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リーダーに戦略を聞く

和食、ネットで発信~ABCクッキング社長に聞く(2)

2016/3/10

 国内最大の料理教室網を運営するABCクッキングスタジオ(東京・千代田、以下ABC)。「口コミ」で料理作りの輪をつくる独自のビジネスモデルで会員数は28万人に拡大した。2014年にはNTTドコモと資本提携した。社長の桜井稚子さんに今後の戦略などについて聞いた。

――ABCクッキングでは少人数制を設け、口コミでスタジオに通っていただく生徒さんが多くいらっしゃいますね。同じようなビジネスモデルで展開している料理教室は他にないのではないでしょうか?

 私どもは常にお客様に目を向け耳を傾けながら、独自のモデルで展開できるよう努めています。おっしゃるとおり、多くの店舗を出店するには様々なハードルが存在しますが、だからこそ私たちは「人」の教育を最も大切にしています。もちろん、レッスンのメニューやサービスなどの内容も大事ですが、コミュニケーションをとりながら、人が介在するレッスンに満足いただければ、生徒の皆さまに「ぜひお友達にも紹介したい」と思ってもらえることができます。こうした流れを作ることが重要だと考えています。

 生徒の皆さんに、楽しみながらコミュニケーションを取ることができる料理教室だと思ってもらえるように、ABCでは少人数制を導入しています。生徒の皆さまは、先生のプロフィールを閲覧することができ、気が合う先生のレッスンを受けることができるのです。

――ABCに通っている生徒の方が先生となり、長期的に関わりを持つ方が多くいますね。

 料理は女性にとって特に関わりの深いものです。人は食べないと生きていけないですし、食べるからにはおいしくて、体に良いものがいいですよね。また、食に関する知識があるのとないのとでは大きく変わってきます。食事や料理に関しては、学べば学ぶほど奥が深いと日々感じております。

■オンラインでも料理教室

 食材についてはもちろん、より有効な調理法や栄養面に至るまであらゆる情報を生徒の皆さまには楽しみながら学んでもらうことを意識しています。また先生に対しても、リアルの勉強会だけでなくオンラインでも自主学習用の動画を配信して、どこにいても学ぶことができるようにしています。各先生の知識量やスキルを向上させることで、生徒の皆さまにも質の高い情報をお伝えしてもらえるように力を入れています。

――ドコモと資本提携していますが、具体的にどんなデジタル戦略を進めていますか?

 2015年5月28日に「dグルメ」というサービスをスタートさせました。ドコモとの資本提携の主な目的はリアルとオンラインの融合でしたし、ドコモもモバイルだけでなくライフスタイルに関する情報をオンライン上においても提供したいと考えていたため、提携することになりました。

 ABCに通う生徒の皆さまが自宅に帰っても食の情報を瞬時に手に入れることができ、食に関する周辺ビジネスを一つのサイト内において、ワンストップでサービス提供できるようにしています。具体的にはクックパッドや食べログに協力をいただきながら、「毎日のおいしいとおトクな情報」を提供するグルメサイトを運営しています。今後もこのサービスにとどまらず、新たなビジネス展開も考えています。 

――今後の展開を具体的に教えてください。

 昨年よりスタートし始めたのは通信講座です。まだスタジオ出店ができていないエリアの方や、なかなか通学が難しい方でも料理やお菓子作りを学んでいただくため、通信講座という形でレッスンを提供しています。国内・海外問わず、店舗展開にはある程度の時間を要するため、動画などのオンラインをうまく活用することが重要だと考えております。特に今、和食が世界中から注目されたり、健康食への関心も高まっています。食における日本のリソースは非常に大きいものです。今後も世界を視野に入れながらサービスを拡充し続けていきます。

■シンガポール店に5000人

――海外進出を始めていますが、現地の方々がスタジオに通っているのでしょうか?

 おっしゃるとおり、先生も生徒も現地の方がメーンで、レッスンの受講料に関しても日本とさほど開きのない価格設定にしています。「世界中に笑顔のあふれる食卓を」を企業理念として掲げているということもあり、和食だけでなく、スタジオがある国それぞれの料理を継承してもらおうと、メニュー開発に取り組んでいます。

――海外の現地の方々を対象にビジネスを展開することは容易なことではないですよね。

 決して容易ではありませんが、とてもありがたいことに昨年のシンガポール1号店を出店した際は特に大きな反響をいただき感謝しています。体験レッスンに参加いただいた方は5000人を超え、現在約3000人の方に継続的にお通いいただいてます。家庭で日常的に料理を作る習慣がないと言われるアジアの各地域においても、カジュアルに楽しみながら料理を学ぶ場所を求めているという潜在的なニーズを実際に出店することによって実感できました。

 また中国では、贈り物をする習慣や文化が根付いているため、手作りのケーキを作りたいと、ケーキコースの需要が高い傾向にもあります。アジアは今後特に楽しみなエリアですし、積極的に出店をしていきたいと思っています。

――社内における女性の割合は?

 弊社の女性比率は99%です。現場に関しては店長も幹部も全員女性で、役員も半数が女性です。しなやかな女性の力を十分に発揮させながら、男性の力とともに会社を強くしていくことが理想的だと思います。

――ヘルス事業にも力を入れていますが、今後の展開は?

 周辺ビジネスに徹底して取り組んでいきたいと考えています。生徒の皆さんのニーズは年々変わってきています。特に近年では、健康に関するレッスンやセミナーを企画運営するヘルスケア事業に力を入れています。医療機関や自治体と事業の連携をとりつつ、未病を治すレシピの提供や妊活などを通じて女性のカラダ作りをサポートしています。また、1次産業への貢献を目指して地産地消を促すためのプラットフォームづくりも行っています。私たちだけでは実現しえないことも、自治体や各団体、他企業との連携を強化することで、様々なことを実現し、社会をより豊かにしていきたいと思います。

■料理の輪で30年、今年は先生の教育重視

――今年は何に注力しますか?

 ABCは昨年11月に30周年を迎えました。改めて原点に立ち返り成長戦略を打っていこうと考えていますが、その中でも今年は先生に対する「教育」を重点におきたいと考えています。国内外問わず、生徒の皆さまに質の高いサービスを提供するためには、先生の教育が必要不可欠です。また、生徒の皆さまからいただく、先生に対する評価・サービスを確実に反映できる仕組みづくりにも注力すべく取り組んでいます。生徒の皆さまの声こそ会社の成長につながっていくことは十分理解しているため、この仕組みづくりは急務で取り組むべき内容だと思っています。

 また、本社で働く社員に対しても教育を抜本的に見直していきます。彼女たちが取り組む仕事や思い、サービスも現場同様、お客様の評価に直結するからです。教育というプラットフォームを徹底して作ることで常に社会から必要とされる企業を目指します。

(聞き手は日経Bizアカデミー編集長 代慶達也 写真撮影、取材・構成 渡辺智哉 滝川理紗)

桜井さんの略歴 1973年生まれ、静岡県出身。2002年、株式会社ジェンヌ(現在のABCクッキングスタジオ)入社。スタジオ運営スタッフとして働きはじめ 入社1年目に店長、4年目にはエリア執行責任者。その後、出産・育児休暇経て 東京本社 顧客サービス部 の部長として復職。以降は人事・総務の部長として 女性が働きやすい環境づくりをめざし「ワークライフ制度 女性が働きやすい環境づくりの構築を推進。2013年7月に代表取締役社長に就任

[日経Bizアカデミー 2016年1月28日付]

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