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「終活消費」に高齢者走る 墓で「子に負担かけず」 130万人のピリオド(5)

2016/2/29

使用権を買った搬送式納骨堂の前で話し合う井川潤二さん・はる枝さん夫妻(東京都世田谷区のゆいの御廟)

高齢者が生前に暮らしの整理をつけておく「終活」。エンディングノートや遺書を準備する一方で、子世代に負担をかけたくないと、地方にある墓を自宅の近くに移したり、自分で購入したりする人が目立つようになった。終活の一環として「最後の消費」に走る高齢者の心情を探った。

「戦争中亡くなった母の骨を、ようやく父と同じ墓に葬れた」。73歳になる元金融機関勤務のAさんは、そう話すと言葉を切った。Aさんは広島県にあった母方の墓を改葬し、母を含む11人の骨を、神奈川県内の公園墓地の墓に合葬したのだ。

終戦で外地から引き揚げたAさんと父は、母の遺骨を広島県の実家の墓に入れ、首都圏で生活を築いた。その父も亡くなり、墓は神奈川県にAさんが設けた。母の遺骨はそのままで心残りだったため、改葬に踏み切った。

広島県での作業費用は約150万円。下見や立ち会い、寺への謝礼などを含めると300万円弱という。「子は2人いるが、墓が2つでは負担がかかる」とAさん。「私の代で一仕事終わらせた感じ。将来、子は年5000円の管理費を払うだけですむ」とほっとした様子だ。

墓を移す改葬は、近年増えている。須藤石材(東京・豊島)社長の須藤昭さんは「年間2000基ほどある新設墓のうち30%が改葬だ。改葬セミナーを開くと、団塊世代以上の夫婦の参加が多い。『子に迷惑をかけたくない』との動機が目立つ」と話す。

須藤さんによると東京近郊の墓地の永代使用料は1平方メートル30万円ほど。墓石は120万~150万円なので、2平方メートルの墓で200万円くらいかかる。ここに地方の墓の墓じまいの費用が加わる。それでも彼らは子を思いやる。

都市部で増える「搬送式納骨堂」でも、状況は同じだ。

骨つぼを収納する箱である厨子(ずし)が3000~5000基ほどあり、遺族が訪れると礼拝スペースに自動で運ばれる。遺骨は50年後に合葬される取り決めだ。販売を手掛ける、はせがわ執行役員の新貝三四郎さんによると、東京近郊では年間で1万基ほど増えており「団塊世代以上の人に人気がある」という。

元医科大学講師の井川潤二さん(77)とはる枝さん(73)夫妻は、東京都世田谷区にある納骨堂の権利を80万円で買った。近郊に一族の墓もあるが、米国に住んでいた時に知った同国の墓に近いスタイルにひかれた。「海外で働いている子に負担をかけずにすみ、自分が生まれ育った地元で眠れる」と潤二さん。

はせがわによると、使用料は最も高い東京・赤坂の施設で150万円。年1万5000~1万8000円の管理料が要るが、購入者の2割は50年分を前払いしている。

終活消費は、子世代の負担を軽くするのにとどまらない。富裕層の中には資産の継承を意識する人もいる。

仏前で鳴らす黄金の「おりん」など、金製の祭具の売り上げが伸びているのはその代表例だ。約1000種の金工芸品を百貨店などで販売するSGC(信州ゴールデンキャッスル、東京・豊島)。2012年度の売り上げは約30億円だったが、15年度は200億円に達しそうだという。社長の土屋豊さんは「金製品売り上げの80%が仏具や仏像になって驚いている」と話す。

おりんは18金製で、200万~300万円の製品が売れ筋だ。価格は同量の金地金の2~3倍で、購入者の9割超が65歳以上。土屋さんは「多くが富裕な自営業主に売れている。いざというとき、子が換金できるようにしたいと考えてもいるようだ」と話す。

おりん、仏像などは、墓と同様に相続税法12条により課税されない祭祀(さいし)財産になる。ただ、税理士の小池正明さんによると、祭具の非課税・課税の基準は、裁判例がほとんどなく不明だという。元値が地金より高いため、金の値上がり益を狙うのも難しそうだ。SGCの土屋さんは「購入者は自分の生きた証しを、価値が永続的な金に求めている面もあるのでは」ともみる。

自分の代で墓問題を解決しようという責任感、子に決して迷惑はかけないという決意――。様々な思いで高齢者は最後の消費に向かっている。

  ◇   

終活消費で、通常最も高額なのは墓地だ。はせがわの調査では、実際にかかった墓の総取得費用は、都市部で平均213万円、地方で同174万円。都市部の60代に限ると平均は220万円だった。

比較的安価な公営墓地は人気が高い。都心部で手ごろな金額で墓を手に入れたい、というニーズに応えているのが、東京都大田区にある久が原庭苑だ。樹木葬に近い埋葬方式の「庭園墓」で、永代供養料は1人用が35万~50万円、4人用が200万円。1人用の墓は墓標下の地中に骨つぼを埋め、骨は3~13年後に合葬される。運営するアンカレッジ(東京・港)によると、半数が生前購入で、女性が過半だという。金額面に加え、花に埋まり眠るイメージが女性に支持されている。

(礒哲司)

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