会社の歯車だとすねる前に、最高の歯車になって輝け!ドラマー・歌手・作曲家 つのだ☆ひろさん

日経マネー

撮影/大沼正彦
撮影/大沼正彦
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──今日はつのださんが校長を務めるワイルドミュージックスクールにお邪魔しています。いろんな顔を持つつのださんですが、まずドラムを始めたきっかけは?

やはり、ベンチャーズに憧れたから。中学の頃、上級生たちが神社の境内でエレキバンドの練習してて、それをずっと見に行ってたんです。そこで「お前、面白い声してるなあ。歌は歌えるの?」と仲間に入れてもらった。ちょうど世の中がベンチャーズからビートルズに移行する時期で、歌える奴が欲しかったんですね。で、そこに置いてあったドラムに触らせてもらったのが最初です。そこからはもう面白くてたまらなくなり、どんどんのめり込んで、高校2年の頃にはもうプロとして池袋のジャズクラブに出てました。

──ドラムセットも入手して?

当時はお金がなかったから、シンバルとスネアだけ。それも先輩に売ってもらったんですが、そのお金を作るのに新聞配達、年賀状配達から和菓子屋ののし餅づくりまで、あらゆるアルバイトをやりましたね。

──音楽を教え出したのは?

それも随分古いんですよ。18歳くらいからエレクトーン教室で、年上のお姉さんたちを相手に「リズムとは」って教えてましたから。「先生はおいくつなんですか?」「君は?」「22歳です」「うむ、だいたい同じだ」なんてデタラメばっか言って(笑)。

つのだ☆ひろ 1949年生まれ。中学時代からドラムを始め、高校在学中にプロデビュー。71年には歌手として「メリー・ジェーン」を大ヒットさせる。佐藤允彦トリオや渡辺貞夫カルテット、幻のロックバンド・ジャックス、成毛滋・高中正義と結成したフライド・エッグ、赤い鳥、サディスティック・ミカ・バンド、ドゥービー・ブラザーズ、ラリー・グラハムなど、世界の有名ミュージシャンと共演。作曲家としても研ナオコ「風をくらって」など名作多数。

またある時、僕が契約しているパール楽器が小売店を相手にドラムの説明会をすることになり、メーカーよりも演奏者が話した方がいい、ということになりました。そこで「しゃべれるドラマー」を探したら僕しかいなかった。それがきっかけで、海外にあるようなドラムクリニックを日本でもやろう、ということになってね。全国を回ってドラムを教えるツアーです。津々浦々、300カ所以上に行きました。ただ、最初は教え方のマニュアルが全くなかったので、僕がゼロから考えて作りました。だから今の日本のドラム教室がやってることは、全部それが基になっていると思いますよ。

──そこで習ってプロになった人もいるんですか?

何人もいます。ただ、中には最初すごくうまかったのに、何年後かに教えに行くと駄目になっている子もいました。教え方が悪いと、才能のある子でも伸びないんですね。それで、少なくとも年1回は僕が教えられる機会を作ろうと、サマードラムスクールというのを始めた。今年(取材当時、2015年)でもう36回目です。でもある時から「やはり年1回じゃ足りない」「常設のスクールが必要だ」となり、色々と場所は変わりましたが、最終的にこの音楽学校に落ち着くわけです。今から11年前のことです。

──つのださんは根っから「教え好き」なんでしょうか。

それもあるけど、僕には「昔の仲間に申し訳ない」という気持ちもあってね。というのは若い頃、一緒にバンドやってた音楽好きの仲間たちはみんな長髪でしたが、22歳ともなれば髪を切ってリクルートスーツ着て、普通に就職したわけですよ。

──ユーミンの「『いちご白書』をもう一度」の世界ですね。

そう。いわば彼らの犠牲の上で、僕は今でも音楽やってる。もう長髪にするほど毛はないけれど(笑)。だから定年を迎えて「何か暇だな」という人が居たら、音楽やれる場所を提供できたらいいなと思ってたんです。それが最初にありました。

またドラムだけ練習しても駄目で、最終的にはバンドで使うわけですよね。だったらバンドも一緒に練習できる環境を作ろうと。そもそも人前で演奏したことがない人間がプロになれるはずがないですよね。なので校内ライブをもう年中やっています。この学校の魅力はそういう「実戦に向いた本当の音楽が学べる」ということです。

音楽ビジネスには実はインチキや出来レースも多いんですが、ウチは良心と手作り感を大事にしています。そこに共鳴した有名ミュージシャンが大勢遊びに来ては壁にサインしていったり、楽器を生徒に貸し出してくれたりね。

──生徒さんは全部で?

