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税務署は見ている

医療費控除、税務署は領収書をすべてチェックする

2016/2/23

 所得税の還付申告といえば、医療費控除のことを思い浮かべられる方が多いのではないでしょうか。今回は昨年、娘さんの医療費をたくさん支払ったという大阪在住のサラリーマンAさんとの対話を再現してみましょう。

飯田:「Aさん、娘さんの就職、決まったんですか」
A:「はい」
飯田:「それはよかったですねぇ。あちこち受けたって言うたはりましたけど、どこになったんですか?」
A:「仙台の放送局です」
飯田:「え~、遠いですやん。ちょっと、さみしくなりますねぇ」
A:「子どもの頃からずっとアナウンサーになりたいって言うてたんで、しょうがないですわ。それにしても、出費が大変でした」
飯田:「アナウンサーの専門学校とかですか?」
A:「いや~、それ以外が……。アナウンサーって、人前に出る仕事ですやろ」
飯田:「まぁ、そうですねぇ」
A:「先輩とかからも、いろいろアドバイス受けたらしくて……」
飯田:「???」
A:「それが、『もしこれで受からへんかったらパパのせいや!』とか脅されまして」
飯田:「何をしゃはったんです?」
A:「目と歯をさわりよったんです」
飯田:「えっ?」
A:「目の方はプチ整形いうんですかねぇ。はっきりした二重まぶたにしよったんですわ。まぁ、こっちの方はそんなにかからんかったんですけど、歯は結構な金額になりました」
飯田:「歯列矯正ですか?」
A:「はい。先輩アナウンサーから、『歯だけは受験の前になおしとかんと、後悔するで』って言われたそうで……」
飯田:「でも、それで受かったんやし、よろしいですやん」
A:「あっ、そうや! 飯田先生、全部領収書は残してあるんですけど、医療費控除ってできるんですかねぇ?」
飯田:「できひんと思いますけど」
A:「やっぱり、そうですか」
飯田:「治療じゃないですもんね」
A:「えぇ。そやけど、税務署って、提出された医療費の領収書、いちいち中まで確認するんですか?」
飯田:「はい!」
A:「1枚1枚?」
飯田:「ええ。私も現職の時に、『還付留保』という担当をしていたことがありましたけど、医療費控除に該当しない領収書が含まれていたら、電話で確認したり、はがきを出して税務署に来てもらったりして直してもらいましたよ」
A:「ええ~!」

 医療費控除の対象となる「医療費」については、所得税法第73条第2項に下記のように書かれています。

所得税法第73条(医療費控除)
第2項 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう

 国税庁のホームページで「税について調べる」→「タックスアンサー」→「所得税」→「医療費を支払ったとき」と進んでいくと、「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」のページに「歯の治療に伴う一般的な費用が医療費控除の対象となるかの判断」について詳しく書いてあります。要約するとこんな感じになるでしょうか。

(1)一般に支出される基準を著しく超えると認められる特殊なものは医療費控除の対象にならない

(2)年齢や矯正の目的などからみて、容貌を美化するための歯列矯正の費用は医療費控除にならない

 確定申告の期間中、調査官たちの主な仕事は申告相談に関する業務になります。相談会場でジャンパーを着て来署される納税者の方の応対をする日もあれば、検算担当といって提出された確定申告書の添付書類や計算が間違っていないかをチェックする仕事の日もあります。検算で誤りが見つかった申告書は、「還付留保」の担当者のところに集められることになります。

 もし、Aさんが、娘さんのプチ整形と歯列矯正の領収書を添付して還付申告書を提出したとしましょう。検算担当者は、領収書の発行者である病院がどこかを確認します。美容外科と矯正歯科となっていることを確認したら、次にその領収書の宛名を確認します。Aさんの娘さんは大学生なので、扶養控除のところに名前が掲載されています。担当者は、この医療費の対象者は「お年ごろの娘さん」という判断をすることになります。

 Aさんの場合は、明らかに医療費控除に該当しないと思います。けれども、まつげが眼球を傷つけていて、このままでは視力がどんどん落ちてしまうというような場合であれば、二重まぶたにする費用も治療とみなされるかもしれません。歯列矯正もかみ合わせが悪いことによって胃腸が弱くなっているなどの理由があれば、治療とみなされるかもしれません。

 税務署の担当者は医療の専門家ではないので、医師による診断書などで、その事実を確認することになります。しかし、サプリメントが処方されたような場合、医師の診断書があっても医療費控除できないとされたこともあったようです。実は、医療費控除は知名度は高いものの、議論する余地のある所得控除なのです。

 サラリーマンの方は医療費控除を受けるためには確定申告書を提出する必要があります。一方、個人事業主の方は、医療費控除を差し引きして税額を算出し、納税することになります。個人事業主の方が医療費控除について間違った申告をしていた場合は、税務調査があった際に併せて修正するということになります。

 いつどんなときにけがをしたり、病気になったりするかわかりません。わずかな金額であっても、病院や薬局で支払った領収書は常に残しておくようにするといいでしょう。1年を終えて医療費控除の計算をする際、もしかしたら「これは医療費に入れといていいんかな?」と判断に悩む領収書やレシートが出てくることがあるかもしれません。その場合、「これはあかんかな?」と迷ったものは入れないのが賢明だと思います。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会を設立し代表理事に。「税務調査に入られにくい企業を構築するセミナー」が好評。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。DVDに『税務調査に選ばれる企業の共通点』(H&W)他がある。facebookに「税務署は見ている」研究会(https://www.facebook.com/zeimushohamiteiru)を開設。

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