節税の相乗効果を享受 有利に老後資金つくる編集委員 田村正之

「隠れた投資優遇税制」とも呼ばれる個人型確定拠出年金(DC)。自分がお金を積み立て、運用次第で老後のお金が変わる制度だ。自営業者だけではなく、企業年金がなく厚生年金だけの会社員(会社員の約6割)も使える。掛け金が税金計算の対象から控除されるので老後資金を積み立てながら税金が返ってくるだけでなく、運用期間中は税金がかからない。この相乗効果で、DC制度を使わない普通の預貯金でためた場合に比べ、60歳時点で老後資金が2倍超も違ってくることが起きる。

複利効果で雪だるま式に拡大

 グラフAでは年収600万円の人が、個人型DCへの会社員の掛け金の上限額である27万6000円を、様々なやり方で60歳になるまで30年間積み立てた場合のお金の殖え方の違いを試算した。

 例えば個人型DCの枠で投資信託で年利回り4%で運用すると、60歳時点で約1550万円。通常の課税口座で同じ運用をすると1090万円なので、約460万円も差が出る。なぜこうなるのか。

 一つは個人型DCの掛け金が全額所得控除される(税金計算の対象外になる)効果。掛け金にその人の上限税率をかけた分だけ節税になる。年収600万円の人の上限税率は所得税・住民税合わせて20%(復興税除く)なので、年27万6000円の掛け金の場合、年に5万5200円の節税になる。

 一方、課税口座で積み立てる場合は、確定拠出年金に加入する場合の掛け金相当額から税金が差し引かれたままになる。今回のシミュレーションでは、同じ27万6000円を積み立てるのでも、個人型DCなら税引き前の27万6000円を丸々積み立てられるのに対し、課税口座については所得税・住民税の5万5200円を引いた22万800円を実質の積立額として試算した。この差が30年分で約166万円になる。

 460万円から166万円を引いた残りの約294万円が運用期間中、非課税で殖えることによる差などだ(課税口座は分配金や売却益などに2割課税された前提で試算)。個人型DCでは運用期間中は非課税なので長期では複利で雪だるま式に大きく殖える。

預貯金でもDCがお得

 少額投資非課税制度(NISA)は預貯金は対象外で株式や投信などでしか運用できないが、個人型DCでは預貯金も選べる。同じ預貯金での運用(利率は現状の年0.01%で試算)で比べても、個人型DCの枠で預貯金していけば60歳時点で830万円なのに、課税口座の預貯金は660万円(毎年22万800円を積み立て年率0.01%で30年間運用)と170万円も違う。これも掛け金の節税効果に、運用期間中の非課税効果(低金利なのでわずかだが)が加わる結果だ。

 つまり、投資が怖くて預貯金しかしないという人も、まずは個人型DCの枠を優先して預貯金をし、さらに余裕があれば通常の課税口座で預貯金する方がいいというわけだ。

 しかし、せっかく運用期間中も非課税であるという利点を生かすなら、やはり個人型DCの枠では株式などを組み込んだ投信での運用を主体にしたい。

 個人型DCでの投信運用と、課税口座での預貯金運用を比べると、年収600万円の場合で、60歳時点での実質的な資産額は約2.3倍、金額の差は約890万円にもなっている。

 ちなみに将来的には預貯金金利の上昇が見込める可能性もあるため、仮に預貯金の利率を年1%で試算すると、課税口座での預貯金の実質的な価値は750万円になる。それでも個人型DCとの差は2.1倍だ。

 「2013年から個人型DCを始め、低コストの投信を使って国内外の株式で運用しています」というのは都内のIT(情報技術)企業に勤める石原麻貴子さん(44)。年初からの急落にもあわてていない。

 「というより、ほとんど見ていません(笑)。長期で考えれば世界全体に投資していれば資産は殖えていくことはわかっていますし、毎月の積み立てなので、下がった場面はむしろ安く買えて、長期ではお得ですから」と割り切る。

 グラフBは1980年以降、先進国全体の株価に連動する指数(MSCIワールド)の動き(配当込み、円ベース)。世界全体の経済の拡大に連動して資産も殖えている。昨年末までの収益率の平均年率は約8%だ。これは投信などのコスト控除前だが、個人型DCは金融機関さえ選べば市販の投信より低コストで運用できる。金融機関については次回以降見ていく。

長期的に殖やしやすい株式投信

 2008年のリーマン・ショックのようなことがあると一時的に大きく下落するが、世界全体で見れば再び上昇基調に戻る。石原さんはDCを始める前、00年代前半からすでに通常の課税口座で投資を続けていたので「リーマンのときの大きな下落と、その後の回復も経験していますから、最近の下げも気にならない」と話していた。

 株式だけでは値動きが激しすぎるという場合、例えば国内外の株と債券への4資産分散(配当込み、円ベース)であれば、金融危機時の下落も株式だけよりは小さく、収益率の平均年率は6%だった。

 個人型DCの節税効果は、その人の所得税の上限税率が高いほど、そして掛け金が大きいほど拡大する。会社員の年間上限掛け金の27万6000円による比較を年収1000万円の人で行うと、個人型DCでの投信運用と課税口座での投信運用では600万円の差に、個人型DCでの投信運用と課税口座での預貯金運用では970万円もの大差になった。

 自営業者は年間の上限掛け金が81万6000円と大きいので、フルに使えば会社員より効果は大きくなる。

 年収1000万円(上限税率が計30%と想定)の人が個人型DCの枠で81万6000円を掛け、年利4%で運用すると60歳時点で4580万円。課税口座の預貯金で運用するのに比べ2860万円も多くなる。

 表には入れていないが、さらに所得が高く上限税率が高い人だとメリットもより大きくなる。前回登場した大阪の開業医、山田直人さん(仮名、49)は、上限税率が計55%。年に40万円強の節税メリットを受けているうえ、「国内外の株式で運用している分も非課税で増えていて、含み益が4割程度に達している」そうだ。

 個人型DCは60歳以降の受給開始後も税の優遇が受けられる。一時金でもらう場合は退職所得控除、年金でもらう場合は公的年金等控除が使える。

 特に、退職所得控除は勤続年数に応じて「みなし経費」ともいえる非課税枠が設定されていて、20年目までは年40万円、21年目以降は年70万円。38年勤務であれば累計2060万円と控除額が大きい。退職所得控除は通常は会社員しか使えないが、個人型DCを掛け続けていれば、自営業者でも掛けた年数分だけ対象になるので大きなメリットだ。

 受給時の税金は複雑で、うまく使わないと拠出・運用時の非課税効果がかなり薄れてしまう可能性がある。受給時の税金については連載のなかでいずれ改めて考えたい。

老後貧乏にならないためのお金の法則

著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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