肥大化・テレビ戦略… 10周年のAKB、課題と提言
評論家・宇野常寛さん
国民的人気アイドルグループAKB48。「会いにいけるアイドル」として爆発的な人気を獲得し、一大ブームとなっているグループも2015年12月に創設10周年を迎えた。創設期からのメンバーも続々と卒業、マンネリ化も指摘されている。AKBがとるべき次の一手はなにか。共著「AKB白熱論争」(幻冬舎新書)などの著作がある、評論家で批評誌「PLANETS」編集長の宇野常寛氏に聞いた。
「ライブアイドル」のスタイル変化
10年前、AKB48はいわゆる「地下アイドル」に近い存在でした。専用劇場でのほぼ毎日の公演と毎週のような握手会を中心としたメディアへの露出ではなく「現場」を主戦場にし、そこを訪れたファンのインターネット上の拡散によって拡大するスタイル--現在でいう「ライブアイドル」のスタイル--を確立し数年で爆発的に動員力を拡大しメジャーへの階段を駆け上ったのが当時のAKB48です。
しかしすっかりメジャー化し、内外にいくつもの姉妹グループを抱えるようになった今のAKB48は当時とはまったく異なるグループに変貌しています。主力メンバーの主戦場は劇場から昔ながらのテレビバラエティー中心に回帰し、握手会は参加券の付属するCDの売り上げ記録のために、明らかに過剰に開催されています。ファン参加型の「ゲーム」として人気を博した総選挙も、盛り上がりに欠けるようになってきています。
この「迷走」の最大の理由は大別して二つあります。ひとつはその規模の肥大です。姉妹グループ合わせて300人超の大所帯のマネタイズは単純に困難であるばかりでなく、テレビ露出やコンサートの演出上も不都合が多いのは明らかです。総選挙も規模の拡大にルールの改正が間に合わず、ファンの1票が状況に影響を与えるのが難しくなっている。現在の規模にあったゲームルールの再設定が必要なことは明らかです。
もうひとつは、テレビとの付き合い方です。テレビスターを生むことでその価値を上げる、という現在の戦略では、地方の姉妹グループは極めて不利で、発展が難しい。ここについては東京のテレビに出られなくても、それなりに芸能活動が行えてご飯が食べられる仕組みづくりが重要だと思います。たとえば、宝塚のような地域密着型のグループとして、活動のベースを再設計するのも面白いでしょう。
◇
<記者の目>
年収減・若年層減少…10年で経済環境も変化
日本全体のCDの総生産額はこの10年で1割減少した。このCD不況のなかでもAKBグループはシングル売上枚数で100万枚(ミリオン)超えの記録を更新中だ。よく知られていることだが、AKBの場合、握手券目当てに1人で何枚ものCDを買う熱心なファンが売り上げを支えている。ただ、その売り上げも天井感が強まってきた。ファンの間では「いつミリオン割れするのか」が新曲発売時の話題になっている。
気になるのがファンの懐具合と少子高齢化の影響だ。勤労世帯の平均年収が低下している。アイドルを応援する活動に回すお金も減っている。ファンもしたたかでCDについてくる握手券以外のおまけの生写真や総選挙の投票券を転売し活動資金の足しにしている人もいるが、その転売相場もピーク時に比べると下落傾向にある。
日本の総人口に占める0~39歳の比率は40%と10年前に比べ6ポイント低下した。AKBグループのファンの年齢層は幅広いとはいえ、若年層の減少は逆風だ。なぜか。この理由も握手会にある。
握手会の会場は関東だと幕張メッセ(千葉市)、東京ビッグサイト(東京都江東区)、パシフィコ横浜(横浜市)といった大規模展示場が多い。床は硬いコンクリート。人気メンバーに並べば待ち時間20~30分は当たり前で、中高年ファンからは「何人ものメンバーを握手を繰り返すと膝や腰が痛くなる」との声を聞く。楽しいイベントだが、ひんぱんに続くと体の負担も重くなる。一休みするためのスペースも不足気味だ。
売り上げ減を防ぐためか、握手会にさらにおまけとして「サイン会」が開かれるのが増えてきた。握手券を持っている人は抽選で当選すればメンバーにサインを書いてもらえる。抽選やサインの時間がかかり、進行が遅れがちだ。待ち時間も通常の握手会に比べ長くなる。抽選は列に並び始め、受付で握手券と身分証明書を確認する時点で行う。当選ならまだしも、外れたうえ並ぶのは精神的につらい。ファンを喜ばせるためのイベントが運営側の期待値どおり、ファンの満足度向上につながっているかは疑問だ。握手会に行く動機が薄れてしまえば、CDそのものの売り上げ減につながる。AKBの最大の成長エンジンが止まってしまう。
グループは総勢300人超。巨大化してしまったAKBグループ。巨艦の針路変更は難しそうだが、これまでも周囲の予想を裏切ってきたグループだ。「あっと言わせる」展開をファンは待ち望んでいる。お手本のない道は自分で開いていくしかない。
(村野孝直)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。