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不動産リポート

マイナス金利でも 盛り上がらない新築住宅市場 不動産コンサルタント 長嶋修

2016/3/9

 不動産評価サイトを運営するタス(東京・中央)の「賃貸住宅市場レポート」(2016年2月版)によると、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)のアパート系(木造、軽量鉄骨)空室率が、2015年春あたりから異常な伸びを示している。15年に相続増税が行われたことを受け、一定規模の土地にアパートなどの住宅を建てれば土地の評価額が大きく減額するため、節税対策としてアパート建設が行われた結果である。

 実際の需給とは関係なく、節税のために新築アパートが建設されると、周辺地域の空き家を増やし、賃料水準を引き下げるといったデフレ効果を生む。日銀によるマイナス金利政策は、融資金利を下げることでアパート建設を容易にし、さらにこうした負のスパイラルを巻き起こしかねない。

 マイホームの世界では、かねて実質的なマイナス金利政策がとられていた。ソニー銀行や楽天銀行などネット系金融機関は日銀の政策発表以前から、変動金利が0.5~0.6%の水準にあった。これに、年末のローン残高の1%が10年間、税額控除される「住宅ローン控除」によって、調達金利以上の控除を受けられるからだ。

 11年目以降は控除がなくなるため最終的には金利がマイナスになることはないが、営業の現場ではそうした長期的な視野にたったアドバイスが行われているケースはまれで、多くの購入者は「目先の家賃とローンの比較」といった、近視眼的な前提で購入の可否判断をしているのが実情である。

 例えば、東京都心から30~40キロ圏内で駅徒歩圏にある新築一戸建ては2000万円台後半で売られているが、いまの金利水準で住宅ローンを組むとどうなるか。

 2780万円の新築住宅を全額をローン(諸費用100万円は別途準備)で買った場合、35年返済なら月々の支払いは7万3140円。そこに住宅ローン控除による税額控除の効果を加えると実質的な初期の支払額は5万円程度である(住信SBIネット銀行の2月の変動金利0.579%。住宅ローン控除額が年27万円の場合)。

 しかし、消費税が5%から8%に上がった際に、駆け込みで一時、戸数が増えた以外は、郊外の新築住宅が飛ぶように売れてきたわけではない。貸家のみが、先ほどの相続増税対策を理由に相次いで建てられてきただけであり、新築住宅需要は人口・世帯数減、高齢化の中でむしろ、ダウントレンドにある。

 日銀はマイナス金利効果で設備投資や住宅投資促進を期待しているが、少なくとも住宅市場ではその効果は限定的だ。そればかりか、アパートの増加でむしろデフレを引き起こす側面もある。

 すでに住宅ローンを組んでいる人が借り換えをするという需要は相当程度発生しそうだが、これは単にパイの奪い合いであり、新規需要は生まない。プラス要因としては借り換え後に返済額が低減することによって、その他の消費に回る資金がわずかに生まれる可能性があるといった程度だろう。

 不動産経済研究所によれば、1月の首都圏マンション契約率は58.6%と、好不調を占う節目とされる70%を大きく割り込んでいる。実際、筆者が現場をヒアリングしたところ、マイナス金利を受けて来場者が大きく増加しているなどの動きは確認できなかった。

 マイナス金利が住宅市場に与える影響は、今のところ限定的であり、一部にささやかれるようなバブルの兆しなどは、今のところまったく見られない。

長嶋修(ながしま・おさむ) 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など、著書多数。

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