劇場版音楽ドキュメンタリーが急増の理由
音楽アーティストのドキュメンタリー映画が盛況だ。2015年後半にはSCANDAL、Perfume、電気グルーヴなどの作品が立て続けに登場した(表参照)。
このブームの先鞭をつけたのが東宝。同社映像事業部の古澤佳寛映像企画室長は、「10年の『Mr.Children/Split the Difference』や、11年の『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued』が興行収入5億円近いヒットとなったのが、音楽関係者に関心を持ってもらえたきっかけ。その後も作品が続き、アーティスト側のOKが出やすくなったのが、活況の理由だと思います」と語る。
過去にAKB48の作品で100館を超えたこともあるが、多くは30~50館ほどの公開規模。興収も前述のように最大5億円程度と邦画のヒット作に比べれば決して高くはない。それでも「音楽ドキュメンタリーは手堅いビジネスができる」(古澤氏)のが魅力だという。
手堅い理由のひとつはコスト。同規模公開の邦画と比較すると、音楽ドキュメンタリーは制作費がその数分の1で済む。また、CDセールスやライブ動員、ファンクラブ会員数など、アーティスト周りは指標が多く、売り上げも想定しやすい。
劇場にとっては映画ファンと違う層が来る上、公開直後の「初動が強い」のもメリット。今のシネコンは観客数で上映回数を調整するため、一定期間に客が集中する作品は歓迎されるという。「普通の洋画だと5%程度のパンフレットの購入率が、2~3割に達することも珍しくない」(古澤氏)など、グッズの売り上げも期待できる。
東宝ではSEKAI NO OWARIやバンプ・オブ・チキン(共に2014年公開)など、ドームやアリーナでライブができるクラスを中心に手がけてきた。2016年も1月29日にNMB48とHKT48、2月12日に三代目J Soul Brothersが公開。RADWIMPS(3月11日公開)も控える。
クラウドファンディング型も
一方で、コアなファンを持つアーティストの作品も増えている。10年に『劇場版DIR EN GREY』で参入、キャリアが長く根強いファンを持つアーティストを手がけてきたのがプレシディオ。15年は結成20年を迎えたハードコアパンクバンド・BRAHMANの『映画ブラフマン』を製作。メンバーとの親交が深い、CMクリエイターの箭内道彦氏が監督を務めた。
バンドはアリーナを埋める動員力を持つが、地上波の音楽番組などには出ないため、一般的な知名度は必ずしも高くない。しかし、本作を手がけた同社宣伝部の亀山登美氏は「ファンの熱度が高いため、いける自信はあった」と振り返る。実際、宣伝をするからチラシを送ってくれという問い合わせが200件以上も来るなど、ファンが自発的に応援。公開は12館で始まったが満席が続き、最終的には33館まで拡大。約2万人を動員した。
2月からはパンクロックバンド・SAを追った『劇場版SA サンキューコムレイズ』を配給している。1984年に結成、知る人ぞ知る存在だった彼らが、2015年7月に初めて日比谷野外大音楽堂で公演。そのライブに密着した作品だ。同社宣伝部の南野修一部長(当時)は「本当は日本武道館を埋められるくらいのアーティストでないと、劇場公開作品までは作れない。しかし、あのライブは伝えるべき意味があると考えて、何とか形にしたかった」と語る。
そこで、一般から出資を募るクラウドファンディングを活用。300万円を目標にスタートすると、彼らの熱狂的なファンが1口500円から最大20万円まで出資。最終的に700万円を超えたという。
熱度の高いファンがいれば、今はこうした手法も使える。題材にできるアーティストの幅が広がることで、音楽ドキュメンタリーの隆盛はまだまだ続きそうだ。
(日経エンタテインメント! 山本伸夫)
[日経エンタテインメント! 2016年2月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界