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日米を拠点とするM&Aアドバイザリー会社GCAサヴィアンの阿部美紀子ディレクター(42)が語るキャリアアップストーリー。後編は1人目の子どもを出産した育休明けから始まる。不動産金融工学を学ぼうと入った一橋大学のビジネススクールで知ったダイナミックなM&Aビジネスの世界。その出合いがキャリアの展望を大きく変えていった。

育休明けと同時に転職した。

日本を代表するような著名な経営者の話を生で聞く授業は、GCAサヴィアンの創業メンバーの一人であった佐山展生教授が担当する授業でした。キャリアの転機になったという意味では、この授業の影響が一番大きかったと思います。

毎回、ゲストスピーカーとして呼ばれた経営者がする話は、非常に面白かったのですが、やはり最も印象に残っているのは、初回の授業で佐山教授自身がした、自らが手掛けたM&Aの話でした。経営者の視点や業界全体の視点で話すM&Aの話は、とても衝撃的でした。それまでの自分の物の見方や考え方と、あまりにもスケールが違ったからです。ダイナミックなM&Aの世界を垣間見た瞬間から、自分もそういう世界でやってみたいという衝動に駆られました。

その思いはICSで学ぶうちに徐々に強まり、ついには抑えきれなくなり、育休が明けるころに、自分の進路について佐山教授に相談に行きました。すると、佐山教授自らが立ち上げたばかりのGCA(後のGCAサヴィアン)に来ないかと誘われ、その場で転職を決めました。日本不動産研究所の上司に事情を話したら、ありがたいことに理解を示してくれ、学費を全額返済して、円満退社しました。

こうして、ビジネススクール2年目の途中から、今度はGCAサヴィアンでM&Aアドバイザーとして働きながら、ICSに通う生活が始まりました。

M&Aの仕事はもちろん初めてだったので、最初はひたすら上司の後に付いて現場を回り、OJTで仕事を覚えました。人も少なかったので、よくわからなくても交渉などを任され、ずいぶん鍛えられました。

当時、右も左もわからない私を助けてくれたのが、ICSでした。M&Aに関係する授業も多く、仕事で分からないことがあったら、授業中に質問としてぶつけ、解決したことが何度もありました。銀行で働くクラスメートに聞いて、教えてもらったこともあります。バリュエーション(企業価値評価)の方法など、授業で学んだことが即、仕事に役立ったこともありました。

卒業時に2人目を出産した。

 卒業直前の2月に2人目が生まれ、卒業とほぼ同時に、10カ月の育児休暇を取りました。復帰後は、再びM&Aアドバイザーの仕事に戻り、徐々にひとり立ちしていきました。

M&Aアドバイザーは、具体的には、会社同士の合併や、会社が子会社を売却するといった時に、案件の最初から最後まで企業に寄り添い、交渉戦略や交渉のタイミングなど様々なアドバイスをするのが仕事です。

M&Aアドバイザーの仕事には、ビジネスを俯瞰(ふかん)的に見る視点が絶対に欠かせません。経営者の考え方を理解できる力も必要です。そうした視点や力を養ったのも、やはりICSでした。ICSの授業で、生で聞いた何人もの一流の経営者の話は、今でも、M&Aの仕事をしていく上で私の血肉となっています。

ただ、MBAを取って何よりもよかったと思うのは、自分自身に大きな自信がついたことです。例えば、仕事で、自分より年配の立派なキャリアを持った方と話をするような時も、気後れせずに自分の意見を述べることができているなと思うのは、MBAで得た自信だと思います。

現在、2度目の長期休暇中。4月に職場に復帰する予定だ。

 今回の休みは1年3カ月。中学受験をする長女に寄り添ってやりたいというのが、休暇を取った一番の理由でした。

M&Aの仕事は、プロジェクトごとに動きます。いったんプロジェクトが動き始めると、実質、半年ぐらい休みがありません。クライアントにとっては、自分の会社がどうなるかという一大事ですから、担当者も必死です。突然、夜中に電話がかかってきて、翌朝までに資料をそろえてほしいと言われることもあります。ですから、昼も夜も休みの日も、パソコンと携帯電話が手放せず、家にいても、子どもとゆっくり話をする時間も取れません。親として、これではまずいと思い、プロジェクトが終了するタイミングで、会社に相談しました。

会社に迷惑をかけてしまうので、退職も考えましたが、社長の渡辺章博が「女性が子供を産んで育てながら長く働ける会社を作りたいと思って創業した。阿部さんは女性プロ社員第一号。納得がいくまで休職していいから絶対にやめないで必ず戻ってきてほしい」と言ってくださったので、お言葉に甘えることにしました。社長には足を向けて寝られません。

グローバル化の時代、M&Aも海外がらみが増えている。

 休暇を取ったもう一つの理由は、自分のためです。GCAサヴィアンに移って約10年、がむしゃらに働いてきましたが、次の10年を見据えた時に、少し働き方を見直し、自分の武器を整理したいと考えていました。10年という区切りが、ちょうど長女の受験と重なり、充電するにはよいタイミングだと思いました。

家では、娘に寄り添うかたわら、英語の勉強をしました。最近は海外の案件も増えており、仕事で英語を使う必要性は徐々に高まっています。これからのキャリアを考えた時に、英語は必須だと思っていました。

今から考えると、MBAを取ったことは、結果的に、とてもよかったと思っています。M&A業界にはMBAホルダーは大勢いますが、女性のMBAホルダーはまだ稀有な存在です。それが逆に強みでもあるという気もします。

例えば、交渉の場では、場が殺気立ち、一触即発みたいな場面もけっして少なくありません。そこに、女性が割って入ると、多少は雰囲気が変わることもあります。子供のいる女性となると、さらに少ないので、それで話が盛り上がったり、相手も同じようなお母さんだったりすると、それだけですぐ仲良くなります。

個人的には、もっともっと多くの女性が、MBAを目指してほしいなと思います。MBAを取れば、キャリアのチャンスや選択肢は確実に広がります。女性の場合、結婚しているから無理、子供がいるから無理、と入口のところであきらめてしまう人が多い。でも、あきらめずに頑張れば、意外と助けてくれる人はいるものです。助けてもらうことを負い目に感じるのではなく、別の機会に返せばいいと気楽に考え、キャリアアップの機会をぜひ、物にしてほしい。MBAはそれだけの価値があると思います。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー 2016年3月7日付]

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