辣腕プロデューサーが本領、シカゴで3作品が交差
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
近年はケーブル局に加えて、動画配信サービスにも押され気味の地上波。しかしながら、やはりメジャーの安定感、王道の良さがあると思わせてくれる質の高い番組は少なくありません。
その筆頭が、『LAW & ORDER/ロー&オーダー』シリーズのヒットメーカー、ディック・ウルフがNBCで手がける、"シカゴ・トリロジー"と呼ばれるシカゴを舞台にした3つのヒットシリーズです。
51消防署に所属する消防士・救急隊員らの緊迫感あふれる『Chicago Fire』(12~)、そのスピンオフで消防署とは犬猿の仲にあるシカゴ市警の刑事の活躍を描く『Chicago P.D.』(14~)、そして2015年11月からは2本目のスピンオフで、総合病院の医師や看護師たちの活躍を描く『Chicago Med』が順当な滑り出しで放送を開始しました。
設定を見る限り、海外ドラマファンなら新鮮味は感じないはず。ですが、いずれも時代を反映する社会問題を取り入れながら、普遍性のある密な人間ドラマを描いて見応えのある作りです。何百回となく描かれてきた題材で、過酷な視聴率競争を勝ち抜くヒット作を生むことほど難しいことはありません。ウルフは社会派の硬派な作風に定評のある才人として業界人からもリスペクトされているので、質のアベレージの高さはお墨付き。面白いのは視聴者をつなぎとめて離さない仕掛けです。
密接なクロスオーバー展開
3つの作品の登場人物には兄弟や家族、恋人がいて、それぞれ仕事上でも密接な関係にあり、キャラクターの行き来は日常的。加えて、かつてありえないほど密接かつ頻繁にクロスオーバーエピソードを放送しています。
2016年1月には初のシカゴ・トリロジーのクロスオーバー、2月にはニューヨークが舞台の『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』を含めた4番組のクロスオーバーが放送されました。
視聴者は、現在の編成でいけば火曜日から木曜日の間に、4番組を視聴しなければひとつの話が完結しない訳です。
こうした試みにはあざとさもありますが、がっつりクロスするエピソードには密接に絡み合った面白さがあり、視聴者は他のシリーズも網羅したくなるよう誘導されることは必至です。アメコミのシェアードユニバース(世界観の共有)の方法論にも似ていますが、普通のドラマでここまでの連携は類を見ません。
20年間続いた本家『LAW & ORDER』と4つの姉妹番組のフランチャイズで一時代を築いたウルフ帝国。地上波が厳しい今の時代にも揺るがない仕掛けの盤石さには感心するばかりです。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2016年2月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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