マネー研究所

定年楽園への扉

マイナス金利でも退職金は慌てて投資しない

2016/3/10

日銀は1月29日にマイナス金利政策を発表し、2月16日に実施しました。ご存じのように今回のマイナス金利は市中銀行が日銀の当座預金に預けたお金の一部に対してのみ適用されるものですから、個人の預金がすぐにマイナス金利になるというわけではありません。

しかしながら今までにない政策であるため、市場は混乱気味です。今後この政策がどんな効果をもたらすのかは、まだよくわからないというのが正直なところです。

こういう変化のときがビジネスチャンスとばかりに、営業攻勢をかけてくる金融機関やその他の業者は増えてくるでしょう。そこで今回は特に退職金をもらって、そのお金をそのまま銀行においてある人に対して注意すべきことについてお話したいと思います。

最初に結論からいってしまえば、マイナス金利だからといって特別に何もすることはありません。いやむしろ、何もしない方がずっといいと思います。何もしないというのはちょっと語弊があるかもしれませんが、要するに今までの投資や運用スタイルを大きく変える必要はないということです。

そもそも今までも超低金利がずっと続いてきました。ここで仮に0.02%の預金金利が0.01%に下がったといってもわずかな違いです。それこそ100万円で100円かそこらの差です。それぐらいのものは時間外にATMを使えば取られてしまうぐらいの金額です。必要以上に大騒ぎする必要はありません。“マイナス金利だから大変なことになります”などといわれて、あわてて預金をよくわからないまま株式投資などに回してしまう方がずっと被害が大きくなる可能性があります。

また住宅ローン金利が下がったから、この機会に不動産の購入を勧めてくる人たちもいることでしょう。それとて同じことで、今までも金利水準はかなり下がっています。それに対して不動産の価格はここ数年でかなり上がってきています。それでも不動産投資をするというのであれば、今後の収益性をじっくり考えた上でおこなうべきであって、わずかな金利が下がったからといって飛びつくのは禁物です。

行動経済学では「選好の逆転」という現象があります。例えば買うつもりがなくても「今日はポイント3倍デー」とかいわれてしまうとつい買ってしまうようなものです。本来必要なものを買うのが当然で、買い物に付くポイントはあくまでもおまけのはずなのに、ポイントが欲しいばっかりに余計な買い物をしてしまう、本末転倒のようなことを「選好の逆転」というのです。

今回のマイナス金利にまつわる資産運用のアドバイスのような話を聞いていると、いたるところにこの「選好の逆転」のような例が出てきます。「ローン金利がこんなに下がったのだから借りなきゃ損」「預金はますますダメだから投資信託を!」、あげくは「マイナス金利時代の裏技」みたいなコメント付きで百貨店や旅行積み立てが紹介されていたりします。ごくまれに預金金利を引き上げた銀行預金に飛びついたりといった例もあります。

こうした行動自体が悪いというわけではありませんが、判断するに当たってはそれにお金を預けたり投資したりすることの合理性を本質的な観点から考えるべきです。ほんのわずかな金利の上げ下げだけで飛びつくのは考え物といっていいでしょう。

ではなぜ、そういう行動をとってしまうのか? 恐らく、「マイナス金利」という言葉の持つ響きが何となく不安にさせるということが原因なのだと思います。以前も一度お話ししたことがありますが、退職者にとって、退職金や年金というのは老後の生活を支えるための重要なお金です。

マイナスという言葉に惑わされ、株式投資や不動産投資にあわててお金をつぎ込むことは注意すべきです。金利が多少変動したとしても、その数字を実際の金額に当てはめてみて冷静に判断することが大切でしょう。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は3月24日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
オフィス・リベルタス ホームページhttp://www.officelibertas.co.jp/
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