2015年の訪日外客数が2000万人に迫るなど、日本を訪れる外国人観光客が急増している。どんな土地にも足を延ばす彼らにより、日本人が気づいていない施設に光が当たることも多い。彼らが今、日本のどこに集まっているのか眺めると「花」「動物」「聖地」などのキーワードが浮かぶ。海外SNS(交流サイト)の解析を手がけるソリッドインテリジェンス(東京・渋谷)のデータを基に、外国人に特徴的な行き先を探した。
外国人を引き寄せる第一のキーワードは「花」だ。
栃木県足利市のあしかがフラワーパークと北九州市の河内藤園という東西の公園の売り物は藤の花だ。注目されたきっかけは米CNNで紹介されたこと。フラワーパークは大藤の木と約80メートルの藤のトンネルで知られ、2014年に1万人ほどだった外国人入園者が15年に約6万人と激増した。河内藤園は絶景の藤棚がクチコミで人気爆発。交通渋滞の原因になるほどだ。
大型バスが続々乗り付ける北海道・富良野のラベンダー畑のファーム富田や、4~5月に咲くネモフィラが東南アジアからの観光客に大人気の国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)にも世界から観光客が集う。
「動物」も注目。東京・浅草に13年開店したWith Bunny浅草店はウサギと触れ合える“ウサギカフェ”だ。初年度は9割が日本人だったが、3年目は外国人が9割に。動画サイトなどで「Japanese Rabbit Island」と海外で話題の大久野島(広島県竹原市)を訪れる外国人の目的も野生のウサギだ。
京都市の嵐山モンキーパークいわたやまには、ニホンザルを見ようと欧米人が。温泉につかるサルで有名な地獄谷野猿公苑(長野県山ノ内町)も根強い人気だ。宮城県白石市の宮城蔵王キツネ村は6種類、100匹以上のキツネが放し飼いされている。
人気コンテンツの「聖地」も海外で知名度を上げている。静岡市のちびまる子ちゃんランドでは14年に約1.5万人だった外国人客数が、15年は約3.2万人に倍増。静岡空港に中国直行便が乗り入れており、外国人のうち7割を中国人が占める。
宮崎駿監督のアニメ映画「天空の城ラピュタ」をほうふつとさせる無人島の友ケ島(和歌山市)は海外のファンが“巡礼”で訪れる。忍者アニメ「NARUTO」の海外でのヒットを受け、伊賀流忍者博物館(三重県伊賀市)の外国人来館者数も右肩上がり。歴史要素も重要で、江戸時代の街並みを再現した大阪くらしの今昔館(大阪市)は着物を着たまま縁側や床の間で写真撮影できるのが人気だ。
B級グルメも関心が高い。たとえば函館を中心にチェーン展開するハンバーガーショップ、ラッキーピエロ。すでに何を注文するかまで決めて来店する人も多い。東京・歌舞伎町のロボットレストランはロボットとダンサーによるダンスショーが楽しめる。現在は欧米系を中心に外国人が約8割を占める。
「SNSに投稿されやすいのは自国では得られない非日常体験」とソリッドインテリジェンスの丸野敬氏。藤の一部やニホンザルは日本固有種で、アニメの聖地を巡礼できるのも日本だけだ。オンリーワンの体験を求める外国人に“発見”されるスポットが今後も相次ぎそうだ。
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伝統的な景勝地で人気があるのも、SNS投稿で映える「絶景」の地だ。千葉県鋸南町の鋸山・日本寺は大仏があり、険しい崖からの絶景も楽しめると投稿が増加。報国寺(神奈川県鎌倉市)は竹林が生い茂る日本的な風景を堪能しに世界から人が集まる。
新倉山浅間公園は間近にそびえる富士山を五重塔と1枚の写真に収められ、特にタイ人に好まれる。山並みを鏡のように映す戸隠・鏡池(長野市)、深い渓谷が続く祖谷渓(徳島県三好市)の自然も評判だ。
(日経トレンディ4月号の記事を再構成。文/佐藤央明)