ライフコラム

立川談笑、らくご「虎の穴」

学習塾にいた、すごい教え子 立川談笑

2016/3/2

立川談笑一門会で高座に上がる落語家の立川談笑さん

落語本編の前振りとして話す雑談を「マクラ」といいます。この連載は私=立川談笑と弟子の吉笑、笑二の3人によるリレーエッセイで、毎回私が出す「お題」に沿った雑談をするのがルールです。そう、これはつまり大喜利式エッセイ対決。師弟三つどもえの「マクラ投げ大会」なのです。

今回のお題は「学校で会ったすごいアイツ」。

さあまずは、ここまでの笑二、吉笑の回への評価から。ええ、評価しますとも。

何はともあれ2人とも、長い。長いよッ! 予定の字数をめちゃくちゃオーバーしてるじゃないか。連続でずいぶん長々とサービスしちゃったねえ。こうなるとこの回を読んだお客さんが、

「あれ? これまでたっぷりだったのに、何だか読み足りないなあ。やっぱり師匠は手抜き野郎だな!」

って話になるじゃないか。だから、今回も長めに行くけどね。わはは。

内容としては、内々に指示していた「自己紹介含みで」という注文にはしっかり応えられていたし、何より面白かった。初回からいい感じだよ。この調子で気楽に陽気に行こう。

さてこれで、評価部分はおしまい。いよいよお題に沿った私のマクラを投げてみます。

☆       ☆       ☆

落語家になる前、私は学習塾やら予備校で学習指導をしていました。都内にあった個別指導の学習塾でのこと。

教え子のひとりだった彼は、高校受験を目指して通ってくる中学3年生の元気な男の子でした。彼を一言で表現するなら「悪ガキ。それも下っ端」。学校の成績は振るわず華奢(きゃしゃ)な体つきでスポーツも得意ではない。それでも口は滑らかで人との応対には優れている。何より愛嬌(あいきょう)があって、分け隔てなく誰とでも仲良く打ち解けてみんなに好かれる。

そんな彼は、地元ではちょっとヤンチャなことで知られる高校を受験しました。その当日、彼がその足で報告にやってきました。

「おう、お疲れさま!試験、どうだった?」

「だめ~。もう、最悪だった!」

「あちゃー。できなかったか」

「ううん。紙のテストはまあ良かったんだけど面接が最悪だったんだよ」

「どういうこと?」

「俺たち受験生が3人ずつ並んで面接するんだけど、俺の隣にすんっげーヤツが座ってたんだよ。めちゃくちゃ体が大きくって、丸刈りに稲妻みたいなそり込みを入れてんだ。それもこっちからこう(右耳→頭頂部→左耳)。どう考えてもおかしいでしょ? 何の面接なんだよって。んで、信じられる? 面接官から『きょうはどちらから来ましたか?』って質問されて、そいつ、『うちから』って答えたんだよ。『家じゃわからないでしょう。分かるように教えてください』ったら、『あっちだってばよ!』って指さしやがったたんだよ。しかもその方向は海しかないんだ。これって、どう思う? 最悪でしょ?」

「そうかー。でもまあ、他の受験生のことだから気にするなって」

「いや、そうじゃなくてさ。そんなバカが受験するような高校に行きたいっていう俺が情けないって話なわけよ」

「うむ。でもまあ、受けるのは自由なんだから、とんでもない人だって来るさ。気にしない気にしない」

彼は合格してその高校に通うようになりました。そんなある日にやってきて

「アイツ、受かってた。それも同じクラス」

「うわあ、あの稲妻の」

「そう。めちゃくちゃ怖いから誰もそいつに近寄らないんだよ。何されるか分からないからさ。だから、とりあえず俺が声掛けてみたの」

(どのあたりが「だから」なのか分からないが、こういうところが彼のいいところだ。)

「ねえねえ、その頭の稲妻どうしたの?って聞いたら(←いきなりそこか!)、そり込みじゃなかったんだよ。『あのね、ぬれた手でコンセントいじってたらバリバリバリ!ってなっちゃった』って、本物のバカだったんだ。ねえ、先生。そんなことってあるの?」

「知らないよ。初めて聞くなあ」

「で、よく見るとその稲妻の周りに放射状にハゲがあるから『これもその時の?』って聞いたら、『こっちのは、中学の技術の授業中にハンダたらされた』って。いじめられっ子だったんだよ。許せないと思わない? 学校も警察も何やってんだよ!ってさ……」

20年以上もたった今、彼はいったい何をしてるんだろう。学校の成績はお世辞にもいいとは言えなかったけど、頭のいい子で人付き合いが達者な好人物だったから、会社の経営者にでもなって大いに成功しているかもしれない。そして、もしその会社に大柄な社員の姿があったら、その頭には珍しい形のハゲがあるはず。

受験シーズンになると、思い出とともにそんな夢想が頭をよぎるのです。

☆       ☆       ☆

前回吉笑が別の形で示した通り、「必ずしも自分の実体験に基づかなくてもOK」という手法のひとつの例示でもあります。個人の実体験だけではどうしても埋蔵量に限界があって、この点、よくお笑い芸人さんたちが私生活で積極的に無茶をするのは、ネタ作りの意味も少なからずあると思っています。別にそれが悪いということではなくて。そして、間接体験を引き合いに出す場合には単純に「人に聞いたんだけど」「本で読んだ」「ネットで目にした」ではなく、そこに何かひと味加えることでふんわりと違和感を乗り越えたいところです。

さあ、次回のお題は「赤面!恥ずかしかったこと」。まずは笑二から。ナイスなマクラをぶん投げて見せてくれい!

(次回、3月9日は立川笑二さんの予定です)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>独演会は3月6日、4月13日の予定。吉笑(二ツ目)、笑二(同)、笑坊(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は3月25日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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