薬で血圧なぜ下がる タイプ別で違う降圧メカニズム
最新版の高血圧ガイドライン(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」)は、血管系の病気や糖尿病を持っていない高血圧患者に対し、3種類の降圧薬を推奨している。(1)降圧利尿薬、(2)レニン・アンジオテンシン系阻害薬、(3)カルシウム拮抗薬――だ。それぞれ異なった仕組みで血圧を下げる。
「高血圧のタイプに合わせた薬を飲まないと、血圧はうまく下がりません」。そう説明するのは、30年以上にわたって高血圧の治療に取り組んできた、循環器科医師の桑島巌氏。桑島氏は東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)の顧問で、現在も高血圧外来を担当している。
桑島氏の言う「高血圧のタイプ」とは、「血管パンパン型」と「血管ギュウギュウ型」の2つである。少し細かく見ていこう。
高齢者に多い、血液量が水増しされた「パンパン型」
「血管パンパン型」は、血液中の水分が増え、その結果、血管の壁にかかる力(血圧)が上昇する高血圧だ。容量を超えた水が流れ込んだホースをイメージしてほしい。ホースには大きな力がかかり、膨れあがる。「日本人の高血圧は、7割がこのタイプです」と桑島氏。
典型的なのは、塩のとり過ぎによる高血圧だ。
すなわち、塩が体内に入ると、血液中のナトリウムが増える。生体はナトリウム濃度を正常まで下げるために、血液の中に水を引き込む。その結果、血液の量は水増しされて多くなり、血管はパンパンとなる。
また、高齢者は、塩をとり過ぎていなくても「パンパン型」の血圧上昇を起こしやすい。「65歳を超えた人の高血圧は、ほとんどがこのタイプです」と桑島氏は言う。高齢者では、ナトリウムを尿の中に捨てる働き(腎機能)が低下しているため、血液中のナトリウム濃度が下がりにくいからだ。
必要以上に血管が収縮する「ギュウギュウ型」は働き盛りに多い
一方、血管に起因する高血圧が「血管ギュウギュウ型」だ。
血管が何らかの原因で縮んでしまうと、その狭い血管内を血液がすり抜けようとして、血管の壁にかかる力が上がる。生体には、必要に応じて血管を収縮させる様々な仕組みが備わっているのだが、それらの仕組みが不適切に働くと、このタイプの高血圧となる。
「65歳以下の人に多い高血圧です。もっとも、塩をとりすぎていれば『パンパン型』との混合となります」(桑島氏)
では、これら2パターンの高血圧を、降圧薬はどのように下げるのか。以下に見ていこう。
「血液から水とナトリウムを引き抜く」降圧利尿薬
まず、降圧利尿薬。この薬は、血液中の余分な水とナトリウムを尿として体外に捨てさせる。そのため「『血管パンパン型』高血圧には、少量で非常によく効きます」(桑島氏)。
編集部注:よく使われている降圧利尿薬は、トリクロルメチアジド(商品名:フルイトランほか)やインダパミド(商品名:テナキシル、ナトリックス)。また、降圧配合剤と呼ばれる、2種類の降圧薬を配合した薬剤のうち、降圧利尿薬のヒドロクロロチアジドが配合されたものとして、イルトラ、エカード、ミコンビ、プレミネント、ロサルヒド、コディオがある。
「血管が縮まるのを防ぐ」レニン・アンジオテンシン系阻害薬
レニン・アンジオテンシン系阻害薬は、アンジオテンシン2(ツー)という、体内でつくられる物質の働きを阻害して血圧を下げる。「アンジオ(血管)をテンシン(引き締める)」という名の通り、アンジオテンシン2は強力に血管を収縮させる。「血管ギュウギュウ型」高血圧の原因の一つだ。
そのため、アンジオテンシン2を作用させなくするレニン・アンジオテンシン系阻害薬は、「『血管ギュウギュウ型』の血圧をよく下げる」(桑島氏)。
なお、アンジオテンシン2は、体内でレニンという物質が作用することによってつくられる。アンジオテンシン2を阻害する薬剤に「レニン・アンジオテンシン系」という長い名が付いているのはそのためだ。
このレニン・アンジオテンシン系阻害薬には、2つのタイプがある。ACE(エース)阻害薬とARBである。
・ACE阻害薬
ACE阻害薬は、アンジオテンシン2をつくり出す酵素の働きを阻害し、アンジオテンシン2ができるのを抑える。その結果、血管の収縮は抑制され、血圧が下がる。なお、「ACE」というのは、その酵素の頭文字だ。
