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バイオリニストがつくる国際音楽祭 諏訪内晶子さん

2016/2/27

 世界的バイオリニストの諏訪内晶子さんが芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON」。トヨタグループの協力を得て2013年に始まり、3月の開催で4回目となる。諏訪内さんの発想と人脈を生かし、開催地を限定せず、後進の育成も大切にした音楽祭だ。モーツァルトを弾く諏訪内さんの映像を交えながら、彼女に独自の音楽祭のつくり方を聞いた。

 「日本に少しずつ恩返しをしていきたい」。諏訪内さんは音楽祭を立ち上げた理由をこう話す。音楽祭は「NIPPON」と銘打っている。決まった開催地を持たないので「地方名を入れられない」事情もある。それでも海外での活動が多い諏訪内さんにとって「日本にも目を向けてお手伝いできれば」というのは正直な思いだろう。「現代曲も魅力的に伝えたい」と同時代の作曲家の作品を発信する場にも位置付ける。

 諏訪内さんは1990年に第9回チャイコフスキー国際コンクールのバイオリン部門で日本人初、史上最年少の第1位優勝という快挙を成し遂げた。桐朋学園大学を経て米国のジュリアード音楽院とコロンビア大学、ドイツの国立ベルリン芸術大学に留学し、十分な学業を積んだ上で本格デビューした。マゼールやサバリッシュら名指揮者、パリ管弦楽団やベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など世界一流のオーケストラと共演を重ね、英デッカレーベルから13枚のCDも出してきた。現在はパリに在住している。

 国際的に活躍するバイオリニストが日本でどんな音楽祭をつくるのか。映像では“諏訪内流の国際音楽祭”のつくり方を詳しく語っている。まず彼女の欧州人脈が共演者を日本に集める原動力だ。これまでパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団らそうそうたるメンバーが出演した。

「国際音楽祭NIPPON」のマスタークラスで受講者を指導する諏訪内晶子さん=写真提供 KAJIMOTO

 演奏の映像は、音楽事務所のKAJIMOTO(東京・銀座、梶本真秀社長)の提供によるもので、第3回の2014年11月30日の公演を伝えている。イタリアのピアニスト、エンリコ・パーチェさんとの共演で、モーツァルト作曲「バイオリンソナタ第29番(偽作を除けば第22番)イ長調K.305」を弾いている。端正で伸びやか、気品もあるバイオリンの音色が印象的だ。4月に出る諏訪内さんの最新CDでもフランクとリヒャルト・シュトラウスの「バイオリンソナタ」、武満徹の「悲歌」のピアノパートをパーチェさんが担当した。

 音楽祭には企業のバックアップも必要だ。資金面ではトヨタグループが支援し、豊田自動織機の豊田鐵郎会長が音楽祭の実行委員長を務めている。「トヨタのクラウンのCMを担当した縁もあり、自分からお願いに行った」と諏訪内さんは経緯を語る。14年の第3回からはKAJIMOTOが企画制作に加わった。

 音楽祭の支柱に据えるのは教育、最高品質、他の芸術分野との協業、チャリティー精神の4項目。東日本大震災から5年の今年の第4回は、教育とチャリティーに重点を置き、被災地の宮城県気仙沼市(3月5日)と名取市(同6日)でも開く。もっとも、震災後に始めた音楽祭だけあって、これまでも仙台市や福島県郡山市など東北地方を開催地に含めてきた。

 音楽祭に自分の名前を冠したらどうかと聞くと、「全然考えていないですね」ときっぱり。背景には「後進に演奏する機会を与える場でもある」という教育重視の考え方がある。マスタークラス(演奏家の直接指導による公開レッスン)は毎回の目玉のイベントだ。コンクール優勝やエリザベート王妃国際コンクール審査員の経験に基づいて、世界に通用するには「(コンクール出場だけではなく)演奏会の場数を踏むべきだ」と諏訪内さんは考えている。

 名取市での公演では、同音楽祭で諏訪内さんのマスタークラスを受講した辻彩奈さんがメンデルスゾーンの「バイオリン協奏曲ホ短調」を弾く。諏訪内さんはバッハの「2つのバイオリンのための協奏曲ニ短調」をやはりマスタークラス受講者の巽千夏さんとともに演奏する。世界各地で多くの音楽祭が開かれるなか、自らはときに控えめに振る舞いつつ、仲間や後進に活躍の場を提供する。実力派らしい高潔な姿勢である。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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