後田(以下U):「『保険には何も入っていない』というと、職場の人たちから『本当に?』と不思議がられるそうですが、それはなぜでしょうか」
O:「やっぱり誰もが『何かあったらどうするの?』と言いますよね。まだ30代で、今までは病気らしい病気をしたことがないけれど、これからは違うかもしれない。急に入院することになったとき、お金の心配をしなくていいように『医療保険くらいは入っておくのが普通だよね?』と言われますね」
U:「ご自身も『そう言われるとそうだな』と感じますか?」
O:「はい。さすがに何も入っていないのは不安です。特に老後に入院することを想像すると、人ごととは思えなくて、マズいかなと……」
U:「私も保険の営業をやっていたころ同じように考えていました。子育てが終わった人には、それまで2000万円くらいあった死亡保障を小さくするかわりに、1日当たり5000円の入院保障を1万円に増額するような提案をしていたんです。『これから入院リスクが高まる年齢になるので、入院保障を厚くしましょう』とね」
O:「なるほど。私がお客さんだったら、その提案に乗ります」
U:「ですよね? 私もお客さんの役に立てていると思っていたんです」
O:「違うんですか?」
U:「はい。根本的に違うんです」
O:「えっ、高齢になればなるほど入院保障が必要になるという考え方はおかしくないと思いますけど」
U:「人の『思い』としてはそうですよね。でも、保険の仕組みを考えるとそれは間違いなんです。極端な話をしましょう。入院したら『お見舞い金』として一律3000円が支払われるが、保障はそれだけ、という保険があったら入りますか?」
O:「たった3000円ですか!? それなら入りません」
U:「そうですよね。毎月支払う保険料は数千円程度なのに、1カ月入院したら30万円、先進医療を受けたら300万円などの金額をもらえるから保険に入るんですよね」
O:「はい」
U:「唐突ですが、数千円払っただけで桁違いの大金をもらえることがある仕組みって、宝くじに似ていませんか?」
O:「確かに……」
U:「宝くじの当選者に大金が支払われるのは、ハズれる人が大半だからです。仮に、クジを買った人全員に300万円が当たる宝くじがあるとします。その宝くじの値段は、販売側の経費などを乗せるので、絶対に1枚300万円超で売られるはずです。そんなもの誰も買わないですよね?」
O:「そうですね」
U:「保険も同じだと考えられませんか? 入院する可能性が高い人に手厚い保障を約束するということは、いうならば『当たりが出やすいクジ』です。思わず『それは買いだ!』と反応しそうですが、少し考えたら『いくらで売られるのか値段を考えれば、いい買い物にはなるわけがない』とわかるでしょう」
O:「そうか。必然的に高い買い物になるということですね。気づきたくなかった(苦笑)。なぜ『安心のためには保険』って思ってしまうんでしょうね」
U:「安心したい、保険で救われたい、という願望が思考を邪魔するのだと思います。私の場合は保険営業という自分の仕事を正当化したい願望があり、そもそも保険の利用が有効なケースは限られていることに気づくのが遅れました」
O:「じゃあ、『がん保険』はどうなんでしょうか」
U:「気になりますよね? 続きは次回お話しします。今回、お伝えしたかったのは、保険の仕組み自体はとても良いものですが、保険が向く保障、向かない保障があることを見極めましょうということなんです」
