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運用の極意、時代の潮流をつかむには(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/3/8

「投資で重要なのは時代の方向性を見通すことだが、やすやすとは出来ない。唯一できそうなのは『今』をみつめること。『今』起きていることを虚心坦懐(きょしんたんかい)にみることが、未来に思いをはせる一番の近道だ」

世の中の方向性を見極める方法を考えてみよう、と大上段に出ましたが、正直にいえば、時代の方向性をやすやすとみる方法なんてありません。なんて書いてしまうと、一気にこのコラムがここで終了してしまいますね。

私はプロのファンドマネジャーで、これまでの運用成績ももちろん悪くないので、このようなコラムを書かせていただける栄誉を受けているのですが、マーケットの先行きが「みえた」ことはほとんどありません。「未来」は常に神秘のベールに包まれているし、予想はしばしば外れます。明日どの株が上がるのか、ということでさえ、断言することはできません。

前回のコラムで、投資には「価値」の発見が大事だというお話をしました。そして、それと同等に時代の方向性を見極めることの重要性を強調しました。しかし、未来をみることは原則的に不可能です。それではどうやってこの不可能を可能にしたらよいのでしょうか。

まずは、未来をみることが原則できないならば、唯一できそうなのは「今」をみつめることです。「今」とは一番新しい過去であるし、同時に一番古い未来です。「今」起きていることを虚心坦懐(きょしんたんかい)にみることが、未来に思いをはせる一番の近道です。しかし、この「今」をみるということも非常に難しい。なぜならば、それは「今」をみるのが「私」という一個の人間だからです。

株式市場というのは、多くの人が参加して株価がつくられます。株式市場に参加をする人たちは神様のような人ばかりではありません。というよりも、どちらかといえば、欲深な人や自分のもうけばかり考えているような我利我利な人が大多数かもしれません。さまざまな思惑が働いて、株式市場で売買が行われます。

ところが、そのような人たちが集まって、売買を繰り返すと不思議なことに合理的な価格形成になるから驚きです。もちろん、その時々の株価は、本来の価値よりも高すぎたり、安すぎたりすることも多いのですが、長期的にみると、だいたいそれぞれの会社の収益のトレンドと一致するのです。それが、アダム・スミスが喝破した「神の手」です。

株式市場というのはひとりひとりは不完全な人たちが集積をすると不思議と神様になるのです。ということは、そのような市場参加者のひとりひとりが神様のひとしずく、ともいえます。

さて、「今」の話に戻ります。「今」を判断するのは大事ですが、それを判断をするのは「私」です。先ほどの議論でいえば、自分も神様のひとしずくですが、しかし不完全です。そのような不完全な「私」がどうやって「今」を判断するのか。

筆者がやっている方法は以下の2つです。

1)たくさんの人たちの意見や行動を観察する

2)歴史に学ぶ――ということです。

1)ですが、私は3つのことを実践しています。1つ目は歩き回って多くの人と対話をすること。私は年間100~120日程度を、東京以外で過ごします。そこで、日本中のあらゆる人と対話をします。そのような対話を通じて、多くの人たちが何を考え、どのような見方をしているか感覚的に理解をしようとしています。ただ、これができるのは一部の人で、物理的にも容易なことではないでしょう。2つ目と3つ目はやろうと思えば誰でも出来ます。

2つ目は、できるだけたくさんの人のフェイスブックやツイッターなどSNS(交流サイト)の投稿をながめることです。SNSは発信すること以上に読むことを私は重視しています。フェイスブックやツイッターのよいところは、アカウントを開設するのも無料で、読むのも無料なことです。

もちろん、一日中SNSを眺めているわけにもいきませんが、私は有名人やエコノミスト、投資家だけでなく、全国の幅広い年代の普通の人たちの投稿をできるだけ見るようにしています。彼らがさまざまなニュースや経済事象をどのように感じているのかを知ることが、「私」だけの視点からの脱却になります。

3つ目は、経済の事象におけるさまざまな人の見方を知るのに一番容易かつ有効な方法で、内閣府の景気ウオッチャー調査をながめることです。特に私が重視しているのは、「景気判断理由集」です。この中には、全国のさまざまな職業の人たちが、景気に関するコメントを述べています。これは相当の費用をかけて調査をしているはずですが、その結果を私たちは無償で得ることができます。これは非常に有効な資料の一つです。

2)ですが、私たちは未来を予測することはできなくても、過去の事例から学ぶことはできると考えています。私たちは案外、起きる事象は違えども、新技術や新制度、新しい価値観の台頭などに対して、実に似たような行動をとります。そのような過去の歴史を学べば学ぶほど、「今」の観察を通じて、今後の時代の方向性をある程度、予測できるような気になります。その観点では板谷敏彦さんの「日露戦争、資金調達の戦い」(新潮選書)や出口治明さんの「『全世界史』講義」(新潮社)、拙著の「ビジネスに役立つ『商売の日本史』講義」(PHPビジネス新書)などは参考になると思います。

次回はこのような方法で蓄えた「今」に対する認識からどのように時代の方向性を見極めるのか、考えてみたいと思います。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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