大動脈瘤の実力病院、開胸・ステント使い分け(日経実力病院調査)

川崎幸病院は大動脈治療専従の医師や看護師を配置している(川崎市)
川崎幸病院は大動脈治療専従の医師や看護師を配置している(川崎市)
血管で最も太い大動脈。その血管壁がこぶのように膨らむ大動脈瘤(りゅう)は破裂すると致死率が高い病気だ。動脈硬化が主な原因で、年間の死者は1万6千人を超す。日本経済新聞の「実力病院調査」では開胸・開腹する手術と、体への負担が小さい血管内治療を患者の状態に合わせ使い分けている実態が分かった。医師や施設の専門化や入院短縮にも取り組んでいる。

血管壁が弱くなり、血圧に耐えられず外側に大きく膨らむのが大動脈瘤だ。壁の最も内側の内膜に亀裂ができ、流れ込んだ血液によって壁が2層に裂けて膨らむ「大動脈解離」もある。JR大阪駅(大阪市北区)近くで歩行者10人が死傷した事故で、車を運転し死亡した男性は大動脈解離を起こしていた。こぶが破裂した場合や急性の解離は緊急手術が必要になる。

手術は胸や腹を切ってこぶを切除して人工血管を縫い付ける「人工血管置換術」と、切除せずに治療する「ステントグラフト内挿術」が中心。両方を組み合わせる場合もある。

患者の状態見極め

ステントグラフトは化学繊維の筒に網目状の金属がついた人工血管で、カテーテルで患者の足の付け根の血管から入れる。患部まで進ませて放すと金属部分が広がってこぶに蓋をし、血液の流入を食い止めて破裂などを防ぐ。身体への負担が小さく、腹部が2007年、胸部は08年に保険適用となった。

今回の調査で手術が675例と最多だった川崎幸病院(川崎市)は、03年に国内初となる大動脈治療専門の「川崎大動脈センター」を開設。12人の心臓血管外科医とステントグラフト治療専門の医師3人が所属し、患者の状態を見極めながら治療法を選んでいる。

医師や78人の看護師(うち11人は手術室担当)、3つの手術室は他の診療科と掛け持ちしないセンター専属。山本晋センター長は「経営効率は悪いが大動脈瘤治療に集中してスキルを高めている」と話す。

開設以来の大動脈瘤の手術数は5400例を超えた。難易度が極めて高いとされる胸腹部の人工血管置換術の術後30日以内の死亡率は3.0%で、全国平均(7.9%)の半分以下だ。

心臓病センター榊原病院(岡山市)は手術が296例で全国4位だった。15年からは腹部大動脈瘤で皮膚を切らずに小さな穴からカテーテルでステントグラフトを挿入し、術後に傷口を自動縫合機で縫う方式を採用した。約1週間だった入院期間を2泊3日に縮めた。「体への負担をさらに軽減でき、傷もほとんど目立たない」と吉鷹秀範副院長は話す。

治療前と治療後の大動脈の3次元画像。こぶにステントグラフト治療を行った(小倉記念病院提供)

再発防止なお課題

ステントは動脈内でずれるなどしてこぶ内部に血液が入り込む場合がある。同病院は1千例近く手掛けてきた経験で培った技術を駆使。逆流が想定されるこぶに詰め物をしたり、薬で血液を固まりやすくしたりして、通常約20%の再発率を大幅に減らした。

九州・沖縄地方で手術が最多だった小倉記念病院(北九州市)も開胸・開腹とステント治療を使い分ける。15年まで3年間のステント治療は胸部の患者の3分の1、腹部の半数だった。

大動脈が破裂し、緊急手術が必要な場合も同治療を選ぶことがある。血管撮影装置を備えた手術室があり、患者の血管サイズに合った器具も揃えている。

ただ対象は原則、75歳以上にしている。心臓血管外科の羽生道弥副院長は「まだ保険適用されてからの期間が短く、術後10年以上では治療効果が十分明らかになっていない。60代以下の患者には人工血管をしっかり縫い付け、再手術となるリスクの低い開胸・開腹手術を勧めている」と話す。

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死者数20年で3倍に、高齢化に伴い急増

大動脈は心臓から下腹部に至る長さ約50センチの血管で、酸素を豊富に含む血液を全身に送る。通常は直径2~3センチで、4~6センチに膨らんだものを大動脈瘤(りゅう)と呼ぶ。リスクはこぶが大きくなるほど高まり、破裂すると大量出血を起こして命にかかわる。自覚症状がほとんどないまま進行するため「サイレントキラー」と呼ばれる。

主な原因は動脈硬化だ。血管壁がもろくなり、高血圧の影響で血液が流れ込みこぶができる。患者は70~80代が多く、高齢化に伴い急増。厚生労働省の調査では大動脈瘤破裂(解離含む)による死者は2014年に1万6403人で、20年前(5381人)の約3倍に増えた。

(次回は3月13日に胆管・胆のうがんのデータを公開する予定です)

調査は(1)症例数(診療実績)(2)医療の質や患者サービス(運営体制)(3)医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、インターネット上の公開データから抽出して実施した。
▼診療実績 厚生労働省が2015年11月に公開した14年4月~15年3月の退院患者数を症例数とした。病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1584病院のほか、導入準備中やそれ以外も含め全国の計2942病院を対象にした。症例数の前の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
▼運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の前に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
▼施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目などを比べた。15年9~10月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
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