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「こんな作品を見たい」ファンが資金を捻出し夢を実現

エンタ系クラウドファンディング最新事情

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NIKKEI STYLE

 ファンからの資金支援を受けてまだ見ぬ作品を実現化する、クラウドファンディング。活発化するエンタ系のプロジェクトを、調達額の多い順に独自ランキングを算出しレポートする。

「ゲームのアニメ化に約1億円」「堤真一・満島ひかり主演映画も活用」など、エンタテインメント作品の制作にクラウドファンディング(以下、CF)を活用する動きが広がっている。

CFとは自分のアイデアをネット上に公開することで一般の人から資金を集める仕組み。参加者は見たい作品や欲しいものがあれば、お金を出しあってプロジェクトを支援。さらに支払った額によって各種リターン(見返り)を受け取れる(囲み参照)。日本では2011年ごろからCFサイトができ始め、15年7月時点で、累計35.5億円が国内のCFサイトを利用して調達されている(三菱UFJ信託銀行調べ)。

今回、国内主要CFサイトのエンタテインメント系プロジェクトを、調達額の多い順にランク付けした。上位のプロジェクトを見ると、コアなファンはいるが、一般的な知名度はさほど高くない作品が中心。また、調達金額が数千万円に達するものも多いが、ジャンルによっては制作費全額にはならず、一部をまかなう形を取っているものもある。

ジャンルの中で半数以上を占めたのは、予算のかかる映像・映画に関するもの。特に1位と2位は映像の中でもお金のかかるアニメ化だ。国内CFサイト最高額の約9660万円を集めたのは、学園伝奇バトルアドベンチャーゲーム『Dies irae(ディエス イレ)』のアニメ化プロジェクト。シリーズ累計10万本以上を売り上げる人気ゲームだけに、目標金額の3倍以上を集めた。今後は17年のテレビアニメ化も予定されている。2位は、こうの史代原作のマンガで、戦争下の広島・呉で生きる少女の物語『この世界の片隅に』のアニメ映画化。集めた約3620万円でパイロットフィルム(試作品)を製作し、今秋には本編が劇場公開される。

他にも映像系では、日本人監督初のクジラを巡る世界論争をテーマにしたドキュメンタリー映画製作(4位)や、昨年解散したJAZZバンド・PE'Zのラストライブの映像化(6位)などがある。有名俳優の主演映画では、7位の堤真一主演映画『神様はバリにいる』(14年公開)では宣伝費用のため、14位の満島ひかり主演の映画『ハロー!純一』(14年公開)では、小学生に限って映画料金を無料にするためにCFが利用された。

CFが「売れる」確証に

音楽系でもCFは盛んだ。3位に入ったのは、声優・アニメ関連のラジオ番組で人気のMC・鷲崎健のプロジェクト。アルバム発売とライブ実現に、音楽系としては史上最高額となる約3080万円が集まった。5位は05年から神戸で毎年4万人を動員する、無料の音楽チャリティーイベント「COMIN'KOBE」の存続支援。15年は従来の施設が使えなくなり予算が不足、会場費などを確保するための資金として約2280万円の調達に成功した。

プロダクト系では、9位がAmadanaとユニバーサルが共同で行ったスピーカー内蔵レコードプレーヤーの開発企画。スピーカーが一体化された手軽さも受けて約1420万円を集めた。同じく10位で約1390万円を調達したのは、『スター・ウォーズ』の世界を浮世絵にするプロジェクト。ファン心をくすぐるコラボレーションに、ダース・ベイダーの浮世絵は即完売し、海外のメディアにも多数取り上げられたという。

コミュニティー作りにもCFは利用されている。11位のマンガサロン・トリガーでは、3000冊の蔵書とマンガに精通したコンシェルジェを常駐させるとして約1260万円を調達。17位の深夜まで営業する図書館・森の図書室では、1700人を超える人から約950万円を集めた。

CFでは資金調達だけでなく、応援してくれるファンを獲得できることも大きなメリット。プロジェクトに彼らを巻き込むことで、SNSで拡散してくれるなどの宣伝効果もあるからだ。またプロダクト系のCFはリターンが商品そのものとなることもあって受注販売に近く、ユーザーの反応を見る「テストマーケティング」のような側面もあるという。CFサイトMakuake代表・中山亮太郎氏は、「CFを利用することによって、新たに生み出そうとしているものが、世間の人たちに受け入れられるかどうかの確証が得られることは非常に大きい」と語る。

リターンで「一緒に山登り」

また、エンタテインメント系のプロジェクトの場合、リターンに独自の色を出しやすく、それが資金調達のアドバンテージとなっている。一般的なプロジェクトのリターンが商品などのモノであるのに対し、付加価値の高い体験を売りにすることができるのだ。

18位に入った、14年に結成30周年を迎えたニューロティカのボーカル・あっちゃんに焦点を当てた音楽ドキュメンタリー制作はその典型。普段は東京・八王子のお菓子屋の若旦那を務める、彼の2足のわらじ生活を追った作品なのだが、支援金20万円のリターンにはDVDなどに加えて、「メンバーと行く八王子、高尾山グルメツアー」が付いてくる。実際ニーズもあり、5人の応募があったそうだ。

ランキング圏外ではあるが、アイドルのCFも面白いリターンが目立つ。ベイビーレイズJAPAN・傳谷英里香のソロ写真集プロジェクトでは2万円から写真集の撮影見学が可能に。お花アイドル ・hanarichuのプロジェクトでは、5万円からレコーディングに立ち会え、25万円ではライブのセットリストの考案ができるなど、運営にも参加できた。

ミュージシャンやアイドルのプロジェクトを多く抱えるCFサイト、CAMPFIRE前代表・石田光平氏によると、「リターンという仕組みを上手に使えば、ファンとアーティスト双方に新たな形のメリットが生まれる」と言う。

そして国内のCFサイトが50社を超えるなかで、エンタ系に特化したものも出てきた。ガガガSPなどのミュージシャンを抱える、音楽マネージメント会社LD&Kは、2016年1月12日に自社でCFサイト「we fan」をオープン。資金調達だけにとどまらず、音楽業界で培ったノウハウを生かし、新人ミュージシャンのレコーディングからライブ、宣伝、グッズの製作など、プロジェクトの実行をサポートしていくのだという。

 今後もCFは、なかなか実現できないエンタテインメントを後押しする、貴重な役割を担っていくことになりそうだ。

(ライター 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2016年3月号の記事を再構成]

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