『あさが来た』 「五代さま」誕生と抜てきの理由
制作統括に聞いたヒットの5つのシカケ(後編)

五代友厚をキーパーソンに立てる
大阪商工会議所などを設立し、後に近代大阪経済の父と呼ばれる五代友厚は、原案本の中ではすれ違う程度にしか出てこない。しかし佐野氏は、江戸時代が終わって明治維新を迎え、"天下の台所"だった大阪が、他と変わらない"ワン・オブ・ゼム"の場所になってもおかしくなかった時期に、大阪復興のために尽力した五代の存在は大きかったのではないかと考え、彼をキーパーソンとして立てようと決めた。

「浅子と五代が2人で何かをしたという記録は残っていないのですが、顔見知りだったことは間違いないだろうという時代考証の先生の助言を得て、ヒントにしました。五代は当時の大阪にはなくてはならない重要な人物でありながら、今まで渋沢栄一ほどには語られてきていません。五代も偉業を成したんだと、多くの人に知ってほしかった」
ドラマでは、あさが子ども時代に出会って以降、要所で事業に関する助言をし、彼女を応援し続ける。五代役には、香港や台湾で活動してきたディーン・フジオカを起用した。
「登場人物はみんな町人の中、五代さんは1人だけ武家出身なので、他の人と異なる雰囲気を持つ、違うフィールドで育った人に演じてもらいたかった。古典芸能の方も候補に考えましたが、国外で俳優として成長されたディーンさんに行きつきました」。
史実に基づき、1月22日放送の第95回で生涯を終えたが、"五代ロス"なる言葉も飛び出すほど、多くの人の気持ちをつかんだ。
あくまでフィクション、妾は描かない
広岡浅子の物語を朝ドラにするにあたり、フィクションとしてあえて排除した要素もある。当時は普通だった妾(めかけ)の存在だ。新次郎のモデルとなっている広岡信五郎には側室と子どもがいたため、それがどのように描かれるのかと、一時はネットを中心に話題となった。

しかし、やはり朝ドラとして受け入れられやすい作風というものがある。「この作品で描きたかったのは、男社会の中に入り込んでいく女性を世間が良しとしない時代に、あさを新次郎が支え、最強の夫婦となって時代の波を泳ぎ切ったということ。自分にとって大切な人というのを、みなさんに改めて考えてもらえたらいいなというメッセージでもあるんです。モデルとなった浅子の再現を目指しているわけではないし、15分で小刻みに進むドラマで、今では簡単には共感できないお妾さんのことを入れるのはどうかと。メッセージがドラマとして面白く伝わるものにするために、物語をシンプルにしました」

また原案では、伝統のある両替屋だった嫁ぎ先が没落した後に、姉は行方知れずになってしまうが、ドラマではヒロインと再会させた。姉のはつはつらい思いもするが、やがて家族の絆を取り戻し、和歌山で農業を営んで暮らしていく。
「"こんな人が本当にいたんだ"と驚くほど、ヒロインが色々なことを成し遂げていく。確かにスーパーウーマンを見る楽しみはあるけれど、せっかく幕末からスタートしているのに、それだけではあまりに偏った描き方になってしまうのではないかと。地道に家族の幸せをつかんでいった人がほとんどだったはずなので、あさとはつ、2人の物語を両輪で進めることにしました」。
ゲストの配役で話題作り、半年間飽きさせない
AKB48による主題歌や、TBSのトーク番組『A‐Studio』でかつて波瑠が共演していた笑福亭鶴瓶が奈良の豪商の役で登場するなど、話題作りのうまさも光った。そのほか、ゲストとして、04年の大河ドラマ『新選組!』と同じ土方歳三役で山本耕史が出演し、武田鉄矢が福沢諭吉役を演じた。

「大河ドラマもそうですが、長い期間放送するドラマは、開始時だけでなく、折々に注目してもらうことが必要だと思うんです。"あの人があの役で出演するの?"という話題は楽しいし、それをきっかけに見てくれる人が増えるかもしれない。より多くの方に見てもらうために、そういう工夫は積極的に打ち出してきました」
ヒロインの人生のターニングポイントとなった人物をゲストとして印象的に登場させたことが、視聴者を飽きさせない刺激につながった。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2016年3月号の記事を再構成]
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