編集部注:よく使われているACE阻害薬には、エナラプリル(商品名:レニベースほか)、イミダプリル(商品名:タナトリルほか)、ペリンドプリル(商品名:コバシルほか)などがある。
・ARB
ARBは、アンジオテンシン2(A)受容体(R)ブロッカー(B)の略称で、血管にアンジオテンシン2がくっつくのをブロックする。そうするとアンジオテンシン2は血管に作用できず、血管の過剰な収縮は抑えられ、血圧が下がる。
編集部注:よく使われているARBは、オルメサルタン(商品名:オルメテック)、テルミサルタン(商品名:ミカルディス)、カンデサルタン(商品名:ブロプレスほか)など。また、降圧配合剤にはARBが配合されている。ARBが配合された降圧配合剤には、アイミクス、アテディオ、アムバロ、イルトラ、エカード、エックスフォージ、カムシア、コディオ、ユニシア、ザクラス、プレミネント、ミカムロ、ミコンビ、レザルタス、ロサルヒドがある。
ハイブリッドなカルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は、2つの仕組みで血圧を下げる。
メーンとなるのは「血管の拡張」である。血管壁の細胞にカルシウムイオンが流れ込むと、血管は収縮する。このイオンの流入をカルシウム拮抗薬は防ぎ、血管を拡張する。
もう一つの仕組みは、降圧利尿薬ほど強くはないが、「腎臓への血流を増やすことで血液中の過剰な水を尿として体外に捨てさせる」作用だ。
このような2つの仕組みを併せ持つため、カルシウム拮抗薬は「血管ギュウギュウ型」「血管パンパン型」のどちらのタイプの高血圧にもよく効くという。ただし、カルシウム拮抗薬では十分に血圧が下がらない「パンパン型」の高血圧もあり、そのような場合は降圧利尿薬の出番となる。
なお、食品に含まれているカルシウムと、血管の収縮は無関係だ。「カルシウム拮抗薬を飲んでいるからといってカルシウムを控える必要はない」と桑島氏は言う。
編集部注:よく使われているカルシウム拮抗薬は、アムロジピン(商品名:アムロジン、ノルバスクほか)、ニフェジピン(商品名:アダラートほか)など。一部の降圧配合剤(アイミクス、アテディオ、アムバロ、エックスフォージ、ザクラス、ユニシア、ミカムロ、レザルタス)にはカルシウム拮抗薬が配合されている。そのほか、脂質異常症の治療薬とカルシウム拮抗薬を配合したカデュエットという配合剤もある。
服用中に気をつけたい体調変化は?
これらの薬剤はいずれも、医師や薬剤師のアドバイスを守って服用する限り、安全性はとても高い。
ただし、薬の影響で体調に変化を来すことも皆無ではない。薬ごとに気をつけたい点を、桑島氏に挙げてもらった。
・降圧利尿薬は「だるさ」に注意
降圧利尿薬を飲んでいて「体のだるさ」を感じたら、すぐに主治医に相談だ。「血液中のナトリウムが少なくなりすぎている可能性がある」(桑島氏)。薬の減量や中止、変更が必要になる場合があるので、主治医に必ず症状を伝えよう。
・カルシウム拮抗薬は「むくみ」と「歯肉炎」に注意
「履いている靴が急にきつくなった」「歯茎に違和感を感じる(歯肉炎)」――。カルシウム拮抗薬を飲み始めた後にそのようなことが起きたら、主治医や薬剤師に伝えてみよう。「薬の量が多過ぎるかもしれません」(桑島氏)。
・「咳」が出やすいACE阻害薬
ACE阻害薬については、「咳(せき)」という有名な副作用がある。しかし「飲み始めてある程度、時間が経てば、出なくなるというドクターもいる」と桑島氏。なお、「ARBには、これといった副作用はない」と桑島氏は話している。
最近では、ARBとカルシウム拮抗薬、あるいはARBと降圧利尿薬が1錠に入った降圧配合剤も、よく使われるようになってきた。どの薬が配合されているのかを確認し、上記に気をつけたい。
「繰り返しになりますが、高血圧のタイプに合わせた薬を飲むことが大事です。2種類の降圧薬(降圧配合剤なら1剤)を飲んでいるのに血圧が目標値まで下がらなければ、薬が合っていない可能性があります。セカンドオピニオンも考えてみてください」とは、桑島氏からのアドバイスである。
(宇津貴史=医学リポーター)
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