憧れの郊外、迫る限界集落 再生、住民だけでは困難

横浜市の庄土地区は美しい街並みの住宅街だが、高齢化が進んでいる
横浜市の庄土地区は美しい街並みの住宅街だが、高齢化が進んでいる

かつてサラリーマンが憧れた郊外の住宅地に超高齢化の波が押し寄せている。都会の限界集落となるのか、再生への道を探すのか。街は岐路に立っている。

山を切り崩して造成された坂の街に、整然と家々が並んでいる。南向きで2階建て、擁壁で囲まれた庭には樹木が見える。JRの駅からバスでおよそ20分。横浜市の庄戸地区に1300戸を超す住宅が供給されたのは1970年代後半のことだ。「当時ここは理想的な住宅地だったんです。入居した多くは1時間以上かけて都内に勤める会社員でした」。40代で入居した西川公久さん(80)は振り返る。

去っていった「2世」

静かな環境と美しい街並みは今も変わっていないが、住む人は老いた。約3200人の住民のうち50%近くが65歳以上で、全国平均の26%を大きく上回る。地域のスーパーは撤退し、2015年には中学校が廃校になった。バブル期には1億円をつけた家も資産価格は下がり続けている。地元不動産会社は「ここ2年で急落した。今は2500万円でも売れない」という。街に住む70代の女性は「バス停からの坂道がつらい。都心に移りたいが家が売れるのか……」と不安を口にする。

高度経済成長期に重なる1960~70年代。持ち家政策の下で郊外に大量供給された家に、同じ世代が一斉に入居し街を形成した。そこで育った「郊外2世」たちは街から去り、新たな住民を迎えぬまま高齢となった親だけが残る。住宅政策に詳しい神戸大学の平山洋介教授は「男性が稼ぎ、主婦がマイホームで子育てするモデルへの憧れが消えた。共働きや単身者が増え、駅や職場に近い家を望むようになった」と価値観の変化を指摘する。

同時期に郊外で整備された東京の多摩ニュータウンや大阪の千里ニュータウンも高齢化が進んだが、最近は集合住宅の建て替えで若い世代が流入している。駅が近く都心に通いやすいためだ。一方、戸建て住宅地は子育て環境を重視して整備されたため駅から遠いケースが多いことや、管理組合がなく合意形成が難しいことなどから再生へのハードルは高いとされている。

「憧れの住宅地」ゆえの苦悩もある。敷地を分割して売れない、店舗を地区につくれないなど景観を守るための制限が、若い世代の入居を阻む壁となる。西武グループが70年代に開発した埼玉県所沢市の「松が丘」も美しい住宅地だが高齢化が進んでいる。地域独自の景観ルールの見直しに取り組むものの、「今の環境を守りたい」という住民と「若者を呼べるよう規制を緩めるべきだ」という住民で真っ二つに割れているという。

市が企業に依頼

住民だけでは打つ手を見つけられぬ現実の中で、動き出した自治体や企業もある。

京阪神のベッドタウンとして発展した兵庫県三木市。人口約8万人のうち3万人以上が新興住宅地に住む。中でも70年代に約3400戸が造成された「緑が丘」は65歳以上が4割近い。都心に通勤に出る人が減り、地元鉄道会社の経営も悪化している。危機感を抱いた市は昨年、大和ハウス工業に再生を依頼した。

大和ハウスも「売って終わり」ではもはや成長は見込めない時代。地域内で住み替えられる高齢者施設をつくり、空いた土地に若い世代向けの住宅をつくることなどを検討しているという。まちづくりに詳しい横浜市立大学の斉藤広子教授は「欧米では街の価値を向上させる意識が企業も住民も高い。日本も行政や企業と一体となって再生に取り組む必要がある」と話す。

街を去った郊外2世が首都圏でつくる新たな街も、なにもしなければ30年後には同じ道をたどるかもしれない。街を一世代で消費し続けるのか。持続可能な街を創るのか。老いる郊外は未来にも問いかけている。

   ◇    

「駅近くがいい」「維持が大変」…若者の心、どうつかむ

ツイッターでは郊外の不便さを指摘する声が多い。「交通費が高いからってバイト断られた」という人や、大雪が降った際に「駅の近くに住みたいって思う」という郊外住民の声もあった。「実家が郊外で不便だったんよ。大人になったら街中に住もうと決めてた」という人もいた。

家についても「我が家は郊外戸建で、売れないし売っても二束三文」「一人で維持するのは大変ですよぉ」など維持の負担が増している様子がうかがえた。

一方、「郊外の一軒家で周り気にせず大音響ホームシアター構築してえ…」「郊外の安めな一軒家でルームシェアしたい」という前向きに捉える意見もあった。若者の価値観に合う環境を整えれば郊外再生の可能性はありそうだ。調査はNTTコムオンラインの分析ツール「バズファインダー」を用いた。

(福山絵里子)

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