LGBT描く秀作映画 普遍的な愛、共感呼ぶ
同性愛者や性別違和をもつ人など性的マイノリティー(LGBT)を描く映画の秀作が相次ぎ公開される。リアリズムに基づき、普遍的な愛を繊細に描き出しており、幅広い共感を得そうだ。
ニューヨークの画家ベンと音楽教師ジョージは39年も連れ添ったカップル。親戚や友人に祝福され、晴れて結婚式を挙げる。ところが同性婚が知られたことで、ジョージが学校に解雇される。収入が激減し、医療保険も消滅。2人は住み慣れたアパートを手放す。
アイラ・サックス監督「人生は小説よりも奇なり」(12日公開)はそんな老境のゲイカップルの物語だ。
新居が見つかるまで、ベンは甥(おい)夫婦の家へ。ジョージは同じアパートのゲイカップルの部屋へ。しかし隣人は夜な夜なパーティーを開くので、眠れない。理解ある甥一家とも、一緒に暮らすとなると、互いにストレスが募る……。
「よくある美しいゲイという芸術的視点ではなく、老境に入ろうとするゲイを日常的視点からリアルに描いている。法律が同性婚を認めても、問題はまったく解決していないことがよくわかる」と語るのは映画評論家の黒田邦雄氏。NYの住宅事情や福祉政策に触れながら、家を失った高齢者の苦境を描き、2人の寄る辺なさを浮き彫りにする。
うるさくて眠れないジョージや、甥の妻に疎まれるベンの姿は、上京して子供の家を転々とする小津安二郎「東京物語」の老夫婦を連想させる。一人ひとりは善き人なのに、その間に埋めがたい溝がある。そんな現実を冷徹に見つめ、人生の哀歓を繊細に描き出す。
サックス監督にその点をメールで尋ねると「NYの小津の回顧上映は人生が変わるような体験だった。小津以上に心が通う芸術家はいない」と答えてくれた。
自らもゲイで、9年暮らした画家と2012年に同性婚。「愛情は時と共に深まる。それを映画にしたかった」「これはカップルの映画であると共に、次の世代、その次の世代の映画でもある。世代の継続を描くのは小津の影響だ」という。
トッド・ヘインズ監督「キャロル」(公開中)は、パトリシア・ハイスミスの初期小説の映画化。1952年の原作刊行当時はレズビアンへの風当たりが強く、別名で発表された。
クリスマスの百貨店でバイトをするテレーズは売り場に現れたエレガントな金髪女性キャロルにひきつけられる。別居中の夫と親権を争っているキャロルと写真家志望の若いテレーズの距離は次第に縮まる……。
同性愛への抑圧を描きつつ、ラブストーリーとしての純度が高い。互いにひかれあうさまを2人の視線で繊細に表現する手法は成瀬巳喜男を思わせる。ヘインズ監督は公式インタビューで「ラブストーリーに必要なのは、障害、人々を引き離す何かだ。今日の世界ではそれほどの障害を見つけるのは難しい」と語る。
トム・フーパー監督「リリーのすべて」(18日公開)は20年代に性別適合手術を受けたデンマークの画家の物語。性別違和を題材にするが、偏見に抗(あらが)い現実に向き合う若い画家夫婦の愛の物語でもある。
夫はモデルとして女装した時、自身の内に潜む女性に気づく。妻はこの絵で成功するが、夫の苦悩は深まる。妻は夫の本質を理解し、共に解決策を探る……。運命に抗い魂の自由を求める2人の姿は、溝口健二作品にも一脈通じる。
「3作品ともリアリズムがベースにある」と黒田氏。「LGBTは従来の子育てマイホーム思想から外れざるを得ない。おのおのがどういう新しい生活モラルを創るかが重要になる」とも。
88年の「モーリス」以来、LGBTを描く秀作を多数上映してきたシネスイッチ銀座の吉澤周子氏は、近年の転機として一昨年の「チョコレートドーナツ」のヒットを挙げる。売れない歌手と検察官のゲイカップルが、母親に育児放棄されたダウン症の少年を育てる。「少女漫画的な美しいゲイではないが、素直な感動を呼んだ」と吉澤氏。
普遍的な愛を繊細に描く。それが近年のLGBT映画の現実感だ。「LGBTでなくても、色々な偏見を受け、嫌な思いをしている人は、そこに自分を重ねる。窮屈な世の中で生きなきゃいけないから、共感できる」と吉澤氏は語った。
(編集委員 古賀重樹)
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