200人位ですね。ギター科もベース科もピアノ科もありますが、人数が圧倒的に多いのはドラム科とボーカル科です。この2つは僕が直接教えますから、忙しくてもう大変ですよ(笑)。前は「大勢で習って、1人だけできないと恥ずかしい」とマンツーマンを希望する人が多かったんですが、最近は「何人かで一緒に習って、友達作りもしたい」と変わってきています。

──校内には録音スタジオもありますね。

スタジオでレコーディング実習もするんですが、録音してみると、自分がどういう歌を歌ってるかよく分かる。僕も横で言いますしね。「今、最初の音外してるでしょ。そうするとどうなる? こいつ下手かもという第一印象ができて、その後どんなにうまく歌ってもそのイメージが消せないんだよ。だから最初の1音は外すな」と。

──なるほど、それは重要ですね。

「他人の目は神の目」と言いますが、分かっている人には他人のアラが本当によく見えるんです。そしてそれをズバリ言ってくれるかが重要。ウチの生徒にも太めの子がいて、会う度に「あと5キロ痩せようね」と言うんです。周りはそんなこと言うと傷つくとか言うんだけど、実力が全く同じ2人がいて、1人はスレンダー、1人は太っていたら、どちらがプロとして選ばれるかということなんです。そういうつまらない所で損をしないようにしないとね。

スタジオの扉には訪れた有名ミュージシャンや漫画家らの寄せ書きが。実兄つのだじろうの「うしろの百太郎」もしびれる!

鼻っ柱の強い生徒だと、教えても「こんなテクニック実際に使うんですか」なんて言ってくる。そこで僕が必ず言うのは「できてから文句言え!」と。できるようになると、AがあったおかげでBがある、と全部段階になっているのが分かる。でもできないと、それが見えないんです。

──会社員にも通じる話ですね。

その通り。また、みんなで一緒に演奏する時に、「どうせ目立たないから自分は適当でいいや」となっちゃう子も今はたくさんいる。会社にもそういう人がいますよね。だけど、「俺はどうせ会社の歯車だ」って言うなら、一番キラキラ光ってうまく動く歯車、いくら回しても問題の起きない最高の歯車になるべきでしょう?

──うわ、いい言葉ですね!

それを「俺は歯車だ」とか言って、すねてるから輝かない。上にも行かない。真っ先に輝いてみせろということです。

社員の福利厚生に音楽学校の授業料を出す企業があってもいい

また、オーディションや社内の何かで「選ばれたい」なら、秘訣は「いい人」であること。学生時代、クラスに嫌な奴がいたでしょ。社会人になってバンドをやる時に、そいつと組むかといったら絶対組まない。逆に、明るいとかトークが面白い人は「何かこいつと一緒にいると楽しくなるな」「仲間に入れよう」となるんです。

オーディションといえば昔、「いかすバンド天国」って番組があったでしょ。ミッキー・カーチスさんも審査員やってたんだけど、見る所が他の審査員と違い過ぎて、評価のすり合わせができないんです。あるバンドについて、他の人は「演奏が下手で歌が乱暴で、挨拶もロクにできない。非常に無礼だ」と辛く評価する。でもミッキーさんは「違うんだよ」と。「下手でバカで若くて無礼、これこそがロックなんだ!」(笑)。この話、好きなんですよね。

僕が昔オーディションで司会をした時も、ある出場者が事前に挨拶に来てね。「今日、ステージで無礼なことを言うと思いますが、それは私のキャラクターなので、もし無礼があってもお許し下さい」と。それが聖飢魔IIのデーモン小暮だった。成功する人は、ちゃんと気配りしてるんですよ。ただのバカじゃない(笑)。

──最後に、つのださんのそのエネルギーの源は何ですか?

教えたいことがまだ山のようにあるってことですね。僕が世界中をフィールドワークして得た音楽の知識も、いい音とは何かも、まだ伝え切れない。先日、東京音大で2時間半の特別講義をやったんですが、後で教授が「今日の話の7割を、僕はかつて一度も聞いたことがない」と驚いてました。まあ自分が教えたくてやってる学校だから、あまりもうからなくて自分の稼ぎがどんどん吸い込まれても、何とか回ってればいいんです。

ところで今、大企業の福利厚生というと、大金をかけて保養所を建てるなんて話になりますよね。でももっと柔軟に考えて、例えばウチの学校はポイント制なんですけど、音楽を習いたい社員のためにウチのような学校のポイントを取り入れてくれたっていいわけです。社内にコーラス部があれば僕が出張指導してもいいしね。保養所より楽しく、はるかに安く福利厚生ができますよと(笑)。

(聞き手/大口克人 撮影/大沼正彦)

[日経マネー2015年11月号の記事を再構成]

日経マネー(ニッケイマネー)2016年4月号

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