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「出社+10分だけスポット在宅」勤務 分業徹底、エンジニアは完全在宅

2016/3/2

「スポット在宅勤務のおかげで息子と過ごす時間が長くなった」というサントリービジネスエキスパートの岡本亜矢子さん(都内の自宅)

 仕事で成果を上げたいが、オフィスに長くはいられない。育児などを抱え、望む成果との兼ね合いに悩む女性の復職者は多い。そんな中で、フルタイム、短時間勤務にかかわらず、在宅勤務を上手に組み合わせてキャリアを貫く例が出てきている。どんなふうに組み合わせれば1日の時間を有効活用できるのか。先進事例から働き手と職場の工夫を探った。

 「日中はオフィス勤務、夜は10分単位の『スポット在宅勤務』という働き方がベストな組み合わせです」。こう話すのはサントリービジネスエキスパート(東京・港)の原料部に勤める総合職、岡本亜矢子さん(41)だ。育児休業を経て2014年春に復職してからもフルタイムで働き続けられたのは、「スポット在宅があったため」という。

 麦芽やコーヒー豆など約2千品目に上る原料の購買予算の進捗管理をするのが主な仕事だ。悩みの種は夕方の保育園への息子のお迎え。商談で上司が使うプレゼンテーション資料の作成など集中して一気に仕上げたい時であっても「夕方5時には会社を出なければならない」。

子供を寝かしつけた後に30分だけ「スポット在宅勤務」することも(サントリーの岡本さん)

 試行錯誤の末、月20日間のうち17日間は夕方5時に退社し、息子を寝かしつけた夜9時すぎに10分単位のスポット在宅勤務をすることにした。終日在宅勤務するのは月3日程度にとどめる。「これなら育児もできるし、仕事で成果も上げられる」という。

 スポット在宅勤務はサントリーグループが10年夏から始めた制度だ。従来は「1日単位」でしか認めていなかったほか、必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)があった。対象者は育児や介護といった理由がある社員に限っていたが、一連の制約を極力取っ払った結果、「09年に39人だった利用者が現在は3500人を超えた」(サントリーホールディングス人事本部の千大輔課長)。

 働き過ぎを防ぐため、フレックスタイムで働く場合は会社であれ家であれ「早朝5時から夜10時までの範囲内」とする。

 日本では20年以上前から在宅勤務はあった。だが「目の前にいない部下の労務管理が難しい」「機密保持の安全性が保てない」といった不安の声が多く、普及しなかった。最近は「IT(情報技術)の技術が格段に高まり、生産性を高める有効な働き方と捉え、導入する動きが目立つ」(日本テレワーク協会の今泉千明主席研究員)。

 かつては特殊な装置があるオフィスでしか働けなかった技術者の世界にも、在宅勤務が広がりつつある。電子機器の開発に必要な解析業務を請け負うSiM24(大阪市)は面白い会社だ。パナソニックの社内ベンチャーとして05年に設立した。

 総勢18人のうち、会社に常駐しているのは社長と営業担当者の2人だけだ。技術者14人は全員、関西のほか、愛知県や富山県などそれぞれの自宅で働く。いずれも、専門技術や知識があるのに夫の転勤や育児などで仕事を続けられなくなった女性ばかりだ。

SiM24では技術者14人全員が自宅で仕事をする

 1990年代は大容量のデータを家のパソコンでは扱えなかったが、「今は性能が上がったので、家で作業しても全く問題ない」(大木滋社長)。各自にいつまでにどの解析をどこまでやるといった具体的な指示を社長が出し、分業を徹底しながら、技術者を束ねている。

 在宅勤務歴が10年以上という大阪府四條畷市に住む鈴木佳子さん(46)は元パナソニック社員だ。息子2人が小学生の頃、フルタイムで働くことを諦めた。SiM24では朝9時から午後4時までの短時間勤務の正社員として、自宅で解析業務をする。「学校行事に出られるし、解析の仕事も無理なくできる今の働き方で、キャリアを磨き続けたい」と話す。

 国土交通省の調べでは、在宅勤務をしている人(自営業を除く)は14年で550万人と5年前の1.6倍に増えた。政府は20年までに導入企業を12年度の3倍に増やす目標を掲げる。

 利用者の視点で制度を拡充する企業が増えている。トヨタ自動車は昨春から1歳未満の子を抱え、勤続年数や職種など一定の条件を満たす社員なら週1日2時間出社すれば残りを家で働けるようにした。今年に入り、リクルートホールディングスは派遣社員を含めて希望者が自宅などで働ける制度を導入した。

 積水ハウスは13年春から利用希望者には個別に相談に乗りながら在宅勤務を試行している。「柔軟な働き方として在宅勤務の社内事例を蓄積し、制度化を目指す」(人事部の牧口仁課長)という。

 これからは男女を問わず、育児だけでなく、家族の介護で時間に制約のある働き方しかできない人が増えていく。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員は「場所や時間にしばられない柔軟な働き方を前提に、上司から部下への仕事の与え方や人事評価の仕組みを見直すことが急務だ」と指摘している。

 フルタイムか、短時間勤務か、はたまた定時退社か。復職後の働き方について悩む人は多い。働き手と職場の双方が在宅勤務を上手に活用できれば、力を発揮できる復職者は増えるはずだ。

(編集委員 阿部奈美)

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