自分の死後 ペットの命を安心して託す仕組み弁護士 遠藤英嗣

独り暮らしの高齢者が増えています。その中には、癒やしを求めて犬や猫を飼っておられる方が多くいます。高齢者の場合、飼い主本人が高齢化するなか、ペットも同じく高齢化し、十分手をかけられないケースが出てきています。

増えてきた「ペットホーム」

最近、家族信託の仕事をしていると、「老犬ホーム」「老描ホーム」という名前をよく聞くようになりました。ペットも人と同じように高齢化時代を迎え、老いた犬や猫のホームが各地にできています。実際、ペットホームなどに対し、高齢者から犬や猫を引き取って世話してほしいという依頼が増えているそうです。

ところが、ホームとしては「はい、わかりました」と簡単に引き受けられない場合が多いようなのです。なぜだかおわかりでしょうか。

飼い主が死亡したり、あるいは判断力が低下して後見人がつくような状態になったりしたときに、誰がペットの飼育料を支払ってくれるかが大きな問題になるからです。もちろん法律的には相続人や親族に支払い義務が承継されますが、それを簡単には実行してもらえないのが今日の世情です。

飼い主の判断能力が低下して後見開始の審判が出た場合は、後見人が飼育料を支払うことになります。私が知っているケースでは、毎月7万円を後見人が飼育委託業者に届け、飼育状況を確認しています。しかし、何か問題が生じた場合は長期間不払いが続くことも考えられるため、保証人がいない限り、高齢者から犬や猫を預かるのを拒否している業者もいるといいます。

老犬老描の家族信託を考える

飼い主ともにペットも高齢化している

老犬ホームと取引のあるペット業者からは、このような問題を解決する「家族信託」の仕組みを考えてほしいという依頼がしばしばあります。

「ペットのための家族信託」の仕組み自体は比較的、簡単です。飼い主が「ペットホーム」(以下「老犬猫ホーム」という)との間で飼育委託契約を結び、一方で信頼できる人(法人でも可能)を受託者にしてこの飼育料を預け、これを老犬猫ホームに支払ってもらうわけです。しかし、当事者の双方に悩みがあります。

老犬猫ホームからすれば「飼い主が死亡したら誰が責任を持つのか」「飼育料は確実に支払ってもらえるのだろうか」ということが心配になるでしょう。一方、飼い主側は「自分の死後、愛情を持って飼育してもらえるのだろうか」「ペットホームが廃業したらどうなるのか」「預けた飼育料を確実にホームに支払ってもらえるのか」という部分が心配なはずです。

最も難しいのは金銭を預ける「受託者」を誰にするかということです。ペット業者を受託者にできればいいのですが、そこには「信託業法」という法律が立ちはだかります。ペット業者が1件しか引き受けないなら別ですが、高齢の飼い主など多くの人から金銭の預託を受けると「営利の目的で反復継続して信託を受託する」ことになり、信託業法に抵触してしまうのです。

親族の中に受託者になってくれる人がいればいいのですが、いない場合の方法には2つがあります。

一つは、受託者法人をつくり、委託者等が役員になり、その業務をこなせなくなったら親族や知人(ペット仲間)に代わってもらうというものです。スムーズに役員交代の手続きをするためには、法律の専門家が1人、役員の中に加わっていた方がいいでしょう。

もう一つは、商事信託です。金銭の信託の部分は信託会社に依頼し、実際の金銭の支払いと預けている動物の確認は信託事務の代行者に委託するというものです。

飼い主が死亡した後の「次の飼い主」の問題も重要です。犬などの動物の飼い主にはさまざまな責任と義務があり、法律や条例上の法的な責務もあります。

ペット仲間や安心して任せられる親族などの第三者と将来的に引き取ってもらうことを約束し、それを盛り込んだ付随的な委託契約を並行して結ぶことで、ある程度そうした不安を取り除くことは可能です。

急激に広がる高齢化や高齢者の単身世帯の増加、社会的ストレスの増大などを背景に、ペットが高齢者の心の支えとなる役割はますます大きくなっています。動物を飼育することは命を預かることであり、飼い主には大きな責任があります。

しかし何より、飼い主個人が自分を支えてくれたペットには生涯、安心して暮らしてほしいと願うのは当然です。それは、親なき後の子を思う気持ちと変わらないはずです。その思いをかたちにする仕組みとして、家族信託は大きな可能性を秘めた手法です。

遠藤英嗣(えんどう・えいし) 1971年法務省検事に就任。高松地方検察庁検事正などを歴任し、2004年に退官。05年公証人となり、15年に退官。公証人として作成した遺言公正証書は二千数百件に及ぶ。15年に公証人を退官し弁護士登録。日本成年後見法学会常務理事を務めるほか、野村資産承継研究所研究理事として税務の専門家と連携して、資産の管理・検証などを研究する。主な著書に「増補 新しい家族信託」(日本加除出版)、「高齢者を支える市民・家族による『新しい地域後見人制度』」(同)などがある。
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし
注目記事
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし