎係長。外国人向けの防災対策が手薄な地域でも、このアプリがあれば災害情報が入手できる。認知度を高めるため、ポスターやチラシを空港や鉄道駅、観光案内所に配った。今年、サミットを控える三重県の伊勢志摩地区の旅館に置くなど周知を急いでいる。

 2015年の訪日客は1973万人以上。安倍晋三首相は「2020年に年間2000万人」とする目標を「年間3000万人」に引き上げた。想定を上回るペースで外国人旅行客が増える中、防災対策も急ピッチでの整備が求められている。(関優子)

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