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高齢者の住み替え、自宅リフォームも選択肢に

2016/3/13

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 春の風が吹き始めた3月のある日。鯛吉と新衣紗が「たいきちマネー相談所」で働いていると、藤志郎がおしゃれな紙袋を提げてやってきました。「最近評判のお店で買ったんだ」と2人にケーキを渡しました。
大学で金融を勉強中の初野新衣紗(はじめの・にいさ=上)と父の藤志郎(とうしろう=中左)、母の利子(りこ=中右)、隣に住むファイナンシャルプランナー・税理士の有賀鯛吉(ありが・たいきち=下)

 たいきち 差し入れをありがとうございます。今日はどんなご相談ですか。

 とうしろう 察しが鋭くなってきたね。オヤジが「高齢者住宅もいいけど、やはり死ぬまで自宅に住みたい」と言い始めてね。本人は元気だからそれもいいけど、今の自宅は駅から遠くて古いんだよ。

 にいさ 駅の近くに引っ越せばいいんじゃない?

 たいきち 確かに60歳以上で新しい家を買って住み替える人は増えているんだ。野村不動産アーバンネットでは、60歳以上で2015年にマンションや戸建てを購入した人は11年に比べて37%増えている。購入した理由は、古いなどの家への不満が4割程度、高齢化への備えが2割弱だそうだよ。

 とうしろう 高齢化への備えといっても、どんな家を買うんだい?

 たいきち 野村不動産アーバンネットの流通事業本部営業推進部専任部長の伊東秀二さんは「郊外にある広い自宅を売って、駅に近いコンパクトなマンションを購入する例が目立つ」と話しています。駅に近ければスーパーや病院などに出かけるのも便利で、マンションは戸建てよりも防犯性が高いとされますからね。郊外の一軒家から駅に近いマンションに引っ越すと、相続税の面でも有利になるケースがあります。

 にいさ どういうこと?

 たいきち 自宅の土地の相続税評価額は、路線価に面積をかけて計算するのが基本なんだ。だから路線価が高くても、面積が狭くなると相続税が安くなる可能性がある。マンションは敷地全体の評価額に持ち分をかけるから、税理士の板倉京さんは「戸建てより有利になる例が多い」と話しているよ。

 とうしろう でも新居を買うのはお金がかかるなあ。

 たいきち 三井不動産リアルティの調査では、50歳以上で住み替えた人の平均費用は2497万円でした。前の自宅を売った資金で新居の購入費をすべて賄えた人は全体の約8%で、大半は新たに支出しています。持ち出し額は約40%が2000万円から4000万円未満でした。

 とうしろう オヤジにそんな余裕があるかな。

 たいきち 今の自宅をリフォームして住み続けるのも選択肢だと思いますよ。

 とうしろう リフォームならもう少し安くなるの?

 たいきち 同じ三井不動産リアルティの調査では、リフォームの平均費用は717万円で、1000万円未満の人が全体の8割を占めます。

 にいさ 高齢者のリフォームって、何をすればいいの?

 たいきち まず優先させるべきは「ヒートショック」対策だね。寒い脱衣所と暖かい風呂場など急激な温度変化で血圧が上下して意識がもうろうとする状態などがヒートショックで、失神したり転んだりする。心筋梗塞や脳梗塞を起こすこともあるんだ。東京都健康長寿医療センター研究所では、入浴中のヒートショックが主な原因で亡くなった人は11年で約1万7000人だったと推計しているよ。

 とうしろう オヤジも確か血圧が高かったぞ。具体的に何をしたらいいんだ?

 たいきち タイル張りの寒い風呂場をユニットバスに換えたり、脱衣所やトイレなどの床や壁に断熱材を入れたりします。窓も二重構造に換えると効果的です。

 にいさ 手すりをつけたり、段差の解消をしたりするのはやらなくていいの?

 たいきち 高齢になると、歩くときに足があまり上がらなくなって段差につまずくこともある。数センチ程度の段差には段差解消用のスロープをつけるのも手だよ。階段などに手すりをつけるのもいいね。

 とうしろう 具体的にはどんな工事に、いくら必要なのかな?

 たいきち 日本住宅リフォーム産業協会(JERCO)代表理事会長の中山信義さんの話では、浴室をユニットバスに変更すると100万~150万円、トイレに断熱材を入れて、二重窓にすると60万円程度だそうです。キッチンやリビングなどを床暖房にして、床を張り替えれば70万円ほどかかります。いずれも大まかな目安ですが。

 にいさ 資金面で公的な補助はないのかしら?

 たいきち 50歳以上や要介護認定を受けた人などの自宅でバリアフリーに関連するリフォームをする場合は、条件を満たせば所得税から最大20万円、ローンを組んだ場合は5年間で最大62.5万円が控除されるよ。

 とうしろう 実際にリフォームする際は、業者選びも大切だろう?

 たいきち その通りです。JERCOの中山さんは「自治体の窓口で紹介してもらったり、国土交通省のリフォーム事業者検索サイトを活用したりするのが一案。JERCOでも電話相談を受け付けているので気軽に利用してほしい」と話しています。FP住宅相談ネットワーク(横浜市)の代表、黒須秀司さんは「複数の業者から見積もりをとることも重要」と助言しています。工事内容と費用をよく比較してから決めることが大切ですね。

■適切な点検と修繕 欠かさず
 不動産コンサルタント 長嶋修さん
 従来考えられてきた日本の木造住宅の寿命は30年前後ですが、これは取り壊された建物の築年数などをもとにしていて、実態を必ずしも反映していません。現実には一定の修繕をすれば築年数が40年、50年でも十分使える建物が多くあります。最近では木造住宅の寿命は60年、鉄筋コンクリートは100年以上とする研究もあります。
 米国や欧州では築年数よりも取引時点の建物の状態を重視して価格が決まる傾向があります。日本でも建物の耐用年数は30年より実際は長いことが多いとの認識が購入者の間で広がるとみています。そうなれば購入時点の建物の状態が、より価格に反映されるようになるでしょう。適切な点検や修繕をしておけば、自宅の資産価値が高まります。老後に住み続けるだけでなく、住みかえのため売却する場合にも役立ちそうです。(聞き手は川本和佳英)

[日本経済新聞朝刊2016年3月5日付]

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