今野敏著「任侠シリーズ」 改題当たり、痛快ヒット
昔気質の任侠道を旨とするヤクザが、傾いた会社や学校を立て直す「任侠シリーズ」(中公文庫)がヒットしている。著者は警察小説で知られる今野敏で、2015年9月にタイトルやカバーを変更してシリーズ化を打ち出すと、急に話題となり3作累計42万4000部になった。
地域の役に立つことを信条とする阿岐本組は、指定暴力団のはざまで暮らす小所帯。債権取り立てにかかわったことで、倒産しかけた出版社を経営することになった。第1弾の「任侠書房」だ。
社長や役員として乗り込むが、校了間際で忙しい編集者には相手にされず、たじろぐヤクザの様子を描くなど筆致はコミカル。裏社会のリアルな暴露話を載せて雑誌を成功させた上で、多少はむちゃなところもある説得術で、責任逃れや言い訳をする社員のやる気を引き出していく。
「熱意や行動があれば乗り越えられる。論理が重視される時代に、そう納得できるところが支持されたようだ」と中央公論新社の編集担当の菅龍典氏。若い衆はオヤジの気まぐれに振り回されて全力を尽くすわけだが、そこはサラリーマン小説としても読める。第2弾の「任侠学園」は荒れる私立高校を再生し、第3弾の「任侠病院」は経営の傾いた病院を立て直した。
「任侠書房」はもともと、2007年に「とせい」というタイトルで文庫化し、8年間で11刷4万4000部だった。「安定した数字だが、内容は面白いので伸び悩んだのが残念だった」と宣伝・販売担当の東山健氏。第2弾の「任侠学園」は初版3万部のまま、増刷することもなかった。
そこで、「任侠病院」の文庫化を機にテコ入れすることにした。まず「とせい」を改題。余った在庫は廃棄コストもかかるので、社内や取引先の広告代理店、書店などに配ったところ、男女や世代を問わずに好反応だった。社内で初めてキャッチコピーを公募し、選ばれた「不器用な奴らの痛快世直しストーリー」は、書店の店頭販促(POP)や新聞広告に使った。
書店担当者の後押しもあって話題となり、読者からはシリーズ続編執筆の要望が強まっているという。「テレビドラマ化など映像を含め、今後も仕掛けを考えたい」と東山氏は話している。(公)
[日本経済新聞夕刊2016年3月2日付]
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