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投資、企業の「価値」発見だけでは不十分(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/2/23

「投資は会社の隠れた『価値』を発見するだけでは不十分だ。最後に『時代の方向性』を見極めなくてはならない」

今、秋田県でこれを書いています。秋田の人たちに長期投資の意義を話す講演があるからです。

昨日は地元の秋田の銀行マンの人たちと夕食を共にしました。そこで秋田のよさとはなにか、について話をしましたが、多くの秋田県の人は自分たちの地域について決まっていう言葉があります。

「なーんもない」

秋田というところは、要するに別に珍しいものもなく、特別なものもなく特色がない、ということです。

しかし、東京から来た私には秋田県のよさを100以上挙げることができます。

美しい自然。そこにはおいしい空気があり、澄んだ水があります。その澄んだ水と太陽がおいしい米を作り、野菜を作ります。そしてそのような米や野菜がいわゆる「秋田美人」を生み出していくのでしょう。おいしい米があるからこそ、それを潰して作るキリタンポがおいしくなります。またそのうまい水と米はすばらしい日本酒を生み出すことになります。そしてなによりも、そのようなうまいものを食べている秋田県の人たちは人柄がすばらしい。秋田県のすばらしさは秋田県の人々にこそあるわけです。

しかし、このようなことは地域の中にいるとわかりません。自分たちの「価値」は中にいるとなかなか発見できないのです。なぜならそれが当たり前で、どこに付加価値があり、どこが他と違うのか、というのは比較によって初めてわかるからです。

投資の世界でとても大事なことは「価値」の発見です。というのは、株式市場は日々価格が変動しています。ところがそれぞれの会社はマーケットの変動ほど毎日中身が変動しているわけではありません。会社というのはよくなるのも悪くなるのもとてもゆっくりです。

会社の「価値」というのは日々それほど変動はしないわけです。そうすると会社の「価値」を正確に発見することができたら、会社の価格よりも安く投資をすることができたり、価値よりも高く売ったりすることもできます。

ところがその「価値」の発見こそが難しい。

「価値」というのは秋田県の人が秋田のことを過小評価してしまうように、業種、過去の歴史など様々な要因により、ひずんで評価されて、等身大の会社の価値を見つけるということは簡単なことではありません。秋田の価値を理解するのはむしろ秋田の人ではなく、県外の人や外国の人かもしれません。同じ文化にどっぷりつかっているとなかなか自分たちのどこが他の地域と違うのかがわからないからです。「価値」の発見には「外部者の目」が必要です。

ある一枚の絵をご存じでしょうか。

シュルレアリスムを代表するベルギーの画家、ルネ・マグリットの絵で、「イメージの裏切り」という絵です。パイプが精密に描かれているのですが、「これはパイプではない」とも書かれているのです。どういうことでしょう?

書かれている絵はやはり絵であり、作者が抱くパイプのイメージを描いたにすぎません。そこにタバコを詰めることもできないし、ましてやタバコを吸うこともできません。

実際に作者はこういってます。

「またあのパイプですか? もういいかげん、飽き飽きしました。でもまあ、いいでしょう。ところであなたは、このパイプに煙草を詰めることができますか。いえいえ、できないはずですよ。これはただの絵ですからね。もしここに『これはパイプである』と書いたとすれば、私はウソをついたことになってしまいます」

画家が屁理屈(へりくつ)をいっているのでしょうか?

おそらく、イメージとは個人の思い込みにすぎないということをいっています。

株価はただの数字です。そしてその価値も多くの人たちが下しているその時の評価です。しかし、その評価が正しいのかどうかはわからない。株価はいつも変動しているのです。そして、その株価がついている企業の価値ですら、多くの人たちの思い込みやイメージで変動していきます。

実際にその企業の価値をはかるときに、本当にこの企業の価値がいまの株価に反映されているのか、と疑いを持つことが必要です。パイプの絵が描かれているからといって、それはパイプではないからです。

その際に、建設業に属している会社であっても、「これは本当に建設業なのか」と疑い、実はこれはサービス業ではないのか、小売業の側面はないのか、といったように切り口をいろいろ変えてみられるかどうか考えると、あらたな価値を発見できる可能性があります。見えているイメージに縛られないことが求められます。

実際には「価値」を発見したと思っても、それを将来多くの人が発見できなければ、それは単なる個人の意見になってしまいます。ここが難しいところで、「外部者の目」や「イメージを疑う」という視点を持てたとしても、将来その見方が多数派にならなければ、最終的に株価に反映されないことになります。

したがって「時代の方向性」を見つめる力が必要です。企業の隠れた「価値」を発見し、その隠れた価値よりも株価が安ければ投資に値するということになるのですが、それだけでは不十分です。さらに「時代の方向性」に対する感度が求められるのです。投資にはクリアすべきいくつものハードルがあり、この最後の部分が非常に難易度が高い。なぜなら「トレンド」を見極める力は、深い人間観察と様々な流行や技術の変化に敏感にならないと得られないからです。

次回は時代の方向性を見極める方法について書いてみたいと思います。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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